039 ターエンの攻防
「・・・簡単すぎる?」
大斧を振り回し、反乱軍の兵士達を薙ぎ倒したサウスマギアは、あまりの手応えのなさに、思わず言葉を漏らす。
いつも戦っているアリスと比べれば、目の前のただ棒きれや古びた剣を持っている反乱軍達が相手になるはずもないが、サウスマギアの言いたい事はそれではない。
サウスマギアが気にしているのは、相手側の戦闘意識のなさだ。
確かに武器を持って、人数に物を言わせて津波のように襲いかかって来るが、それだけだ。
もっと組織立った反抗を考えていただけに、暴徒のような主義主張のない勢い任せの相手の行動に、サウスマギアは首をかしげるしかない。
反乱とはこんなものなのか?
この戦いが、実質的に初陣であるサウスマギアには、判断が付かない。
自分の実力がアリスに遠く及ばない事は、何度となく戦って知っているが、それでも、これぐらいの相手なら自分と今率いている兵達だけでも問題はない。
ターエンの街の防壁はさほど強力と言える物ではなく、土の魔法の効果が発揮できる道具を主体に、兵士達に土壁を作らせて強化している。
城門は古いが、がっしりとした木製の分厚い板を二枚重ねた物で、簡単に破られる物ではない。
領主の館がある街の北側と、庶民が暮らす南側を区分けする中門に、外と街を分ける正門がある。
サウスマギアとホルストは二手に分かれ、正門の裏に詰めており、反乱が起こったと同時に雪崩れ込んで来る敵を迎え撃つ。
そうしておいて、アリスが戻って来るまで耐える。
領主の支配下にある駐屯兵は温存しておき、アリスが率いて来た兵だけで対応する。
そうすれば、アリスが活躍する場面が増えるため、リーヴェが気を利かして、サウスマギアやホルストにあらかじめ相談して決めていた。
だが、そんな取り決めが無駄になるくらい反乱軍は弱く、人数は倍以上違うのに、サウスマギアとホルストの二人の軍だけで鎮圧してしまいそうな勢いだ。
このまま鎮圧してしまってもいいのだろうか?
そんな事をすれば、アリスの機嫌が悪くなるの間違いない。
よそ者であるのにもかかわらず、快く面倒を見てもらっている身としては、雇い主の機嫌を損ねるのは問題だ。
自分には、プレタダ侵攻の大義名分になる価値があるだろうが、それ以外の価値も作り出しておかなければ、一緒にプレタダから来たレヴェルやエマ達に抜き去られてしまう。
レヴェルは多彩な文官として、エマは兵を率いる才能を発揮し、カロッサは家事もこなし、アリスの部隊の兵糧担当として裏方から支えている。
強いだけではダメで、アリスの下で活躍するためには自分の立ち位置をはっきり作り上げる必要がある。
アリスが、バエン王国の中でどの地位を求めているかは分からないが、これ以上に大きな部隊を率いるのには、優秀な手足、優秀な指揮官が必要になるはずだ。
そのアリスに求められるだけの優秀な指揮官になり、自らの地位を確固たる物にしなければならない。
「フンッ!!」
お粗末ながらも鎧を着けた男達三人を大斧を振るって吹き飛ばすと、サウスマギアは敵の弱さ以上に、不可解な事に気づく。
「おい。サウスマギア」
「ホルスト」
相手の勢いを確実に殺し、反乱軍の抵抗を弱弱しいものに変えて行っている部下達の様子を見ていたサウスマギアは、そばによって来たホルストに声をかけられる。
「アリス様はどうした?いくらなんでも遅すぎないか?」
「今、私も考えていたわ。アリス様が戦場に遅れるなんてありえないものね」
同じ事を気にしていた様子のホルストの言葉に、サウスマギアも自分が気になっていた疑念を口にする。
反乱の火の手が上がれば、グラゾフに向って街道を進んでいたアリス達は引き返し、反乱軍を後ろから叩く手はずになっていた。
しかし、アリスは想定されている時間になっても戻ってこない。
相手が弱い事を差し引いても、これ以上時間を稼げないし、被害を出さないようにするためには兵士の負担が大きくなる。
「戻れない理由があるのかもな」
「戻れない理由?」
ホルストの言葉に、サウスマギアは思考をめぐらせる。
「まさか、アリス様達が襲われている?」
「その可能性も否定できないだろ。いくらなんでもこれじゃ相手が弱すぎる。
それに、グラゾフの貴族らしい奴がいない」
「じゃぁ、こいつらはおとりと言う事?」
そう考えれば確かに合点が行く。
弱すぎる反乱軍に、戻って来ないアリス達の事を考えれば、目の前の相手は単なる足止めで、アリス達本体が狙いの本命だとすれば、反乱が単なる暴徒程度の規模である事も納得がいく。
「私は、アリス様の下へ急ぐわ」
「そうしてくれ。俺はこっちを片付ける」
「わかった。任せるわ」
ここでアリスを失えば、バエンで自分の地位を作るどころではない。
サウスマギアは慌てて自分の部下になっているナイジェルに声をかけ、兵士達を呼び集めさせると、暴徒を蹴散らし、街道に急ぐ。
「アリス様が負けるとは思えないけど」
人間離れしたアリスの戦闘力を知っているので、アリスが敗れるとは思えないが、部下である者達はそうは行かない。
自分が連れて来たエマやカロッサに、何かあれば申し訳ない。
惨めにも他国に落ち延びる道を選んだ自分に、何も言わずについて来てくれた二人だ。
今となっては、家族より大事な相手かもしれない。
とにかく二人は自分が護るのだ。
それが自分について来てくれた二人に対する、自分から送れる感謝の気持ちだ。
と、胸の内で、二人に感謝しているサウスマギアは、馬にも乗らず、大斧を担ぐと、部下達の先頭に立って街道を走り始めた。




