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食事を終えて、後片付けも済んだ四人は、食後のお茶を飲んでいた。
和が饅頭を食べながら話しを切り出した。
「でさぁ、春明の恋人探しはどんな感じなのかな?順調かな?」
春明と汐織は、一瞬びくっと体を跳ねあがらせたが、すぐに取り繕って、汐織が答えた。
「順調よ、春明も私が渡したノートをちゃんと読んできてくれるし。クラスメイトとの交流も前より自然にできてるみたいだし」
「なにより」と汐織が続けて、
「和ちゃんと檸檬ちゃんのおかげよ」と嬉しそうに言った。
和が照れながら答える。
「いやぁ、和なんて何にもしてないよぉ。春明くんの努力だよ」
春明は頬を赤くして、ぽりぽりと頭を掻いている。
そんな三人の様子を檸檬は、きょとんとした表情で聞いていた。
和はそんな檸檬の様子に気が付いた。
「そっか、檸檬ちゃん、春明くんの恋人探しの事知らないんだねぇ」
檸檬は興味津々といったふうに瞳を輝かせながら、こくこくと頷いた。
「…知らない、気になる」
檸檬は春明の方に身を乗り出す。
春明と汐織は顔を見合わせて頷き合った。
「実はね…」と春明が説明を始めた。
大学進学の協力の為に叔父が出した条件、つまり恋人をつくらなくてはいけないこと、春明が自分を社交的に変えたいということ、それらを春明は一通り説明した。
檸檬は、春明の話を爛々とした瞳のまま聞いていた。
春明の話が終わると檸檬は頬を上げて、
「…ちょっと失礼かもしれないけど…面白い」
和が笑いながら話に入る。
「でしょぉ、滅多にないよ、こんなシチュエーション」
汐織もくすくすと笑っている。
「皆、ひどいなぁ。僕にとっては笑いごとじゃないよ」
春明は頭を掻きながら困ったように笑った。
「…笑いごとじゃ…ないぞ」と和が檸檬の真似をした。
四人はどっと声を上げて笑った。
――恋人さがし…か。
春明はそう心の中で呟くと、笑い合っている三人の女子を眺めた。
「もうこんな時間!」
和が時計を見上げながらそう叫んだ。
ぐだぐだ世間話をしながらTVを見ていた他の三人も時計を見る。
「お風呂の準備しなくちゃ」
和はどたどたと風呂場へと駆けていく。
汐織は驚いた顔で話し始める。
「お風呂に入るの?春明もいるのに?」
汐織がぎゃあぎゃあと叫ぶ。
「こいつの後に湯船に浸かるなんて嫌だし、私たちが入った後の湯船にこいつが入るのも嫌!」
話し合いの結果、春明は一番最後にシャワーだけ浴びることになった。
しばらくして風呂場からアラームが聞こえる。湯船にお湯が満ちた。
和が汐織と檸檬の裾を引っ張って言う。
「ね、ね。三人で入ろうよ。多分、三人ならぎりぎり湯船に入れるよっ」
汐織は戸惑って和に答える。
「ごめん、今日はゆっくり一人で入りたいかな」
和はしゅんとして、項垂れた。
そんな和の様子を見て汐織は慌てて答える。
「ご、ごめんね、また今度一緒に入るからね、絶対だから」
和はぱぁっと顔を明るくして頷いた。
「絶対だよ、約束だよ」
そう言うと檸檬を、風呂場へと引っ張っていった。
風呂場から和のはしゃぐ声が聞こえる。
春明はそわそわして落ち着きがなく、和の芸術関係の雑誌を開いては閉じている。
そんな春明の様子を汐織は、じっとりとした目線で見ている。
汐織が沈黙を破った。
「…キモイ」と一言、言い捨てた。
春明が驚いた表情で振りむいて答える。
「しょうがないだろ、女子の家に泊まるなんて初めてだし…」
汐織はじっとりとした目線を春明に注ぐのをやめない。
「それじゃあ、恋人なんていつになっても出来ないわよ。堂々としていなさいよ」
「わ、わかったよ」
春明は座りなおすと、腕を組んでじっとする。
「それにしても」と汐織が話を切り出す。
「あなたも大分成長したわよね、堂島さんにも積極的に話しかけれるようになったし」
「ああ、そうだな、汐織のおかげだよ」
「と、当然よね。私がつくったノートを読んだんだから」
汐織は照れながら答えた。
「そうだな。あれを読んだら、恥ずかしいって気持ちも大分無くなってきたよ」
「あとは、あなた次第よね。もう一人でも友達もつくれるでしょうし…」
汐織は少し暗い表情になった。
「もう、私の協力もいらないかしら…」
春明が真面目な表情になってそれに答える。
「いや、そんなことない。まだ告白っていう大仕事が残っているし、二人の方が、一人でやる心強いし…」
「それに」と頭をぽりぽりと掻いて、続ける。
「俺たち、友達だろ。俺はそう思ってる」
汐織は春明の言葉を聞くと、耳まで赤くして慌てふためく。
「な、なに改まって言ってるのよ。馬鹿じゃないの」
春明はむっと表情をしかめる。
「な、なんでだよ。別に変な事言ってないだろ」
汐織はこほんと咳払いをしてから、落ち着きを取り戻す。
「ま、これからも協力してあげるわ。感謝しなさい」
汐織は揚々として春明に言った。
――まだ試したいことが沢山あるからね…。
汐織は心の中で呟いて、にやにやとしている。。
「あ、ありがとう」
春明は、くつくつと笑っている汐織を怪訝そうに見ながら答えた。
ふと風呂場の方からどたどたと足音が響いてくる。
寝巻姿の和と檸檬が、体から湯気を上げてリビングに来る。
春明は寝巻姿の二人を見上げる。
和はいかに女の子らしい、ふりふりとした寝巻だった。
檸檬は、スウェットのズボンに、上は白いTシャツだった。
湯上りの濡れた髪の毛と、シャンプーの香りが春明をどきどきとさせた。
和が体をくるりと回して、春明に見せつける。
「どうかな、春明くん?似合ってるかな」
「あぁ、とても似合ってるよ」
「あは、嬉しいなぁ」と春明に抱き着く。
春明の顔の下に和の頭がくる
シャンプーの香りが春明の鼻腔に満ちる。
湯上りの火照った体が春明にくっつく。
春明はどぎまぎとなって、手のやり場に困る。
和は春明からぱっと離れると、汐織の方へ駆けて行った。
「汐織ちゃん、次どうぞ」
「ええ、それじゃ、入らせてもらわね」
汐織はすたすたと風呂場へ向かった。
春明がシャワーを浴び終わった頃には、夜も大分深まっていた。
リビングでは女子三人が談笑していた。
三人は春木に気が付いて、一斉に振り向く。
「あ、春明くん上がったんだね」
和が見上げながら言った。
「皆で何を話してたの?」
三人はにやにやとした顔を見合わせてから、
「秘密」と声を重ねて言った。
「えぇなんでだよぉ」
と春明は苦笑いしながら言った。
和が目をこすりながら、欠伸をした。つられて汐織と檸檬も欠伸をする。
「…和ね、もう眠くなっちゃったの」
「そっかじゃあもう寝ようか」
「そうね、私も眠くなってきたわ」
檸檬も、まどろんだ瞳でこくこくと頷く。
「残念だけど春明くんは別の部屋で寝てね」
そう言って和は、春明を引っ張って別の部屋に連れていく。
引っ張らながら春明は汐織と檸檬に手を振りながら、
「汐織、堂島さん、おやすみ」
「…おやすみ」と檸檬は手を振り替えた。
汐織は軽く手を上げて答えた。




