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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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018 遠征軍


「何。北に我が軍が?」


 部下からの報告に、コストア軍方面司令官のメディウスは、支配地域から上がる報告書から視線を上げる。


「は。“羽の生えたトカゲ”の旗印が確認されましたので、モンテーロ伯爵かと」


「・・・一月早いな」


 コストア軍を示す灰色の軍服を着た部下の報告に、メディウスはコストア国の屋台骨を支えるセルシスとの打ち合わせを思い出す。


 タナケダを通り、西の貴族達を寝返らせ、プレタダの王都を突き、プレタダの敗残兵をガストル軍と戦わせ、さらに総攻撃を仕掛け、ガストル軍を追い出す。


 味方の被害も大きくなるが、率いている部隊は子飼いの兵以外はすべて、コストアの現女王クルセアに逆らった者達だ。

 

 何人死んだところで問題が無い。


 どちらかと言うと、死んでもらわなければ困る。


 切り取り自由などという謳い文句でプレタダ遠征に参加させているが、クルセアに本当に領地を分け与える気など無い。


 よほど活躍して名をあげ、クルセアに死ぬ気で忠誠を誓うのなら考えられるかもしれないが、あの疑い深いクルセアに認められるなど、よほどの事がなければ難しい。


 メディウスにしても、セルシスの口利きが無ければ、この地位にはいない。


 セルシスから、優秀であり、利用価値の高い人物であると言う口利きがあればこそ、クルセアからメディウスは遠征軍の司令官と言う立場を与えられている。


 その上、メディウスの家族は、人質としてコストアの王都に住まわされている。

 

 主を変えた以上、メディウスに裏切るつもりはない。


 しかし、そうかと言って、クルセアに認められるのも難しい。


 とりあえず、メディウスとしては、セルシスとの打ち合わせどおり動き、働きを認められるしかない。


「ワテス殿が来られたとして、セルシス様は来られていないのか?」


「旗印は、モンテーロ伯爵を中心としたものになっているそうです。

 “黄金の鷹”の旗印は無いそうです」


「なるほど」


 部下の報告に、メディウスはドワーフ族らしい豊かな白髭をしごきながら頷く。


 ドワーフ族としては人一倍体が大きく頑強なメディウスは、自分とは正反対なひょろ長い背丈のハーフエルフの姿を思い出す。


 クルセアが自分に従わない一族討伐に乗り出した時、真っ先にその旗下に加わり、クルセアの信任を受け、その先鋒を務めていた。


 兵を率いるのがうまく、時流を読む能力に長けるワテス・モンテーロ伯爵は、おそらく、セルシスを除けば、一番クルセアの信頼が厚い人物だ。


「セルシス様が来ていないのなら、こちらも予定通りだ」


 セルシスが戦場に姿を現すことはまれだが、敵に痛打を与える時や、作戦に齟齬が発生した場合は、自らが陣頭指揮に当たる場合がある。


 そのセルシスの旗印が無いと言う事は、打ち合わせ通りに事を進めろと言う事なのだろう。


「ガストル軍が動くのに合わせるか」


 報告書を脇にどけ、地図を部下に持ってこさせ、メディウスはそこに視線を落とす。


 ガストル軍の位置は、逐一調べさせ把握している。


 しかし、ガストル軍がプレタダの王都にたどり着くまでには、まだ時間がかかる。 


 ほとんどの貴族はあっさりと反旗を翻したが、頑強に抵抗を続けているプレタダに忠誠を誓う貴族もいる。


 そのせいでガストル軍の侵攻は、遅々として進んでいない。


 ガストル軍を有効に使う作戦には、少々、時間がかかりそうだ。


「それとも、犠牲を覚悟して、あの城を落とすか」


 王都に向う直前で立ち塞がったエルフの少女の姿を思い出し、メディウスは眉間に深いしわを寄せる。


 交通の要衝を任されたエマの活躍は、メディウスの計画を狂わせるものだ。


 ちょうど西側から王都に続く道を塞ぐように存在するクローツ伯爵領が誇る城、ワイナットアープ城は、三本の川が天然の堀になり、標高三百メートルの山をすべて城塞化した強固な防衛ラインだ。


 クローツ伯爵だけであれば、兵の数も少なく、その指揮能力に不安があったため、メディウスは一気に落とせると考えていた。


 しかし、増援に派遣された少女は無名ながらも見事な統率力と指揮を見せ、昼夜問わずのコストア軍の猛攻を三週間粘りに粘り、一時的にとは言え、引き上げさせるまでにいたった。


 降伏したプレタダの貴族達から集めた情報によると、セルパ侯爵家の一人娘で、今期軍学校を卒業したばかりの新鋭らしい。


 その能力は認められるが、軍学校を出たばかりの若手に頑張られてはメディウスの立つ瀬がなくなる。


 それにプレタダ王国の若手が奮戦すれば、寝返った貴族の中からも触発されて、心変わりしてくる者が現れる可能性もある。 


 裏切る者は、何かあれば、すぐ裏切る。


 主君であるクルセアが、モットーにしている言葉だ。


 それでなくても貴族は、自らの土地に執着し、固執するきらいがある。


 自らの生まれ故郷である土地を護るためなら、何でもするのが貴族である。


 それを利用して裏切らせたり、裏切ったりするのが貴族の常套手段になる。


 しかし、それを許さないのが、コストアの女王クルセアだ。


 裏切った者や従わない者は徹底的に叩き、戦える者は戦地に、戦えない者は奴隷として売り払って、先祖代々の土地を取り上げる。


 メディウスをはじめ、ここにいる元貴族達も全員そうであり、家族と引き離されている。


 家族が王都にいる。と確かに分かっている者は、メディウスを含め少数しかいないのだ。


 それ以外の者は、家族が生きているのか死んでいるのかも分からない。


 家族の命を護るためには、クルセアに従い、その忠節を命をかけて示さなければならない。


 だが、ここで裏切ったプレタダの貴族達は、そこまで徹底されていない。  


 もし、何かあり、プレタダ側に有利になれば、風に吹かれた柳の枝のように簡単に向きを変えるだろう。


 それを押さえるためにも、自軍の兵士をこれ以上減らすわけにも行かない。


 エマの篭るワイナットアープ城を無視していければいいだが、よほどの遠回りでもない限り、相手に横腹をさらす事になり行軍には危険がある。


 城攻めのように後ろから指示を出しながら部下達の動きを見張れれば別だが、行軍中に横合いを突かれるなどすれば混成軍のため、士気が崩壊し、部隊が壊滅する恐れもある。 


 撤退の時に見せ付けられた見事なエマの追撃が、少なからずコストア軍に心理的圧迫を加えていた。


「やはり、これしかないか」


 ただでさえ、反クルセアの寄せ集めの軍に、新たに降伏したプレタダ貴族達から兵を抽出させる。


 その兵を使えば、味方の犠牲が少なく、プレタダ貴族の力を削ぐ事もできる。


 本来なら、指揮官は味方の犠牲を少なくするために思考を費やさなければならない。


 だが今回に限っては、犠牲者を多く出すように仕向けなければならない。


 その事に頭を悩ませながらメディウスは、再度、エマと矛を交える事を決めた。


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