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48 HoursIF2: 台湾海峡 2026 ――日米安保破棄・自衛隊解体ルート――  作者: 八咫 日本


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第35話 新たな盟約と静かなる帰還

【東京・首相官邸 ⇔ ワシントンD.C.・ホワイトハウス】

巨大な暗号化通信モニター越しに、日米のトップによる極秘のオンライン首脳会談が行われていた。

画面の向こうには、アメリカ大統領と国務長官、国防長官が並び、こちら側には日本の救国暫定内閣の代表と、数名の主要閣僚が座っている。かつてのように、日本側がアメリカの顔色を窺い、用意された官僚のメモを読み上げるだけの風景はそこにはなかった。

『……信じ難い報告書の数々だったよ。君たちは一発の銃弾も撃たず、数万の中国船団を「書類と交通整理」で追い返したそうだな』

アメリカ大統領が、感嘆と微かな畏怖を込めた笑みを浮かべて口を開いた。

「我々はただ、自国の法律と現場の安全規定を『極めて厳密に』運用しただけです、大統領」

暫定代表は淡々と答えた。

「しかし、法の抜け穴を突いた防衛には限界があります。我々は今週中に新たな『国家防衛隊』の創設法案を可決させます。それに伴い、日米安全保障条約の抜本的な改定を提案したい」

代表は、手元のタブレットから一つの電子文書をワシントンへ送信した。

「これまでの日米同盟は、アメリカが『矛』であり、日本が『盾』であるという非対称な関係でした。しかし、これからは違う。我が国は自らの意思と力で国土を防衛する『自立した盾と矛』を持ちます。新しい条約は、依存関係ではなく、太平洋の平和を共に担う『対等なパートナーシップ』として結び直したい」

大統領は送られてきた草案に素早く目を通し、横に座る国防長官と無言で視線を交わした。

数秒の沈黙の後、大統領は深く頷いた。

『よかろう。我々も、自国を自分で守る覚悟のない国を助ける余裕はもうない。だが、君たちのように、自らの知恵と法を武器にして国を守り抜く強靭な意思を持った国ならば話は別だ。対等な同盟国として、新しい太平洋の防衛網を共に構築しよう』

歴史的な同盟の再定義は、派手な調印式もシャンパンもなく、ただ実務家同士の静かな合意によって成立した。

【北京・中南海 国家安全委員会】

同じ頃、北京の中枢部では、音のない粛清が静かに進行していた。

「東部戦区の司令官は、深刻な体調不良により本日付けで退役。党籍も剥奪する」

最高指導部の会議室で、冷ややかな声が響いた。

台湾侵攻の足場となるはずだった日本の南西諸島接収に失敗し、米空母打撃群の展開を許した責任を問われたのだ。しかし、彼らもまた軍事クーデターや派手な処刑を行うことはなかった。ただ「汚職の疑い」や「健康上の理由」という事務的な手続きによって、次々と軍の強硬派が表舞台から消し去られていく。

「我々は、日本という国を根本から誤解していたのかもしれん」

党の長老の一人が、苦々しげに呟いた。

「牙を抜かれ、平和という言葉に飼いならされた羊の群れだと思っていた。だが奴らは、我々が武力で脅せば脅すほど、巨大で精巧な『官僚機構という要塞』に引きこもり、音もなく我々の作戦を窒息させた」

会議室に重い沈黙が落ちた。

軍事力で圧倒しようとしても、相手が銃ではなく「完璧な法律とインフラの壁」で抵抗してくるならば、手を出すすべがない。日本は、中国にとって最も手を出してはならない、得体の知れない「静かなる防衛国家」へと変貌を遂げてしまったのだ。

【日本・某地方都市 市役所市民課窓口】

世界地図の勢力図が大きく塗り替えられつつある中、日本のとある地方都市の市役所では、極めて日常的で、事務的な光景が広がっていた。

「はい、書類の確認終わりました。本日から『特別国家公務員(国家防衛隊指定待機要員)』への籍の移行が完了となります。身分証は後日郵送されます」

市役所の窓口の女性職員が、事務的な笑顔で書類にハンコを押し、クリアファイルに入れて差し出した。

「ありがとうございます」

それを受け取ったのは、数日前まで南西諸島の港で対戦車バリケードを組んでいた、あの元自衛官の現場監督と若い重機オペレーターだった。彼らはいつもの作業着姿のままだった。

新しい「国家防衛隊」の再編は、劇的な出陣式やラッパの音と共に始まったわけではない。

民間に散っていた元隊員たちが、市役所やネットの行政手続きポータルを通じ、淡々と「復職」の書類を提出することで進められていた。彼らは普段は建設会社や物流会社で働きながら、有事の際には即座に防衛任務に就くという、極めて合理的で実務的なシステムが構築されつつあった。

「これで俺たち、また国に雇われることになったわけっすね」

市役所を出て、軽トラに乗り込みながら若いオペレーターが言った。

「ああ。だが、ただ言われた通りに銃を持つだけの組織じゃない。俺たちは一度、この国を現場の力だけで守り抜いたんだ。その誇りを持った新しい組織になる」

監督はハンドルを握り、静かに前を見据えた。

「さあ、仕事に戻るぞ。今日の午後は、港の防波堤の基礎工事だ。有事の際に、大型護衛艦がいつでも接岸できるようにな」

軽トラのエンジンがかかり、彼らは日常の業務へと戻っていく。

暴動も、熱狂もない。ただ、日本人が本来持っている「それぞれの持ち場で、やるべき仕事を完璧にこなす」という静かなる底力だけが、新しい国家の礎として、日本列島全体に分厚く、強固に敷き詰められていた。

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