聖獣……。
前略、お袋様……。
私今、仲間の二人から、白い目で見られています。
何故かって?それは……。
『ジャショウちゃん。サシャの事、何だかエロい目で見ている』
『ジャショウ。あかんよ?女の子を、そんな目で見ちゃ……』
事実無根!まったくもって、清廉潔白である。
いや……。ちょっとは、綺麗だなあとは、思ったが……。
せめてもの救いは、この二人の声が、サシャには聞こえていない事だ。
『君達、非常に失礼!ただちょっと、綺麗だなあと思っただけで、この仕打ち……』
『何言ってんの!確かに、ジャショウちゃんも男の子だけど、私の使徒なんだから、もっと清廉潔白でいてくれないと!』
『ジャショウも、男の子なんよね』
サクヤ……。慰めてくれるのはありがたいが、この場面で、哀れんだ目で見詰めないでくれ!
て言うか、いいやん!
俺だって、男なんだ……。
奇麗な女性を見て、ときめいたって!
これでも十分、草食系男子よ?
絶食系男子になれって言うの?
『ジャショウちゃん甘いわ!うちの世界、顔面偏差値、結構高いのよ?』
『むう……。しかし』
『そんなんだったら、ずっと、鼻の下を伸ばしていることになるのよ?』
何と言うか、男として、本望?
ああ、サクヤ。よしよししないで!
何だか、俺が惨めになる!
確かに、小人魚達も、顔面偏差値が高い。
ああ!俺は、男として正常だ~!
ガサガサ。
不意に、後ろの茂みから何かの気配がした。
『ちょっとまった!二人とも。何か来る』
俺は、二人を制止し、茂みの方に向き直る。
サシャ達は、まだ気づいていない。
俺は、一気に気を開放する。
それを感じ取って、サシャがこちらを振り向く。
「サシャ!何か来る!」
俺は、彼女に危険を促し、構えをとる。
ただの動物なら、普段から漏れ出ている、俺の気に充てられ、近づいたりしないはず。
世界樹の側だから、低級の妖魔は、近づけない……。
となれば……。
感じられるのは、瘴気ではない……。
ただならぬ、霊気を感じる。しかもとびっきり、神聖な奴だ。
こいつが、俺に敵意を向けるか、友好的であってくれるか……。
「これは、目元麗しきお嬢さん方。驚かせて申し訳ありません。あなた方の甘い吐息につられて、どうやら私は、たどり着いたようです。そう、桃源郷に!!」
は?
なに?
何と言うか、キモイ……。
俺は一瞬呆気にとられ、構えを解いてしまう。
しかし、全身に鳥肌が立ち、そんな俺に本能が、危機反応を促す。
まだ、顔を見せていないが、生理的に受け付けない……。
敵意では無い……。無いが、悪意の様な気がする……。
一発言っとくか?
俺は、手の平に気を溜め、声のする方に、放気を放つ。
「なんか、キモイ……」
ズドーン!!!
「ふぎゃ~~~~」
手ごたえはあった。まあ、殺すつもりで撃ってはいないが……。
砂煙が立ち込める。
砂煙の中、四足歩行の生物のシルエットが浮かび上がった。
スラっと伸びた四肢に、立ち上った砂煙を払う様に振るう、がっしりとした首筋。
馬……?
の割には、何か違和感がある……。
そう、頭に生えた、一本の角。
砂煙が、治まってゆく中、その全体像が浮かび上がる。
煤汚れた白い体に、額から真っすぐに伸びた白銀色の角……。
あれか……。ユニコーン。一角獣と言うやつだ。
しかし……。
「なんか薄汚れていて、汚い……」
「あなたの所為でしょうが!!」
なんか、すごい勢いで、こっちに来る。
ズズ~ン
放気をもう一発かましてやる。
「ふぎゃ~~~~!」
ユニコーンは、前足を屈折させ、生まれたての小鹿の様に、プルプル震えている。
うん……。ちょっと、やり過ぎた……。
「ふ、ふふふ……。中々、お転婆なお嬢さんだ……」
は?
何、言ってんのコイツ?
打ち所が悪かったか?
しかし、震える足取りで、俺に近づいて来る……。
「お転婆なお嬢さん。美しき人魚と戯れて、優しく微笑む君は、あの太陽よりも眩しく、美しい……」
「え?い、いや……」
「ああ。何も言わなくても大丈夫!」
「い、いや。だから……」
「この私と、ランデブーを……」
「だあああ!もう!」
俺は怒りに任せて、自らのズボンを、ずり下した。
一瞬世界の時間が、停止したような錯覚に陥る。
ユニコーンの目は点になり、サシャは優しく微笑む。サクヤは首を傾げ、小人魚達は、無邪気に笑う。
「ぎゃあああああああ!!」
『何やってんの!ジャショウちゃん!』
ユニコーンの声は、天をも貫き、森全体に木霊する。
ナビ子に、見えない手で、後頭部を叩かれる錯覚を覚えた。
何と言う、理不尽……。
「ぺっぺっ!なんちゅうものを見せるんだてめえ!」
「お前こそ、人の話を聞け!と言うか、口調変わってるぞ!」
汚らしく、唾を吐き捨てるユニコーン。
俺は怒りに任せて、本日三度目の、放気をぶちかました……。




