繋ぐ信用……。
オーガ三十一体。素材となる角は、三十一本きっかり、換金され、大金貨三十一枚で、手渡される。
白金貨でも良かったんだが、大きな買い物をしない限り、使い勝手が悪い。
何より、十二そこらのガキが、そんな大金をチラつかせているのは、治安上、余りよろしくない。
大金貨を持っているだけでも、人目を引いてしまう処なのだが……。
まあ、今の俺達なら、大抵の奴なら返り討ちにするのだが……。
喧嘩をしに来た訳では無い。
しばらくは、配達系の仕事をこなし、街に馴染む事が重要だ。
いらん騒動は、御免願いたい。
まあ、ギルドに入って、開口一番、馬鹿どもを、ぼこしたんだがな……。
今となっては、良い思い出だ。
昨日の事だって?
過去は過去!
俺は、明日を夢見る少年さ!
さて、今日はと言うと……。
昨日、入場の際貰った書類一式。
入場料=税金の納税証明書
犯罪履歴の書かれた書類を持って、お役所通い。
犯罪履歴の確認の際、種族確認が自動で行われたのだが、神人の卵である俺は、肝を冷やしたっけ……。
不安に駆られながら書類を見ると、種族の欄は、ハイヒューマンと記載されており、胸を撫で下ろしたのは良い思い出だ。
けどその後マルスに、ハイヒューマンとは、あまり居ない種族だと聞き、余り大ぴらに言わない方が良いと釘を刺され、苦笑した。
まあ、どうでもいいけど……。
ほとんど、マルスが手を回していてくれて、役所では騒動も無く、無事、住民登録は済ます事が出来た。
マルスさん、マジ感謝。
マルスの言う通り、役所で、マルスの名前を出しただけで、個室に通され、丁寧に対応してもらえた。
マルスって、何者!?
サクヤの方の書類は、シャルが手伝って書き、サクヤは、自分も字が書けるようになりたいと口を尖らせ、言ってたっけ……。
役所の人は、優しく微笑みながら、一月後には学校に行けるから、一生懸命、勉強してくださいと、なだめてくれた。
何で一月後かって?
書類の申請から受理されるまで、一月掛かるらしい。
それまで、仮の住民票。と言っても、これも、手首に紋様が記されるんだが、仮は線一本。晴れて住民となると、線が二本、浮かび上がる様になる。
体に、刺青を入れる様で、抵抗があるが、魔術的なモノらしいので、住民で無くなると、無くなってしまうらしい。
何にしても、晴れて、スターリーの住民に成れた。
俺は晴れやかな気持ちで、空を見上げる。
「今日も、晴天。事も無し」
「ジャショウ、これからどうするん?」
「ん?キリカがお世話になっている、商店の方の依頼をこなす」
「そうね。私も案内するって言ったけど、この街の事、本当はあまり知らないし……」
「シャル姉はこの街に来て、どれくらい経つん?」
「そうねえ。十日ぐらいかしら」
「じゃあ、一緒に探検するんよ♪」
シャルとサクヤは、楽しそうに笑い、俺の手を引く。
「けど、その前に……」
俺は、急かす二人をなだめ、その場で立ち止まる。
さっきから、良い匂いがする。
辺りは露店が立ち並び、物珍しい物が売っている。
「何か、食べないか?」
俺は、小腹の空いた腹を摩り、露店を見回す。
それにつられて二人も、辺りを見回した。
「あっちなん!」
サクヤが、繋いだ手を引っ張る。
「サクヤちゃん、何か見つけたの?」
「良い匂いがするん!」
急かすサクヤに促され、歩き出す。
確かに、良い匂いがする!
「へい、らっしゃい!」
ガタイの良い、おっちゃんだ。
満面の笑みで、笑いかけてくる。
「ビックボアなん!」
「お!お嬢ちゃん、ビックボア知っているのかい?」
「ジャショウが、倒して食べたんよ!」
「ほう。その兄ちゃんは、強いんだな!」
「うん!強いんよ♪ね。ジャショウ!」
「ははは……」
俺は、頭を掻き、軽く会釈する。
「兄ちゃんが、ジャショウかい?また、随分小さななりで……」
「ジャショウは、強いんよ!」
信じてもらえなかったと思い、サクヤが頬を膨らませる。
「がははは!別に疑っちゃいないよ、お嬢ちゃん!こう見えて、俺も元冒険者だ!お前たちの力量も分かる!」
暑苦しい人だが、悪い人じゃ無さそうだ。
力量が分かるってのも、あながち嘘では無い。
俺達が近づいて来た時、この人、俺に錬気を絡めて来た……。
まあ、打ち消してやったが……。
「おっちゃんは、誰かれ構わず、錬気を絡めるのが趣味なのかい?」
俺は、意地悪く笑う。
「がはは!それにも気づいたか!何、お前さんの錬気、余りに異質だったからな!すまん、すまん!」
錬気が、抑えられる様になっても、質まで隠せないか……。
俺は、苦笑交じりに、ため息をつく。
「な~に、坊主!何事も経験だ。ここいらの屋台の奴はみんな、元冒険者だ。坊主が来て、目を光らせているぞ?」
みんな……?
さっきから、視線を感じていたのは、そう言う事か……。
俺は、辺りを見回す。
それに気付いた屋台の人々は、気さくに笑いかけてくる。
恐れては、いない?
「嬢ちゃん達は、冒険者か?」
「そうなんよ♪」
「そうかそうか!お前達は、大成するぞ!俺が保障する!」
おっさんは胸を叩き、豪快に笑った。
「とっても、良い匂いがするんよ♪」
「そうだろう、そうだろう。我が家自慢の、特製のタレだ!食ってくかい?」
「あ、ああ。俺は一本……」
「私も食べたいけど……」
「シャル姉は、アタイと一緒に食べるんよ♪」
「ええ、そうね♪」
「それじゃあ、二本良いかな?」
「おう!任せとけ!一番うまい処を食わせてやる!」
串焼きが焼かれ、香ばしい匂いが立ち込める。
黒みがかった秘伝のタレ……。
俺、これ知ってる!
醤油だ!
異世界転生のススメに出てきたやつ!
甘辛醤油って言うやつだ!
焼いて、タレを漬けてを繰り返す。
サクヤは、待てないと言わんばかりに、背伸びをしながら、それを見詰めている。
「ほれ!嬢ちゃん、もうすぐだ」
二本の串焼きに、タレを染み込ませ、サクヤにやさしく手渡してくれる。
「えっと、おだいは……」
「一本三百エル、おまけして、二本で五百エルだ!」
「そんな!申し訳ないですよ!」
シャルが、慌てて首を振る。
そんなシャルを見て、おっさんは、豪快に笑う。
「気にすんなって!未来の英雄さん!処で、これからどうするんだい?」
「えっと、商店街の方に顔を出して、配達の依頼をこなすつもりです」
「商店街?」
「は、はい!確か、エネス商店街って……」
「お前さん達、何処の冒険者だい?」
「子羊の嘶き亭の……」
「!?キリカちゃんの処か!」
「は、はい!」
「そうか、そうか……」
「あ、あのう……」
「おだいは、いらねえ!」
俺が、差し出そうとした小銀貨を、おっさんは、突っぱねる。
何か、まずい事でもあったのか?
シャルは、不安そうな顔をする。
「キリカ姉ちゃんは、良い人なんよ!」
見かねたサクヤが、抗議する。
俺も、家のギルドを馬鹿にするなら……。
「おうともよ!禄で無しの冒険者にキリカちゃん泣かされて……。おめえさん達は、キリカちゃんに変わって、仕事をこなすのかい?」
「ああ。ギルマスは、どっしり構えないとな」
「ジャショウ言ったんよ!街の人と仲良くなるんだ!って。だから、キリカ姉ちゃんの代わりに、配達の仕事をするんよ!」
「そうです!キリカちゃんの守った信用。私達が繋ぐんです!」
にじり寄る俺達を前に、おっさんは、腕組みをして唸る。
そして、
「聞いたかい?野郎ども!こいつらは、キリカちゃんを守るんだと!あのギルドを守って、俺達と仲良くなりたいんだとよ!」
露店から、一人、また一人と、俺達の方に歩み寄る。
「嬢ちゃん。これもってけ!」
「売れ残りだが、家のポーション持っていけ」
「良いか?変な商人に捕まるな。品質を見るのは……」
次々に、品物を手渡され、中には、仕事や、商品の見定めるコツを教えてくれる人もいる。
俺達は、ただただ、驚くばかりで、頷き、両手いっぱいの品物に驚くばかりだ。
おっさんは、大口で笑い、俺の背を叩く。
「これが、キリカちゃんの繋いできた信用だ!しっかり、繋いでいけよ!」
俺達の驚きは、笑顔に変わり、みんなにお礼を言う。
サクヤは、はしゃぎ、みんなに可愛がられ、ご満悦の様だ。
シャルは……。
目に涙を浮かべ、それを、露店の人達に拭ってもらっている。
優しさ……。
ああ、この街に来てよかった……。
キリカの守る、ギルドに入れて良かった。
俺達は、冒険者になれたんだ……。




