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凡人は司書官を求む  作者: ナジャ
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012 侵攻


「レヴェルから、手紙が?」


「はい。私の元に」


 コストア王国の侵攻に備えて北の砦に詰めているストラスは、シャロンからの報告に驚き、慌てて席を立ち、手紙を受け取る。


「コストア軍が、タナケダ王国の領内をッ!?」


 他国の領土を通って侵攻して来る敵国の動向を示した手紙の内容に驚きながらもストラスは、傍らに控えるライルにその手紙を渡す。


「そんな事が可能か?タナケダ王国とて領内を通すなどリスクが大きいだろう」


 領国内に他国の軍隊を通すなど治安や外交保障の面から考えてもありえない話であり、通ったとしてもコストア王国の軍隊がプレタダ王国内で孤立する事になる。


 すぐに退却する事もできないし、プレタダ王国内で立ち往生すれば、周囲を囲まれ、引く事ができないコストア王国軍が全滅する事になる。


 その事を考えていないはずもないだろうし、もし、仮にその作戦がうまく行くと考えられているなら、相手は相当プレタダ王国をなめているとしか思えない。


「そうですが、レヴェル殿の手紙によると、コストア王国側がタナケダ王国側の交通網整備に資金を提供し、さらに貴族同士の結びつきを強め、取り込んでいるとか」


「この短期間で、そんな事ができるのか?」


「いえ。この政策そのものは一年以上前から行われているそうです。

 それはすべて、現宰相であるセルシスの主導によって行われているとか」


「セルシスか」


 シャロンの報告に、ストラスはかつて国同士の交流の場で、同じ年として紹介された男の姿を思い出す。


 一度だけ会った事があるレパード家の嫡子、セルシス・イドル・レパードは、女性のように美しい絹のような長い金髪と深い知性を湛えた瞳が印象的な男だった。


 現女王であるクルセア・リヴィウス・カタヤイネンのお気に入りで、先代の宰相である祖父を蹴落として、宰相の職に付き、大きくコストア王国の方針を転換させた。


 女王派と元宰相派で行われた小競り合いを早々に解決させる事ができたのは、セルシス率いるコストアの若手チームのおかげで、若いながらも計画性と実効力に富み、若い女王の信頼も厚いのだとか。 


 レヴェルを重用した事により、半年の謹慎を言い渡されていたストラスは、自分との違いに肩を落とす。


 レヴェルの報告どおりにコストア、ガストルの両国の同盟が締結され、その事に驚いたサーキーンが、北の護りにストラスを回されなければ、いまだに王宮の一室で無為に過ごしていた事だろう。


 ただ、北の護りを任されたと言っても、実質的には左遷であり、ストラスが王都に帰る事はおそらく無い。


 王であるサーキーンに疎まれた以上、ストラスが次の王になる可能性は限りなく低い。


 いまだ王太子と言う立場は与えられているが、弟が大きくなればその座も変わるかもしれない。


 現状は、コストア王国とガストル王国の両国の侵攻に備え、内部分裂を避けるために王太子の座が動かされていないだけに過ぎない。


 その証拠に、コストアの侵攻に備えての増強であるのにもかかわらず、ストラス自体が今まで率いていた兵は数を減らされている。


「しかし、この手紙が、何故、シャロン殿に?」


「我が姪が、王都にて王女様の護衛を勤めています。その姪に知らせてはどうかと。

 一度、戦場を共にした友誼からと」


「・・・俺にはなしか」


 手紙を読んだライルの質問に、答えにくそうに答えるシャロンの言葉を聞いてストラスは深いため息をつく。


 レヴェルが棒打ちされるのを見届けた後、レヴェルの立てた計画書を最後まで読んだストラスは、その計画に目の前が暗くなるのを覚えた。


 自領地の貴族に対する態度が苛烈なサーキーンの元で、不満が高まっている貴族達の中には、他国の誘いに乗る者や反乱を考えている者もいる。


 その事はガストル王国の侵攻の際に、早々に相手に寝返る貴族が居た事からも分かる。


 そういった貴族達を糾合し、その力を合わせてサーキーンに退陣を求めれば、さほどの抵抗も無く抑える事ができるだろうと書かれていた。


 あの段階で最後まで目を通しておけば、頼りになると書かれていた貴族と相談するか、レヴェルを呼び出し、計画の概要を説明させればよかった。


 一人でも大丈夫だと軽く考えて行動した結果が、今のこの状況を生み出していると言っても過言ではない。


 刑が執行されるレヴェルを助けなかった以上、見捨てられたとしても仕方が無い。


「しかし、これは本当にレヴェルの手紙でしょうか?」


「どういう事だ?字は間違いなく奴の字だぞ」


 手紙を見返していたライルの言葉に、ストラスが疑問の声を上げる。


「手紙はどうやって、シャロン殿の元に?」


「はい。いつの間にか、机の上に置かれていました」


「手紙がレヴェルの物としても、これをどうやって陣中のシャロン殿の元に置いたのか。

 普通では考えられないと思いませんか?」


「しかし、レヴェル殿はあの地下牢から抜け出しております。

 何者かの加護を得ているのでは?」


 自ら疑問に思った事を口にするライルに、レヴェルの素性を調べ上げた事があるシャロンが反論する。


 今までで調べた範囲では、レヴェルはどこの国とも接触した様子は無い。


 それどころか、あの重症の体で地下牢から姿を消すとなれば、何か精霊の加護を受けているとしか思えない。


 この世界には、女神ルシアによって力を与えられた精霊の王達がおり、精霊の王に気に入られ、その加護を受けた者達がいる。


 おそらくレヴェルもそんな精霊の王達の誰かに気に入られた一人なのではないかと、シャロンは考えている。


 それであれば、地下牢からの脱出も、今回の手紙の件も精霊達の力を借りればたやすい。


「そうだとしても、確証はありません。ひょっとすれば、これはこちらを惑わす敵の罠かもしれません。

 タナケダ王国を通ると言う風に見せかけ、一気にワーミド山地を越えて来る。

 その方が、より現実的なのでは?」


 コストア王国とプレタダ王国の間には、ワーミド山地がまたがっており、その往来には決まった街道を通る必要がある。


 ワーミド山地には険しい場所も多く、軍隊の侵攻に適しているとはいえない。


 だからこそ、トゥーエ率いるわずかな手勢でも防衛陣をしっかり敷いて、対応できたのだ。  


「・・・トゥーエの話も聞いてみよう」


 ライルから上がる疑問に、答えを出しあぐねたストラスは、レヴェルを知っているトゥーエの名前を挙げる。


 トゥーエがどこまでレヴェルの事について知っているかは分からないが、トゥーエは戦場に生きて長い。


 自分より経験を持つトゥーエの話を聞く事は、答えに直接繋がらなくても、自分の経験になるとストラスは考えたのだ。


「お言葉ですが、戦況は刻一刻と変わります。ご判断はお早く」


「わかっている」


 手紙の真偽に疑問を持っているストラスに、王都にいる姪、エマが気にかかるシャロンは、黙って命令に従う普段の彼女らしくなく、意見を具申する。


 そのシャロンに頷くとストラスは、外にいた騎士に、砦の警備を任せてあるトゥーエを呼びに行かせた。


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