第15話:異世界おじさん争奪バトル
「お師様の魔法は規格外です。なので魔法職のわたしといっしょに後衛を務めるのが最適です」
誠の右腕を掴んだ小鈴が理知的な声でそう言った。
「なぁに言ってんスか、このちみっこは~? 誠さんのジョブは戦士職なんスよ? 同じ戦士職の自分といっしょに前衛を務めるのが妥当ッス」
一方、誠の左腕を掴んだ朝香は強気な態度で小鈴を見下ろす。
「後衛の方が効率的です」
「前衛以外ありえないッス」
2人はどちらも譲らなかった。
しまいには、まるで綱引きのように誠の両手を引っ張り合って自分の方へ引き寄せようとする。
『おじさん、今日はモテモテだねぇ』
などとドローンから声がする。
どうやら陽菜はこの状況を面白がっているらしい。
「いや、あのね、冗談じゃないよ。いきなりパーティ崩壊の危機だ」
『影分身とかできないの? そういう魔法は異世界になかった?』
「……なかったってばよ」
『そりゃ残念。じゃあ、もう諦めるしかないねぇ』
ドローン越しの陽菜は淡々と告げる。
やれやれ、という誠の脳裏に自然と浮かんだ。
「言っておきますが朝香さん、わたしはお師様の一番弟子です。2番目なんてありえません。弟子は1人だけでいいのです」
「そんなの横暴じゃないッスか! ウチだって誠さんの弟子ッスよ!」
「いいえ、違います。わたしにはちゃんと証があります」
「証って、なんのことッスか?」
「この指輪です。正式な弟子の証として、お師様にこれをいただいたのです」
小鈴は左手を朝香にかざし、その薬指の指輪を見せつける。
「なっ!?」という声が朝香の口から漏れる。
彼女はショックを受けたらしく、誠の顔を覗き込んだ。
「2人はその……すでに、そういう関係なんスか?」
「いや、違う違う。誤解だよ」
「で、でも、左手の薬指に……」
「それも誤解。ただの拾い物のアイテムだよ。たまたま手に入ったから小鈴にあげることにしたの」
誠が真相を語ると「くっ! だましたなぁ、この泥棒猫めぇ!」と朝香は怒りをあらわにする。
「そっちがそういう態度を取るなら、ウチにだって考えがあるッスよ! 小鈴ちゃん、ウチと決闘するッス!」
「望むところです。やりましょう。格の違いを見せてあげますよ」
2人はそれぞれ剣と杖に片方の手で触れようとした。看過できない流れになったため、誠は、ごほん、と咳払いする。
「2人ともストップ。ゆうこと聞いて」
「ですが……」
「でもっ」
「〝お師様〟の命令。聞けないのなら破門にするよ」
言うと、2人は慌てた様子で誠の腕から手を離した。
明文化こそしていないものの、このパーティのリーダーは実質的に誠であった。
ひとまず不穏な空気は晴れた。
しかし、どうしたものかと誠は悩む。
確かに朝香の言う通り、この世界のジョブにあてはめるなら誠は戦士職に属するはずだ。ゆえに前衛を務める方が適任であるようにも思える。
だが、それを言うと確実に小鈴は落ち込んでしまうだろう。
それは誠の本意ではなかった。
偶然とはいえ何かに縁で結成されたパーティだ。できればギスギスすることなく、この問題を解決したい。
〝トーマス、ガチでモテてて草〟
〝俺も美少女に取り合いされたい!〟
〝トマース今すぐ俺と場所変われ!〟
〝誠タヒね!〟
〝ネタが古い〟
〝中には誰もいませんよ~〟
またも荒ぶるコメント欄。
誠は空中画面を視界の隅に移動させ、ううむ、と顎に手をやった。
はてさて、どうしたものだろう?
少しの間、迷った末に誠は「よしっ」と声を上げた。
「こうしよう。朝香は前衛で、小鈴は後衛。で、俺はその中間で魔法で援護したり、剣で朝香をサポートしたりする。これでどう?」
ようは折衷案である。
誠は2人の顔を見た。
やや不満げではあるものの「お師様がそうおっしゃるなら……」「わかったッス」と、少女たちは提案に同意する。
こうして誠はパーティの中衛を務めることにした。
背後も警戒すべきだろう。
小鈴は誠が得意としない回復魔法の使い手だ。全力で守らなければならない。
かくして3人パーティの初の探索が始まった。
やはり深層なだけはあり、出て来るモンスターは中々手強い。
中でも厄介だったのは、表層でよく見るオークの強化版、ハイオーク。
あるいはスケルトンの上位種であるイビルスケトンなどだった。
しかし誠が手を貸すまでもなく、朝香はそれらの強敵に果敢に挑み、苦戦しながらも倒していった。
一方、小鈴も負けていない。
詠唱という制限はあるが、それでも十分な威力の魔法を放ち、前衛の朝香をアシストする。
その腕前に誠は舌を巻く。
確実に言えることとして、この2人の実力は異世界に転移したての頃の自分より遥かに高いということだった。
誠はあらためて、自分が最初から特別だったわけではないことを自覚する。
今この世界で自分が強いのは、異世界ペルボリアスでの10年以上の冒険と、凡夫の自分をサポートし、支えてくれた仲間たちがいたおかげである。
(もし本当に訓練したら、あっという間に追い越されるだろうなぁ)
なんていうことを思いながら誠は前に進んでいった。
果たして、それから1時間ほど一本道のルートが続いた。
誠は時々魔法を使ったり、出て来るモンスターの数が多い時は剣でアシストしたりもしたが、それ以外にはほとんど手を貸すまでもなかった。朝香と小鈴、この2人、戦闘面では相性がいいのか見事に連携が取れている。
〝朝香ちゃんTUEEEEE!!!〟
〝小鈴ちゃんの魔法、イカれてる!〟
〝即席パーティにしてはガチすぎだろ!〟
〝トーマスがニートしてて草〟
コメント欄にも2人をたたえる言葉が飛び交う。
誠は、それが嬉しかった。
それこそ弟子が褒められた時の師匠のような気持ちになる。
それから、ほどなく一行は円形の広場のような場所に出た。
中央には宝箱が設置されていて、先へ続く通路は鉄格子で塞がれている。
(ワンチャンあるかな?)
多分、無理だろうと思いながら、誠は通ればラッキー程度の気持ちで鉄格子に斬撃を試みた。
ガキィィィィィィィィンという甲高い音が鳴り響く。
斬れなかった。この世のどんな金属よりも硬いとされる、ミスリル製の魔剣をもってしても鉄格子には傷1つ付かなかったのだ。
「魔力障壁……」
「みたいだね。正面突破はやっぱり無理か」
状況を分析する小鈴に対し、誠は肩をすくめてみせる。
何か条件を満たさなければ、この鉄格子は開かないようだ。
「あの宝箱が怪しいと思うッス。開けるスか?」
「待って、朝香。このパターンは十中八九、ボス戦になるパターンだ。2人とも俺の後ろに立って戦う準備をしておいて」
誠は2人に指示を出す。
少女はそれぞれ頷き合って、剣と杖を同時に構えた。
誠は一度、深呼吸。
気持ちをなるべく落ち着ける。
そうして宝箱に触れた。
すると盗人を咎めるように、大音量の警報が部屋全体に鳴り響いた。




