帰るべき場所は何処に……?
俺には、親が居ない……。
されど、親父とも呼べる者が三人。
一人は、水無月家当主、水無月勝家。
一人は、我が師、玄海。
一人は、水無月家宰相、原田源三郎。
されど、お館様と我が師、玄海様は死んだ……。
お館様は、民達を守る為、自らの首を差し出し……。
我が師は……。
復讐に燃える俺に代わり、その命を散らした……。
全ては、俺の咎だ。
ああ、源三郎様、貴方だけは……。
全身に、激痛が走る……。
俺は……。
右手は動く。
左手も……。
両の足も動く。
ゆっくりと目を開く。
ここは……?
薄暗い世界。
夜だろうか?
雲一つない空。
されど、星も、月も見当たらない。
俺は、一体、何処に居るんだ?
源三郎様は……?
武田の、悪鬼共は?
俺が殺めた、無数の屍も見当たらない……。
何処までも続く、荒野。
俺は、死んだのか……?
まさか、死した後も、痛みに苦しめられるとはな……。
しかし、喉が、焼けるように痛い。
ああ、帰らなくちゃ……。
死した後も、望郷の念に駆られ……。
差し詰め、俺は、悪鬼と言う奴だな。
おぼつかない足取りで、俺は、歩き出す。
何処へ向かえば良い?
何も分からぬまま、俺は歩き出す。
帰るべき場所など、とうに無いと言うのに。
それでも、帰らなくては……。
お館様の下に。
俺の、帰るべき鞘に。
痛みで、意識が遠のいていく。
パチ、パチ……。
不意に、遥か遠方から、何かを弾く音が聞こえてくる。
何だ……?
この、無音の世界で……。
この、何も無い場所で……?
光……?
眩い、温かな光。
何故、今まで気が付かなかった?
俺は、藁にでもすがる思いで、光に向かって歩き出す。
大樹が見える。
それに、人影?
声の出ない喉で、必死に叫ぶ。
帰らなくては……。
あの、温かな、水無月の地へ……。