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第17話 火曜と金曜の定期便

テツジンの試し打ちは、3日で答えが出た。


「モノは普通だ。だが約束の日に約束の量が届く。それが普通じゃねえ」


週200個・30ゼル固定・3か月の契約が結ばれた。仕入れはバルガの採掘プレイヤー3人から、週単位の買い付けで平均25ゼル。差は1個5ゼル。週に1000ゼルの、細くて切れない利だ。


契約は、連盟の中で勝手に増えた。


テツジンの隣の武具工房。その向かいの防具屋。調薬側からはミレイユが「祭りのときの草の契約、常設にしましょ」と自分から来た。彼女は祭りの稼ぎで本当に工房を借りていて、台所時代の3倍の釜が並んでいた。


「釜が3倍になると、草も3倍要るの。相場で毎週ひやひやするの、もう嫌なのよね」


「毎週300束、1束6ゼル固定でどう」


「5ゼル半」


「6。そのかわり品質で返品自由、摘み手も固定する」


「……6でいいわ。あなた、値切られると強いのね」


料理ギルドの食堂が3軒、干し肉と塩で続いた。ひと月後、契約は鍛冶5、調薬4、料理3の計12件になっていた。


面白いことに、営業をかけた契約は最初のテツジンの1件だけだ。あとの11件は、全部向こうから来た。商いってのは、1件目が一番高くつく。2件目からは、1件目が営業マンになる。


断った話も2件ある。1件は「相場が上がったら契約価格も上げてくれ」という虫のいい注文で、それは契約じゃなくてただの相場取引だ。もう1件は、量が大きすぎた。うちの仕入れ力を超える約束は、どれだけ儲かっても結べない。守れない約束は、在庫より重い借金になる。


そうなると、運び方が変わる。


1件ずつ届けて回ったら、時間がいくらあっても足りない。だから曜日で束ねた。火曜と金曜、朝8時にリーデンを出て、スターディア経由でバルガへ。馬車なら3時間半。馬車2台。護衛はユキハとガロ、それにガロのクラン仲間が二人。


定期便だ。


「荷台、半分空いてるな」とガロが言った。


「だから、他人の荷物も載せる」


定期便の空き枠に、一般プレイヤーの荷物を1枠10ゼルで載せる告知を出した。生産職が材料を送るのに、露店主が商品を移すのに、護衛付きの定期馬車は自分で4時間半歩くより安くて安全だ。転移門は1000ゼルで20キロ。うちは10ゼルで1枠30キロ。荷物の重い人間ほど、うちに来る。初週で40枠、翌週には100枠が埋まった。


初運行の火曜日、御者台の隣でユキハが妙な顔をしていた。


「変な感じ。護衛依頼って、いつもは1回きりでしょ。今日の依頼、『毎週火曜と金曜』って書いてあった」


「嫌?」


「ううん。……時間割みたい。大学の」


「定期便ってのはそういうものだよ。時間割どおりに走るから、みんなが予定を立てられる。遅れない、休まない、値上げしない。それだけで金が取れる」


「地味の極みみたいな商売」


「地味の極みは褒め言葉なんだ、この業界」


「知ってる。弓道も地味の極み。同じ動作を1万回やる競技だから」


「飽きない?」


「飽きる人は残らない。残った人だけが、1万回目に何か分かる」


「……定期便も、そうだといいんだけど」


「そうなるよ。あなた、飽きないタイプだもの。4時間半の街道を塩担いで歩く人が、火曜と金曜に飽きるわけない」


ガロは後ろの荷台で、他人の荷物の積み方に注文をつけていた。重い物は下、割れ物は毛布で仕切る、荷札は外向き。現場仕込みの荷役の知恵は、そのまま定期便の品質になった。


「大将、運賃1枠10ゼルは安すぎねえか。護衛付きだぞ。20は取れる」


「初年度は10でいく。定期便ってのは、荷物が集まるほど1枠あたりの経費が下がる商売だ。今ほしいのは利益率じゃなくて、荷物の量と『火曜と金曜はあの便』っていう習慣のほうだから」


「……先行投資ってやつか。現実のうちの会社にも聞かせてえよ、その話」


値上げはいつでもできる。客の習慣は、あとからじゃ買えない。


講義で習った言葉なら、規模の経済だ。馬車1台を走らせる費用は、荷が10枠でも100枠でもほとんど同じ。馬の餌代も護衛代も、枠の数で割られる。100枠なら1枠あたりの経費は10分の1。だから定期便は、太るほど安くなる。そして「決まった時刻に必ず来る」という定時性が、荷を集める磁石になる。遅れる便に、荷は集まらない。


倉庫も増やした。バルガに続いてスターディアとリーデン。3都市に在庫を置けば、どこかで相場が乱れても、別の街の在庫で埋められる。


一度だけ、網が試された週があった。採掘プレイヤーの一人がリアルの都合で1週間ログインできず、鉄の仕入れが80個欠けたのだ。俺はスターディア倉庫の在庫を火曜便に積んで、テツジンへの納品は1個も欠かさなかった。欠員の彼には「復帰したらまた頼む。契約はそのまま」とだけ送った。


翌週、彼は戻ってきた。それどころか、採掘仲間を一人連れてきた。「ここは休んでもクビにならない」が、彼の営業文句だったらしい。妙な宣伝だが、効く宣伝だった。


週の純利は、契約と運賃を合わせて8000ゼルを超えた。


数字を並べてみる。祭りの3日間の純利が1万4940。いまの網は、2週間で同じ額を静かに稼ぐ。しかも祭りは年に数回で、火曜と金曜は毎週来る。どっちが太い商売かは、もう計算するまでもない。


一発の当たりはどこにもない。祭りの3日間のような、心臓が跳ねる瞬間もない。あるのは火曜と金曜、決まった時間に決まった道を行く馬車の車輪の音だけだ。


その音を、俺はどの相場の急騰より気に入り始めていた。


金曜の便を降ろし終えた夜、ウィスパーが鳴った。


『レン:ソーマ、いまバルガ? 前に言ってた頼みごと、言えるようになった』


◇――――――――――

【行商人の帳面 その17】

・馬車1台の費用は、荷が10でも100でもほぼ同じ。荷が増えるほど1枠が安くなる。これが規模の経済。

・決まった時刻に必ず来る。この定時性が荷を集める磁石。

・値上げはいつでもできる。客の習慣はあとから買えない。

・1件目の契約が、2件目の営業マンになる。

◇――――――――――

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