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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
20/102

020 降伏


「お久しぶりです。サウスマギア王女殿下」


 久方ぶりにタナケダ王国からプレタダ王国に戻ったレヴェルは、王宮のはずれにある離宮でサウスマギアに面会してた。


「ええ。貴方も元気そうで何よりだわ」


「この命があるのも、サウスマギア様の御助命あればこそ。ならばこそ、この窮地にお力添えを。と思った次第にございます」


 二人の共通の知り合いであるカロッサを介して連絡を取り合った二人は、敵の侵攻に備えて防備を固めている王宮から少し離れた場所にある離宮で顔を合わせている。


 王族が政務の合間の息抜きに使われる離宮は、書籍や娯楽が充実しているが、今は誰も使う者はいない。


 そのため、プレタダ王国においては罪人であるレヴェルがいても人の目に付く事は無い。


 サウスマギア側としてもおおっぴらに部下でも無いどころか、罪を問われた上に脱獄逃亡した相手と会う事ははばかれる。


 サウスマギアもカロッサと共に、数名の取り巻きしか連れて来ていない。


 ラジールフは王城の護りのために各部署を回っているため連れて来ていないし、知られせてもいない。


 レヴェルの事を多くの者に知られるのは問題があるし、頑固者のラジールフがいれば話がややこしくなる。と言う思考がサウスマギアに働いたのもある。


「それで、話と言うのは?私を助けてくれるの?」


「ええ。実際の効果を得るには時間がかかりますが、それでもよろしければ」


 カロッサをそばに伴い、護衛の女騎士二名を背後につかせたサウスマギアは、イスに座ったままひざまずくレヴェルに身を乗り出すようにして尋ねる。


 北の防備も破られ、西からもコストア軍が再度侵攻を始め、南もガストル軍が優勢に戦闘を進めている。


 この状況を打開できるのなら、たとえ悪魔と契約してでも何とかしたいとサウスマギアは考えている。


「いいわ。それで?」


「王女様は、王の座に座る事をお望みでしょうか?」


「は?」


 そんなわらをもすがる気持ちで尋ねたサウスマギアに、落ち着いたゆったりとした口調でレヴェルは再度尋ねる。


 気勢をそがれるようなレヴェルの質問に、思わずらしからぬ声を上げてしまったサウスマギアは、気まずさを誤魔化すためにひとつ咳払いをすると、視線だけで相手の真意を探る。


「大事な質問なので、お答えいただけるとありがたいのですが」


「今のプレタダには、私以外に王の座に付ける者は居ないわ」


 父が死んだ以上、形だけでもまだ継承権があるストラスが継ぐと言う選択肢はある。


 だが、部下を助けず、今また敵に捕らえられるなどと言う失態を犯したストラスを王位と言う者は少ないだろう。


 弟もいるが、まだ幼い上、今のプレタダ王国を指揮しているのは自分だと言う自負があるため、サウスマギアは自信を持って答える。


「ストラス様のように迷いませんか?」 


「迷うようなら、貴方には会わないわ」


「なるほど」


 迷いなく決断を下したサウスマギアに、満足そうに頷くとレヴェルは、胸元から自分で書き上げた地図を出す。


「まずは、王女殿下には、ご決断いただきたい」


「決断?」


 カロッサを仲介して渡された地図に視線を落としながらサウスマギアは、レヴェルの言葉の意味を図りかね、眉をひそめる。


「コストアに降伏するか、ガストルに降伏するか。そこから始めましょう」


「この状況を打開する策は無いの?」


「傾いた建物を直すより、一から建て直した方が早い場合もございます」


 降伏すると言う単語に眉をひそめたサウスマギアに、レヴェルは事も無げに告げる。


「降伏する相手が違うと、何が違うと言うの?」


「コストアに降伏すれば王女様は幽閉されるでしょう。ガストルに降伏すれば従属国としてコストアに対する盾として使われるでしょう」


「幽閉だけですむかしら?」


「コストアは、かつてのグラリア王国の子孫に領土を取り戻すと言う大義名分を掲げています。

 サウスマギア様が素直に降伏すれば、コストアはそれ以上の事を求めないでしょう。

 君主であるクルセアは、自分に従う者には非常に寛容です。

 門を掃き清め、宝物庫に鍵をかけ、礼装にて使者を迎えれば、必ずサウスマギア様のお命は補償されるでしょう」


「ガストルに降伏するとどうなるの?」


「ガストルは、プレタダと同じくグラリア王国の血を引く王国になります。

 今はコストアの誘いに従っておりますが、決してコストアの支配を望みませんでしょう。

 ガストルと和解し、ガストルに従い、コストアに対抗する尖兵として戦う事を誓えば、計算がお好きなビーバッフ王は手の平を返して、サウスマギア様に力添えをしてくださるでしょう」


「・・・どちらも屈辱的ね。そして、どちらも独立勢力としては言えないわ」


 レヴェルの説明を聞いて、サウスマギアはプレタダの置かれている状況に改めてため息をつく。


 王の座について始めにやる事が降伏文書に署名する事など、あまりに情けなく、屈辱的だ。


 しかも、かたや幽閉され、かたや従属されこき使われるなどとなれば、それを屈辱に思う者はサウスマギアだけではなく、仕える貴族達にも出るだろう。


 そういった部下の暴発を若いサウスマギアは抑える自信が無い。


 裏切った貴族達がいる中で、いまだプレタダ王家に従って戦っている者達もいるのだ。


 従属する事にサウスマギア自身が耐える事ができても、それを不満に思う貴族達が出るかもしれない。


 不満が出るだけならまだしも、そこから反乱でも起こるような事になれば、大変な事になる。


 その貴族の反乱にかこつけて、プレタダ王家の者が処刑される口実を与える事になりかねない。


 戦って死ぬならまだしも、巻き込まれて死ぬなどと言うの死に方は遠慮したいと、サウスマギアは考える。


「どちらにも降伏しないと言う選択肢は無いの?」


 ため息をついた後、顎に手をあてしばらく考え込んでいたサウスマギアだったが、おもむろにそう尋ねる。


 レヴェルの考える予想が当たっているかどうかはわからないが、コストアにもガストルにも従わない方法があればサウスマギアは聞いておきたかった。


「ありますが、それは辛いものになりますよ」


「構わないわ。降伏して屈辱にまみれるなら、シラムの故事に習う方がいいわ」


「なるほど。さすが、サウスマギア様」


 シラムの故事とは、数百年の昔、己の国を追われた王子シラムが、大陸中を転々と回りながら十五年後に奪われた自国を取り戻し、王になったと言う逸話だ。


 たとえ国が滅びようとも、どれほどの時間がかかろうとも、必ず自らの手でプレタダ王国を建て直してみせるとサウスマギアは考えている。


「ならば、他国に亡命する準備をいたしましょう」


「ツテはあるの?」


「もちろん。一時はプレタダの地を失う事になりましょうが、必ず、サウスマギア様をこのプレタダの地にお連れしましょう」


 思案顔のサウスマギアに笑みを浮かべて見せると、レヴェルは深く頭を下げた。






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