呼び名って大切だと思う!
初陣の刻。
兵は、死線に赴く事に恐怖し、その身を引き締める。
心は高ぶり、その身を焦がす。
生き抜く術は、恐怖をその身に宿し、臆病になる事だ。
臆病な事は、何も悪い事ではない。
恐怖を知る事は、恥ずべき事では無い。
恐怖は、五感を研ぎ澄まし、臆病な心は、備えを忘れない。
ただ、恐怖に呑まれてはならない。
臆病な心に呑まれれば、逃げ腰になるな。
死線の一歩先に、生への活路はある。
恐怖を知り、臆病な自分を知り、ただ最善の手段を学べ。
「さてと、今日はどうするか?」
俺は、気伸びをし、空を見上げる。
空は晴れ、雲一つ無い。
食事をとり終え、満腹感に満たされ、あくびが零れる。
このまま、一眠りしたいところだ。
『ジャショウ。まだ、起きたばかりなんよ』
サクヤが、俺の肩に乗り、頬をペチペチと叩く。
しかし、日差しが強くなる前、ちょうど今頃が、気持ちよく寝れる時間帯だ。
寝る子は育つ。
食後に休むと、牛になると言うが、本当は体に良い事のはずなんだが……。
そんな言い訳、サクヤには通じない。
まあ、昨晩遅くまでサクヤとシャルは、魔法の練習をしていて、すぐにでも実践したいのだろう。
俺より寝ていない筈なのに、朝も早くから起き、テンションマックスだ。
『サシャとリョウカからも、魔法を教わったんよ♪』
「ジャショウさん!私達、中級魔法までなら、もう使えるようになったんだすよ♪」
シャル姉も、朝から元気な様で……。
けど、一つ言いたい事がある!
シャルは、俺の姉さんの筈なのに、何故に、俺の事をジャショウさんと呼ぶ?
さん付けって……。
何か距離を感じるわぁ……。
まあ、ちゃん付けは勘弁して欲しいが、サクヤの様に、呼び捨てで良い。
ジャショウって、呼ばれたい。
こんな事を考えるのは、可笑しい事なのだろうか?
ここで一つ、ハッキリさせた方が良い。
呼び名って大切だと思う。
いや。大切だ!
「シャルさん。ちょっと良いですか?」
俺は、真剣な面持ちで、シャルを呼ぶ。
勿論、正座だ。
「どうしたんですか?改まって……」
シャルは小首を傾げ、不思議そうな顔をする。
うん。可愛い……。
けれど、今は関係無い。
緩みかけた口角を引き締め、沈痛な面持ちで、腕を組む。
「シャルさん!私達家族ですよね?」
「ええ、そうね。私は、ジャショウさんのお姉ちゃんね?」
「そうです!シャルさんは、私のお姉ちゃんです!」
「ええ、だから、シャル姉って呼んで欲しいわ♪」
「はい。呼びます!けど、その前に直してほしい事があります!」
「?」
「私の事を、さん付けで呼ぶのは止めてもらいたい!」
「っえ!えっと、それは……」
「サクヤの事は、サクヤちゃんって呼んで、私は、さん付け……。正直、距離を感じます」
「えっと、じゃあ、ジャショウ……ちゃん?」
「~~~~~~」
なんか、恥ずい……。
俺は悶絶し、体をくねらせる。
惜しい!何かちょっと違う。
「えっと……。サクヤみたいに、呼び捨てで。そう、呼び捨てで!」
俺、必死過ぎ……。ワロタ。
現にリョウカは、後ろで爆笑している。
サクヤは不思議そうに、それでいて、俺の必死さが伝わっているのか、俺の頭を撫でてくれる。
……。
自分で始めた事だが、なんか恥ずかしい。
ふと前を見ると、当のシャルは、赤面し、俯いてしまっていた。
「あ、あの……。ジャ、ジャショ……ウ?」
「はい!」
消え入りそうな声……。
確かに言ってくれた!
「リ、リピートアフタミー!」
「ジャショウ!」
「シャル姉!」
俺は感極まり、シャルを抱きしめる。
こんな嬉しい事があるものか!
ん~~~~。
やっぱ、呼び名って大切だよな。




