アーロン
「ごめんなさい、エヴァン。クライアントの都合で打ち合わせが遅れてるの。今日は行けないかも」
ラルフから電話が入った。エヴァンは久しぶりにパートナーでボーイフレンドのラルフとジムで待ち合わせていたのだ。
「オーケイ、じゃあ僕も帰るよ。危険から守ってくれるキミがいないとおちおちトレーニングもやってらんないからね」
「よかった。モテる恋人を持つと仕事にも集中できないわ、愛してる」
「僕もだ」
「ねえエヴァン、打ち合わせが終わったらそっち行ってもいい?」
「もちろん。スーツとネクタイのキミを犯せると思うと今からワクワクするよ」
「もう! エヴァンったら」
バカバカしいほど仲良しのゲイカップルである。
最近までエヴァンは忙しかった。父親を40年にもわたるトラウマから救うため兄と奔走していたのだ。父親がバイセクシュアルだったという事実に直面し苦悩もしたが兄弟で乗り越えた。
父親のレイクは所属バンド、ロートレックの再結成ライブのために昔の恋人ジョーイの元に身を寄せている。家族のために犠牲にしてきた部分も多い人生の残りを好きに過ごして欲しいと心から思っている。
ジムの駐車場で車に乗り込もうとしたら後ろから声をかけられた。
「ハーイ、今夜の相手は見つからなかったみたいだね。僕でどう?」
「あいにく今夜の相手はいるよ。それに僕は安売りの商品には手を出さない主義でね」
エヴァンは振り向きもせず言い放った。
「僕を見てもそう言える?」
めんどくさいヤツだな。どんな顔して言ってんだと振り向いたエヴァンだったがさすがに一瞬息を飲んだ。
街灯に照らされたその少年はとにかく細い、髪は白に近い銀色、肌の色も陶磁器のように限りなく白かった。アルビノか。
だけど一般的に言うところの美少年だった。それも超のつくランクの。
「確かにきれいだね。それは自惚れるに値するのは認めるよ。ただし僕は興味ない」
「お試し料金にしとくよ。テクもすごいよ」
「じゃあそこのジムに行ってごらんよ。街灯に集まる蛾みたいに好色なヤツらが群がってくるさ、じゃ!」
エヴァンは車に乗り込むと発進させた。バックミラーに映る白い少年がどんどん遠くなった。
スーツとネクタイでやってきたラルフは本当にそのままエヴァンに押し倒された。
「もう! エヴァンったら」
「ラルフ、愛してるラルフ」
スーツ姿のラルフを攻略しエヴァンは燃えに燃えた。過去の恋人の中にもこんなに夢中になれた相手はいない。ラルフとはこれからも、40年後も一緒にいたい。猛々しいケダモノと化したエヴァンは恋人の中で果てた。
「あなたのお父さんも今はきっと幸せよね」
エヴァンの胸の中でラルフが言った。
「うん、社会的な批判はもちろんあるけど、それは僕と兄さんとで受ける覚悟だよ」
「やっぱりエヴァンってすてき。イーサンも」
ラルフはエヴァンにキスをした。
「そういえば」
「なあに?」
「今日ジムから帰るときアルビノのトゥインクに声かけられたよ」
「アルビノ? ああ、噂のアーロンね。ストリートに立ってるの何回か見たわ。最近こっちに現れた子よ。アタシがいないとすぐにみんなエヴァンを狙うんだから」
「アーロンっていうんだ。すごい自信だったよ。僕は興味ないけど」
「確かにアーロンはきれいだしテクニックもすごいらしいわ。プロ中のプロだわね」
「でも僕はまったくその気にならないな。キミにしか反応しないんだよラルフ。こんなふうにねっ!」
エヴァンは再びバックマウントポジションをとるとラウンド2へと進んだ。
エヴァンとラルフは婚約中の恋人であるけど同居はしていない。物書きという自由業のエヴァンと個人事務所をかまえる弁護士のラルフとは生活時間が違いすぎるのが理由だった。
それぞれのプライベートは尊重して、週に数回会うのもまた新鮮だった。エヴァンに言わせれば身近に常時ラルフがいたら発情期のカブトムシみたいになって仕事が手につかないというのだ。
エヴァンとイーサン兄弟が子供のころ飼育していたカブトムシのオスはある時期がくると四六時中メスに交尾を求めとうとうメスを衰弱死させてしまった。まあラルフの鍛え抜いた鋼の肉体では衰弱死することはないだろうが、逆にオスのカブトムシの命の方が心配になるのだった。




