麗しの姫君
「おい……」
俺は今、麗しの姫君の隠れている木の前に居る。
しかし、本当に女なのだろうか?
先ほどの悲鳴、確かに女性のものに思えたが……。
未だ、実態を見てはいない。
後ろを振り向けば、リョウカは、張り切りながら、ビックボアを吊るし上げている。
……。
あいつ、どこまで上げるつもりだ?
馬鹿のする事は、理解が出来ない。
麗しの姫君(仮)か……。
まあ、良い……。
さっさと、ご対面しよう。
俺は、怯えさせない様に、なるべく立ち上る気を抑え、ゆっくりと木の後ろへと回る。
索敵で青く光る対象は、小刻みに震えている。
やっぱ、怯えているのだろうか……。
「大丈夫だ、敵では無い……」
気の利いた言葉は、出てこない。
さっきから、息巻くリョウカを前に、実際問題何と言えば良い?
あれじゃあ、不審者丸出しだ。
こんな森の中で、女漁りとか、どっかの山賊か!
まあ、妖魔の跋扈する森の中で、のんきに散歩しているガキも、大概か……。
それよりも、木の上にいるのだろうか?麗しの姫君は、五mある木の上の方で、すすり泣く声が聞こえてくる。
さっきまで、必死に声を押し殺していたのだろう。
こんな状態だが、こちらが、無害だということが分かったのだろうか?
声を出したと言うことは、少なからず、危険が去った事を、認識したって事だろう。
しゃあない、あのリョウカからも、守ってやるか……。
万年発情駄馬は、何時も話をややこしくする。
「おい。もう、大丈……」
俺は、木の上を見上げえ、麗しの姫君(仮)を確認し、口をつぐむ。
そこに居たのは、麗しの姫君でも、随分小さな姫君だった。まあ、親指姫より、大きいが……。
なに?
えっと……。小人?妖精?
大きさからいって、サクヤほどか。
少女は、潤んだ瞳で、こちらを伺っている。
サクヤ同様、なんとも、庇護欲を搔き立てられる。
「えっと……。大丈夫?」
―うちの子達は、顔面偏差値が高い……―
ナビ子の言葉が、頭を過ぎる。
黒髪のショート。サイドの髪を伸ばし、輪郭は覆い、潤んだ瞳は、凛としていて切れ長。それでいて、威圧的ではない。優しい、母性を感じさせるような暖かな目。
美人だ。美人が居る!
これで何度目だ?
サシャの事も美人だと思ったが、この子もまた、違うベクトルの美人さんだ。
もう、なんだ……。女の子に会う度に、こんなリアクションをとる事になるのか?
ビバ!異世界。
俺は、健全な男子だ!
しかし、あの駄馬……。
この子に会ったら、どんな、リアクションをとるんだ?
やはり、守ってやらなくちゃならないか。
「大丈夫。ゆっくり、降りておいで」
優しく微笑み、ゆっくりと手を差し伸べる。
「は、はい……」
少女と言っても、俺より若干年上か?
未だ、あどけなさは残るものの、しっかりとした顔立ちだ。
少女は、ゆっくりと木から手を放し、飛び降りようとする。
俺は慌て、抱き抱え様と、両手を伸ばす。
しかし、予想に反し、少女の体は宙に舞い、ゆっくりと降下する。
少女は逆光に照らされ、俺は片手で、目を覆う。
光に照らされた少女の背中に、虹色の羽が……。
妖精と言うやつか?
俺は、その幻想的な美しさに、目を奪われ、息を呑む。
ゆっくりと降下し、少女は、躊躇いがちに、俺の肩へと着地した。




