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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
25/102

025 逃避行


「これは思ったより、大変だなー」


 御者台に座ったレヴェルは、馬車の制御しながら、困ったように呟く。


 前もって風の精霊達から、野盗の集団がいる事は聞いていたが、実際に追いかけられてみると逃げるのは大変だ。


 ただ、たとえ追いつかれたとしても、それを打破する力はあるので、レヴェル自身はそこまで大変だとは思っていない。


 大変だと思っているのは、後ろにいる同行者だ。


「困っている場合じゃないわよ。どうするの」


 西部劇に出てくるような幌馬車を操りながら走らせるレヴェルに、幌の内側から顔を出したエマが大声で叫ぶ。


「向こうは騎馬だから、確実に追いつかれるね」


「何で、そんなのん気なよッ!?」


 相対速度と、こちらと相手の重量差を頭の中で鑑みて答えを出したレヴェルに、エマが驚きの声を上げる。


「まずいわ。弓は無いの?」


「矢だけは、結構たまってきたけどね」


 後ろから飛んで来る矢が御者席に刺さっているのを見ながら、レヴェルは遠まわしにエマに弓などは積んでいない事を教える。


 この荷馬車は、プレタダからタナケダに雑貨などの荷物を運ぶように申請して出発している。


 護衛用の剣などはともかく、槍や長弓などの目立つ武器は、戦時中においては出発時に目を付けられる恐れがあるため積んではいない。


「何とかなら無いのですか?レヴェル」


「もう少しで国境なんですけどね」


 エマの後ろから身を乗り出すように顔を出して来たサウスマギアに、レヴェルは飛んで来る矢を恐れる様子もなくのん気に答える。


「こ、このままでは、お、追いつかれます」


 幌馬車の後部から後ろを見ているのか、カロッサのおびえを含んだ震えた声が聞こえて来る。


「ふむ。まずいと言われれば、まずいか」


 今、レヴェルが何をしているかといえば、アリスの待つタナケダに、サウスマギアを案内する役目を果たすために馬車を走らせているところである。


 降伏に混乱する王都から、サウスマギアを連れ出すのは簡単な事だった。


 サウスマギアに侍女の格好をさせ、城で働く下働きの一人のようにみすぼらしくさせていれば、誰にも見咎められずに城中から出る事は容易い。


 後は、サウスマギアとエマには大きめの木箱に入ってもらい、背の高いカロッサは絨毯で巻いて詰み込みしてしまえばいい。


 同じようにナステト王国に、サウスマギアの母である王妃と弟を逃がした。


 ナステト王国は王妃の生家であり、焦ってサウスマギアが援軍を呼び寄せたのが逆に役に立ち、国許に帰る援軍に紛れ込み、王妃達も王都から脱出できた。


 王家の者を分散させておけば、血脈を保ち、チャンスが巡ってくれば王家を再興する事ができる。


 それを考え、レヴェルは別れて逃げる事を提案した。


「追手じゃないみたいだけど、追いつかれたらまずいのは変わらないわよね」


「ええ。おそらく、私は殺されて、お三方は悲惨な末路になるでしょうね。

 どう見ても野盗の類ですからねぇ」


 飛んで来る矢を避けながら、御者台から後ろを覗き見たレヴェルは、迫って来る後ろの騎馬達の格好が不揃いの上に小汚い様子を見て、そんな感想を漏らす。


「冷静すぎでしょ。何かいい考えは無いの?」


 クローツ伯爵領からずっと共に行動しているためか、ずいぶんと話し方が砕けてきたエマは、レヴェルにいいアイデアを出すように言って来る。


「それこそ、魔法でも打ち込めばいいのでは?エマ殿は魔法もお得意とか」


 今まではセルパ様と呼んでいたレヴェルだったが、サウスマギアについて国を出る覚悟を決めたエマに、家名では呼ばずに名前で呼びなさいと言われたせいで、エマ殿と呼ぶようにしている。


「私もやるわ。エマ。合わせましょう」


 エマに出した提案だったが、決定権はやはり王女であるサウスマギアが握っているようで、エマの肩を叩くと幌馬車の後ろに向う。


 レヴェルとしては、サウスマギアとその身の回りをする侍女ぐらいを連れていけばいいと考えていた。


 しかし、王女の選択は身の回りをする者より、親しい部下であるエマやカロッサだけを選択して連れて来た。


 自分の身の回りの世話をする者より、国家再興のために役に立つ者を優先すると言うサウスマギアの考え方は、豊かな生活をするよりも、必ずプレタダに戻ると言う強い意志を感じさせるものだった。


「はい。王女殿下」


 サウスマギアの決断に従う旨を伝えると、エマもその隣で、同じく風の精霊の力を借りる魔法を唱え始める。


「カロッサ様。この道であってますか?」


「え、ええ。だ、大丈夫です。ま、間違いないです」


 集団のど真ん中に竜巻を発生させ、野盗達を吹き飛ばしている戦闘は背後の者に任せ、後ろを王女とその騎士に場所を譲って前に来たカロッサにレヴェルは道を尋ねる。


 あいかわらず、異性が苦手な様子のカロッサの返事はつっかえつっかえだったが、その言葉そのものは自信に溢れている。

 

 輸送を任される仕事をしていただけあって、カロッサの頭の中にはプレタダを含んだ大陸の道が記憶されている。


 その中で馬車が通れる、街道から外れた、人通りの少ない、人目につかない道をカロッサに聞いたレヴェルは、迷わずその道を選択した。


 カロッサが自信を持って勧める道なら、間違いないだろうと考えたからだ。


 しかし、結果的には、どこからともなく現れた野盗に追われるという結果になっている。


「お」


 誰か波乱万丈な人生を歩む事を運命付けられている者がいるのだろうな。と考えていたレヴェルの目に、道の端に馬にまたがった人物がいるのが見えた。 


「さすが、アリス様。完璧なタイミングだ」


 黒く大きな八本足の馬にまたがった、短い槍と長い槍を両手に持った金髪の少女。


 バエン王国の四女、アリス・フォン・マクトハルトの姿をレヴェルはまぶしいものを見るように目を細めて見る。 

 別にレヴェルは、この道を通る事をアリスに伝えていない。


 それどころか、アリスには、プレタダ王国で潜入工作することすら伝えていない。


 まったく連絡をつけていないのにもかかわらず、この最高のタイミングで姿を現したアリスとは、やはり、何か不思議な縁があるのだろう。


「“先駆け飛龍”の力。見せていただきましょうか」


 トン。と、馬の腹に足を当て、愛馬をスタートさせたアリスは、鎧を着る事もなく、両手に槍を持ち、金髪の髪をなびかせ野盗の群れに向って行く。


 そのアリスの姿を笑って迎え、レヴェルは馬車の速度を落とす。  


「あら。もちろんよ。そこで見ていなさい」


 ほとんど呟くようなレヴェルの言葉だったが、それでもアリスの耳に届いたのか、すれ違い様に笑みを返す。   

「え、え?。あ、あれは、も、もしかして?」


「うん。バエンの第四王女様だね」


 アリスの姿を見て驚いているカロッサに、レヴェルは簡潔に説明する。


 おそらく、アリスがどこかで出迎えに来てくれるだろうと言う事は、レヴェルには分かっていた。


 だから、こそ、人目につかない道を選び、アリスが気晴らしになり、さらに、同じ王女のサウスマギアの出鼻をくじくような活躍が見せられるように、わざわざ野盗を引き連れて来た。


 エマもカロッサも気付いていないようだが、追いかけて来ている野盗達は、元々はプレタダの貴族達だ。


 士官学校時代にカロッサに嫌がらせをして、ストラスに追い出された貴族やその部下の者達だ。


 精霊達の噂で、野盗に身を落とし、相変わらず業を重ねていたようだが、まさか、こんな所で再会するとは、レヴェルも思ってはいなかった。


 陰極まって、陽に転ず。


 とは言うが、悪い事を続ける者には、やはり、悪い事が重なり、浮かび上がる事はできないのだな。と、レヴェルは、おろかな貴族達の姿を反面教師として生かす事を心に刻む。


「レヴェル。武器はありませんか」


「そこに剣がありますが。無理はされない方が」


 野盗の群れの中に飛び込み、右手に持った長い槍で相手を殴り飛ばし、左手に持った短い槍で相手を突き刺しているアリスの活躍に刺激されたのか、サウスマギアが武器を求めて来る。


「大丈夫です。私も、それなりに武芸には自信があります」


 負けず嫌いで、反骨心に溢れるサウスマギアの言葉に、その性格を聞き及んでいるレヴェルは、荷物の下に隠していた剣を指し示す。


「カロッサ殿は、どうします?」


「い、いえ。私は、遠慮します」


 一応、一本剣が余ったので隣に残ったカロッサに聞いてみたが、慌てた様子で首を振る。


 日頃のストレスのせいか、嬉々として剣を持って飛び出していったサウスマギアとそれに従うエマの姿を見送り、レヴェルは三人の少女の活躍を見守った。

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