道を歩いていると
茜は家を追い出されて行くところがなくなってしまった。彼氏の家へ行くのにも電車を乗り継がなければならない。しかも人の言葉が話せないのだ。茜は途方に暮れて道をとぼとぼと歩いていた。するといつのまにか近所の公園に来ていた。気晴らしによく来る公園だ。
茜はそのまま公園に入っていった。すると思わぬ所から声をかけられた。
「ひゅー、可愛いね。どこから来たんだい?」
それはオスの黒猫だった。何故オスだとわかったか。それはなんとなくとしか言いようがない。猫になったからだとは茜は気づかなかった。
「どこって?」
茜は話をするのも億劫そうに答えた。
「この辺じゃあ見かけないからさ」
「私の言葉がわかるの!?」
茜は嬉しくなった。自分は誰とも話が出来ないと思っていたからだ。
「言葉?当然だろ。面白いね。俺の女にならないか?」
ナンパ!?
「私にはれっきとした彼氏がいるわ!」
「へえ、それにしちゃ落ち込んでないか?」
「それは……あなたは元々猫なのよね?」
「どういう意味だ?」
どう言うべきか……。元は人間だったなんて信じてもらえるだろうか。でも、話の出来る相手は貴重かもしれない。茜は思いきって話すことにした。
「……実は私、人間だったの。二日前まで」
「へえ、本当かい?」
「本当よ!でも、人間の言葉が話せなくなっていて……」
「そりゃあ猫だからな」
「だから人間だったんだってば!」
その黒猫は少し考える仕草をすると話し始めた。
「じゃあ、ばあさんのところへ行ってみるか」
「ばあさん?」
「この辺りじゃ物知りで有名なのさ」
茜は一筋の光明が差した気がした。
「うん!会いたい!」
こうして茜と黒猫は『ばあさん』に会いに行くことになった。