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9/10

Happy ending story

妙な雰囲気での遅めの朝食だった。

表向きラルフだけはいつもどおり、アーロンはサバサバした顔で、バネッサは超不機嫌。

そしてエヴァンは明らかに目が泳いでいた。

そこに来客を告げるドアチャイムが鳴った。


「来たわね」


と言いながらラルフは席を立った。


明らかに北欧系の上品な夫婦とその後に長身の美女がラルフに案内されてリビングに入って来た。


「父さん、母さん……」


アーロンが立ち上がった。


「アーロン!」


と母親は息子にすがりついて泣き崩れた。


「こんなにケガして」


その二人を父親がさらに抱きしめた。


そしてアーロンによく似た長身の美女が近づいてきて、アーロンの胸ぐらつかんで両親から引き離すと


「このクソガキが!」


と叫ぶとその頬を力まかせにひっぱたいた。手かげんなしのビンタにアーロンは床にへたり込んだ。


「家族に心配かけて、警察のお世話になって何考えてるのっ! 私の結婚が破談になったこと、自分のせいだと思ってんのっ? バッカじゃないの? あんなクソみたいな男と結婚しないでラッキーだったわよ!」


そしてもう一度、弟の胸ぐらつかんで立たせると力いっぱい抱きしめた。


アーロンは家族とともに家に帰った。


別れ際、ハグしながらバネッサがアーロンに何か言ってアーロンは「オーケイ」と笑って彼女の頬にキスをした。すかさずバネッサはアーロンにホンモノのキスを返した。


ラルフはもう大変なことになっていた。号泣するラルフをハグしながらアーロンは言った。


「あなたみたいな法律家を目指すよ」


アーロンはエヴァンに右手を差し出してふたりは「友人としての握手」を交わして別れた。



「バネッサは結局、僕と口をきいてくれないまま帰ったね。なんで機嫌悪かったんだろ?」


ベッドの中でエヴァンはラルフに聞いた。久しぶりに恋人たちがひとつになった夜だった。


「鈍いわね、エヴァンったら」


「どこが?」


「ほんっとに女の子の気持ちがわからないんだから。バネッサはアーロンが好きだったのよ」


「え?」


エヴァンには完全に盲点だった。こんな世界で生きていると男女間の恋愛が存在することすら忘れていた。自分とラルフ、父さんとジョーイ、ノーマルなのは兄のイーサンとシンディのカップルだけだった。まさかバネッサがアーロンを好きだったとは。


アーロンと過ごしたあの夜のことがちらっと頭によぎった。そりゃあ好きな男の子が別の男とベッドを共にしてると思ったら穏やかな気持ちではいられないよな。


「!」


じゃあラルフはどうだったんだろう? ラルフに強制的にお膳立てされたカタチだったが僕は確かにちょっとだけ心が揺れた。アーロンが泣き出さなかったらどうなっていたか自信がない。

もしかして僕の恋人はその体以上にでっかいハートと愛情を持っているすごいやつなのかもしれない。


「ああ、ラルフ、キミが好きだ!」


エヴァンはラルフにキスの雨を降らせた。


「好きだ! 好きだ! 大好きだ!」


「なによ急にエヴァンったら」


「キミを愛しながらだったらカブトムシは衰弱死しても本望さ」


お約束のラウンド2へと突入した。

試合終了後。


「ねえエヴァン、アーロンはゲイなの? それともバイだと思う? ゲイだったらバネッサがかわいそうだわ。永遠に片思いだもの」


「どっちにしてもアーロンがシスコンだったらバネッサにもチャンスはあるね。あのお姉さんのド迫力とバネッサの雰囲気が似てると思わなかったかい?」


「アハハ、似てる似てる。ケガ人の弟を手加減なしにひっぱたいて更生させるんだもの。素敵なお姉さんだったわ」



しばくしてラルフの元にバネッサからDELUGEのニューアルバムが届いた。

ジャケットを見てラルフは「キャ!」と頬を両手で押さえた。

それはバネッサとアーロンがキスをしているロマンチックな写真だった。プロが撮ったその裸の後ろ姿の半身写真はあまりにも芸術的すぎた。美しすぎた。


ただ残念だったのはボーナス曲として入れる予定だったあの「Sadistic mayor」が当局からの要請でカットされたことだった。

しかしCD化されないとわかると、当然動画サイトでは再生回数が爆発的に伸びた。ライブでのアンコールの定番となるのはもう少し後のことだった。


Sadistic mayorハワードの貸しガレージから押収された暴行現場のビデオテープの中にそのまま行方不明になっている男娼が数人確認された。事件は監禁暴行事件から失踪事件の様相を呈してきた。


アルバムのお礼の電話をしたラルフはバネッサの機関銃マシンガントークの乱射を受けた。


「アーロンがね、大学に戻ったの!」


「アーロンがね、ラルフみたいになりたいってジムに通いだしたの! でもモテて困るんですって、心配だわ」


「アーロンがね、今度おうちに招待してくれるの」


「アーロンのこと愛してるの! すごく愛してるの!」


「アーロンも私のこと愛してくれてるの、幸せでどうにかなっちゃいそう!」 


電話でのガールズトークでバネッサもラルフも最後は号泣してティッシュBOXが空になったとかならなかったとか。


         


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