表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

鏡の中の顔

閲覧して良かったらお気に入りをお願いします。

『うげっ』



ここは何処?



『……白線の内側までお下がり下さい』



駅のアナウンスが、聞こえる。


(駅のトイレ。

どうして……確か寝る前の11時頃、冷蔵庫のプリンを食した筈)


『ヒェッ』



べ、便器に手を。


(あたしぃ……潔癖症なのに、こ、これは夢よ、絶対そうよ)



あたしは、ぶんぶん頭を振り続けた。



『う、うげっ』


(また、吐いてる)


『嘘!? あたし酔ってるの?

臭い……どうしてよ』



(駅のトイレの便器に両手をついて吐いてる)



『いゃぁ、また吐き気が……うげっ』



アルコールの混じった吐瀉物(としゃぶつ)の、すえた匂いがトイレの中に充満した。



あたしは便器に手をついている左右の手を、交互に見やりながら、


『ふうっ』

深いため息を洩らした。



(あたしぃ、アルコール類は、一切飲めない身体なのに。


飲むとジンマシンが出る筈。


……やっぱ変だわ。

これが現実である訳が?)



あたしは両手にジンマシンが出てない事を確かめて、首を(ひね)った。



あたしは、ふらつきながらトイレのドアを、ゆっくり開けた。


トイレを出て、フラフラしながら歩いていたら突然転んだ。



『い、痛ぁい!』



尾てい骨を思い切りぶつけた。


頭の中を電気が走った。


あたしは歯を食い縛り激痛に耐えた。



尾てい骨を、さすりながら洗面所まで行き顔を洗った。



冷たい水が火照(ほて)った顔を心地よく醒ました。



少しだけ(しび)れた感覚が、正常に戻りつつあった。



汚物で汚れた顔に手に(すく)った水で、バシャッバシャッと叩きつけた。



『フゥ~』



顔面を突き刺すような水に思わずため息を洩らした。



ふと後方に気配を感じ視線を錆びれた鏡に転じた。



『えっ!?』


(誰の手? あたしの肩のあたりに白い手が……)


あたしは反射的に振り返った。


(そ、そんな馬鹿な。誰もいないなんて?)



『しっかりしてよ!弘美。幻想よ』



私は自分を励ました。


(……でも何故? 全身の毛穴が、チリチリとするのかしら)



『ゴボゴボ』



洗面台の水がせり上がって来る。



水と一緒に長い女の髪の毛が湧き出して来た。


『いゃあぁぁ』


あたしは鏡を見た。



鏡の中のあたしが、唇を歪めてニタリと笑った。


(あたし、やっぱり変だわ。

明日、心療内科でカウンセリング受けよう)



次の日、会社を休んで家の近くの心療内科に行った。



予約なしだったので3時間近く待つ事になるので近くのファミレスに入る。



ファミレスで看護婦から渡された自己診断用紙を開く。



B5用紙3枚に、チェック項目がびっしりあった。



ファミレスで2時間近く費やしてから病院へ戻る。



病院では自分の名前を呼ばれるまで椅子に深く腰掛けて、壁に後頭部をつける。



「月島さん」



自分の名前を呼ばれて、ハッと目覚める。



時計を見ると20分位しか経過してないのに何時間も熟睡したかのように感じた。



あたしはドアを半分開けて自分を呼んだ看護婦のいる病室に向かった。



40代後半の医者が、あたしが看護婦に渡した自己診断のチェック項目を眺めていた。



医者が、


『脳の損傷による物なのか精神的な物なのか現時点では解らないので、脳外科の診断書を貰って来てください』


と言った。



あたしは元々病院嫌いだったから病院へ行くのを諦めた。



______________________________



事故から3年経過して悪夢から解放されたと思ったのに……。


最近、何故か悪夢も時々襲ってくる。



そして夜の記憶が飛ぶ事が多くなってきた。



記憶も曖昧であるせいか、物忘れも激しくなっている。



ところが2週間前の夜の10時の出来事は不思議な事に鮮明に覚えている。



家の近くの公園を突っ切って帰宅途中の出来事であった。



いつもは遠回りして帰るが、その日は早く家に辿り着きたかった。



公園の中の街灯もあまりなく薄暗いからいつもは敬遠していた。



ところがその日は月明かりで少し明るかったせいか、あたしの足は公園に向かっていた。



公園の入り口付近で、頭が締め付けられるような頭痛が突然襲って来た。



少し立ち止まって、頭を押さえていたら急に痛みが消えた。



早く家に帰ろうと急ぎ足で公園の中ほどまで歩を進めた。



前方に、不良高校生らしき3人組が視野に入った。



嫌な予感がした。



あたしは引き返した。



『ちょっと、姉ちゃん逃げないで!』



反射的に私は振り返った。



恐怖で金縛りになったみたいに、動けなくなった。



『何で逃げるんだ!』



3人のうちガムを噛んでいる、爬虫類のような目をした男が言った。



3人とも薄ら笑いを浮かべながらあたしの身体を、なめ回すように見ている。


『誰か助けて!』



あたしは心の底で叫んだ。


(そう言えば、一週間前にも、近くで帰宅帰りの女性が刃物で刺された事件が……)



唐突にあたしの脳裏に浮かんできた新聞記事が、ますます硬直を加速させた。



「姉ちゃん。俺達さぁ、電車賃ないんだ……少し貸してくんないかなぁ」



『うぅ…』



「この姉ちゃん声帯に障害があるのか?

頷いたからオッケーだとさ」



爬虫類のような眼をした坊主頭が、あたしのバッグから財布を取りだした。



「おぉ! 姉ちゃん金持ちぃじゃん」



「全部取るような俺達じゃぁ、ねぇからよ」



あたしの財布から3万取って2千円だけ残し、あたしのバッグにしまった。



「おい! お前達。 何をやってるんだ?」



「なんだょ。おっさん!

……俺達は金を借りただけだょ」



「そうか。返す意志はあるんだな」



「おぃ! おっさんよ。

舐めた口、聞くんじゃねえぞ」


坊主頭の爬虫類のような目をした男が、威嚇(いかく)した。



「お前達、この近辺で殺人があったのを知ってるな」



相手を威抜くような鋭い目を3人に浴びせながら、警察手帳を出した。



格闘技でもやっているような分厚い胸、そして存在感だけで相手を萎縮させるような、風格の持ち主だった。



『……』



(まぁ! この人警官だったの。以前のあたしだったらイケメンだしメロメロかも。

……今のあたしでもそうだから)


あたしは安心したのか硬直化していた身体が弛緩(しかん)した。



「明日、立川駅前の交番までお金を持って来い。

逃げるなよ。

刺殺事件とは関係ないと思うが、今日は非番でな」



逃げるように3人は姿を消した。



「やあ。奇遇だな。こんな所で再会するとは」


「えっ!

あたしを知ってるんですか?」


「君は冗談を言う人?」



「えっ!?


あたしこんな時に冗談なんか言いません」


(何言ってるの。このお巡りさん)


あたしはチョッと憤慨したような口調で言った。



「何を言ってるんだ。


さっきまで一緒に飲んでいたじゃないか?


それにしても、君がトイレ行ってくるわねと言って、姿を消したから店は大騒ぎだったぞ」



「……」



「どうした……沈黙して?」



(……どう言う事よ?

もしかしたら、あたしかも……)



「あたしじゃないわ。

もしかしたら、あたしの妹では?」


(……妹で、誤魔化すしかないわね)



「えっ、妹?」


「妹は由美って言うのよ。


あたし達、一卵双生児なの。


妹は失踪して行方不明よ。


妹とは知り合いですか?」


(あれっ、どうして由美ってすんなり名前でたのかしら?)



「私は小田和義。彼女とは一昨日、交番で初めて出会った」



「えっ、

……交番で、何か事件?」



あたしは、そう尋ねた刹那、

胸の鼓動が激しく乱れ打った。


そして軽い目眩(めまい)が襲って来た。



それで、あたしはバランスを崩しかけた。



「大丈夫か」



『あっ』



『ゴー』と突然耳なり。



そして視界がグルグル回り出した。



あたしはヘナヘナと腰砕けになった。



「そこにベンチがあるから、ちょっと横になったほうが良い」


あたしは、抱き抱えられるようにしてベンチに寝かされた。



小田と名乗った警官が、彼の上着をあたしに掛けてくれた。

































閲覧ありがとうございます。

良かったら感想やレビューお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ