ビックボアと言う名の動物性タンパク質
風の様に疾走する中、リョウカを見やる。
腐っても、聖獣か……。
俺より少し前を走るその速さは、牝馬の速さを優に超えている。
時折リョウカの口から、「麗しき乙女」とぶつぶつ呟きが聞こえ、正直キモイ……。
それより、対象は……。
既に、俺のテリトリー内に入っている。気配察知でその存在は窺え、今もすごいスピードで移動しているのが分かる。
しかし、スピードは俺達の方が上だな。
追いつくのも時間の問題だろう。
索敵で分かることは、敵対対象が2。微弱だが、保護対象が1だと言う事だ。
しかし、世界樹の側だというのに、敵対対象からは、若干の瘴気を感じられる事が気になる。
少し、急いだ方が良いか?
俺は、気を開放し、スピードを上げる。
人命救助が優先だ。
今回は気の重りを取り払い、身体強化をする。
「ぬお!?お主、抜け駆けしようとしておるのか!!」
リョウカの的外れな問いかけに、うんざりとする。
やはり、こいつ阿呆だ……。
「馬鹿な事言って無いで、ペースを上げろ!」
俺はリョウカの後ろに回り、その尻を蹴り飛ばす。
まあ、今の俺に、追いつけるはずが無いのだが……。
「ふぎゃ!」
リョウカは、前のめりになりながらも、体勢を立て直し、スピードを上げる。
おお。がんばる。がんばる。
「速く走ろうと思えば、出来るじゃないか!」
「主は、どこぞの鬼軍曹か!?」
減らず口を立てられるのなら、問題なかろう。
俺は、リョウカの悪態を聞き流し、速度を上げる。
「見えた!」
前方に二体……。
蛇行する敵影在り。
あれは……。猪か?
それにしては、大きな気がする。
茶色の毛並みに、後ろからも見える曲がりくねった牙。普通の猪より、二回りほど大きな体躯……。
「うむ。ビックボアじゃな……」
「安直なネーミングで……」
俺は、リョウカの解説に毒を吐き、一気に加速する。
これで何度目かのペースアップに、さすがのリョウカも、遅れ始める。
まあ、そんな事より、ナビ子も食える肉で、ビックボアを進めて来たっけな……。
あれだけの大きさ……。さぞ、食いごたえがあるだろう。
俺は、舌なめずりをし、創気で刀を創る。
拳で殺るのも悪くないが、傷は少ないに限る。
ついでに、血抜きの手間を省きたい。
「おい!奴の毛皮は、鋼の様に固いぞ」
俺の考えを理解し、リョウカが叫ぶ。
「はっ!その程度、両断してやるさ!」
俺は鼻で笑い、加速し、一気に間合いを詰める。
俺の気配に気づいたビックボアは、急ブレーキをかけ、急転換した。
「今更、遅いよ!」
ビックボアも、そのまま走り続けていたなら、あるいは……。
騎馬兵も、敵と乱戦になった時、立ち止まるのでは無く、走り続けた方が敵の攻撃を受けにくいものだ。
しかし、全てはIFでしかない。
急ブレーキで崩した体勢を、立て直そうとするビックボア……。
一瞬のラグ……。
交差する刹那……。
その隙を逃すほど、俺は甘くない。
一瞬の静寂の後、二体のビックボアは、血飛沫を上げ、その場に崩れ落ちた。




