第2章 プロローグ
いつもブックマークと評価、誤字報告ありがとうございます。
第1章の内容をギュッとまとめた話なので、読んでくださった方は飛ばしていただいても大丈夫です。
私はついこの間まで『三原 徹』という、アラフォーのくたびれた中年男性だった。
生まれ育った故郷から遠く離れた土地で働きながらひとりで暮らしていたところ、両親が突然事故死したという知らせを受けた。葬儀などをやり終えて今後のことをいろいろと考えた結果、故郷である和歌山の小さな町に戻ってきた。
ブラック企業で身を粉にするように働き、身に付けたスキルで在宅ワークすることを目論んでいた私だったが、残念ながらそう都合よくはいかなかった。
突然我が家の物置の地下にダンジョンが現れたのと同時に、何故か私の体が女性化して若返ってしまったのだ。前夜眠りにつくまではアラフォーのおじさんだったはずなのに、目覚めたら蒼銀の長い髪をもつ女子小学生になっているなんて常識では考えられない。
女性化の原因と元に戻るための方法が、もしかしたらダンジョンで見つかるかもしれない。そう考えた私は家にあったそこら辺の物を装備して、ダンジョンに潜る決意をした。
そんな生活を送る中でスライムの魔石が高く売れることを知った私は、それを宅配便で買取に出しながら女子としての生活を整えていった。ただ田舎町特有のご近所さんたちからの監視を逃れるために、外出はせずに自宅とダンジョンの往復で日々を過ごしていたのだが。
そんな風にまるで隠者のような生活をしばらく送っていたのだが、ある日のダンジョン探索の際にすごく巨大なスライムに遭遇した。こういうこともあろうかと準備をしていた灯油を投げつけて燃やしたおかげで倒すことができたのだが、その後の方が大変だった。
なんと少し離れたところに、年若い女性が全裸で倒れているのを見つけたのだ。介抱して自宅に連れて帰った彼女に着替えを渡して、お風呂に入るように告げた。私も細々した後始末や片付けを終えて彼女が浸かった後のお湯で身を清めたあと、ようやく腰を落ち着けて話をすることができた。
『高月 美桜』と名乗った彼女は、なんとまだ高校生なのだという。セルフカットでみっともない状態になっている髪を美桜さんに切ってもらいながら事情を聞いたところ、なんと彼女はこの田舎町から遠く離れた東京の渋谷にあるダンジョンで転移トラップを踏んだのだと言う。
どうやら彼女の記憶は転移後にスライムに不意打ちで攻撃されたところで途切れているようで、詳細な情報を得ることはできなかった。私も信じてもらえないだろうと半ばあきらめつつも身の上話をしたところ、なんと美桜さんはこんな突拍子もない話を信じてくれたのだ。
まだ未成年である彼女をなんとか早急に親元に返す計画を立てていると、美桜さんから『一緒に東京に行こう』と誘われた。外出することもできずに困っていることもあり、私は彼女の提案を受け入れてふたりで夜中に家を出た。
在来線と新幹線を居眠りしながら乗り継いで、美桜さんとふたり東京に降り立った。さすがに現役で東京に住んでいるだけあって、美桜さんは自分の庭のようにスイスイと私を先導してくれて、あっという間に渋谷ダンジョンへとたどり着いた。
はじめて見た渋谷ダンジョンはまるで大きなショッピングモールのようで、『本当にこんなところにダンジョンがあるのか?』と正直なところ不安になった。
美桜さんのことを心配していた友達とも再会し、美桜さんの仲介でダンジョン協会との話し合いを持つことに成功する。ただその場に現れたのは自分の利を優先する職員だったため、少しゴタゴタとしてしまった。同席してくれた豊岡さんという職員さんがそのおっさん職員を追い出してくれて、ようやくまともに話ができるようになった。
私が元々アラフォーのおじさんだったことや自宅の物置の下にダンジョンが発生したことをなんとか信じてもらって、探索庁へと話を繋いでもらう約束をした。
その際に美桜さんのお父さんが探索庁の上級職員だということが判明して驚いたりもしたのだが、それは余談である。
今から考えるとダンジョン協会を通さずに、美桜さんを自宅に送り届けてから彼女の父親である和明さんにアポを取り、彼に直接話を持っていく方法もあったのかもしれない。ただその頃は彼の人となりも知らなかったし、ダンジョンのことはともかく私の体については信じてもらえなかった可能性が高い。
そう考えるとダンジョン協会を経由して話を伝えたのは、ある意味最善だったのだろう。
渋谷ダンジョンから美桜さんの自宅へと移動し、彼女の母親である小百合さんに挨拶をして、しばらく滞在させていただくことになった。普段の帰宅は午前様な一家の大黒柱な和明さんも、この日ばかりは娘のことが心配だったのか宵の口には帰宅した。
家族団らんにお邪魔しておいしい夕食をいただき、その後は和明さんと私のふたりで話し合いをした。私の希望としては新しい戸籍と実家の買取と新しい住処の紹介の3つをお願いしたかったのだが、和明さんはどれも快く受け入れてくれてボロい実家の土地と家屋になんと30億円もの買取価格を提示してくれた。もちろんその金は国庫から払われるのであって、彼の個人資産ではないのだが。
まさかそんな高額な提示をされるとは思っていなかったので驚きはしたが、これから子供ひとりで生きていくのだからお金はたくさんあって困るものではない。
そう考えてありがたくその価格で受け入れることにした。税金についてもダンジョン関係の法律で税金の優遇や免除があり、私の場合は結果的にそのまま全額受け取れた。
私の希望のほとんどが通った話し合いの最後に、和明さんに『自分たちの養子にならないか?』と提案されて、心底びっくりした。見た目は確かに美少女な小学生だが、まさか中身がアラフォーおじさんの自分を養子にしたいと考える人間がいるとは思わなかったのだ。
元社会人の自分としてはいくらお金があったとしても、子供がひとりで楽々と生きていけるほど世の中は甘くないことはよくわかっている。そういう世知辛い部分を養子になることで解決できないだろうかと考えて、和明さんは提案してくれたのだ。
すぐに答えが出る話でもなかったので、返事はしばらく待ってもらうことにした。翌日は小百合さんと一緒に出掛けて、ようやく美容室で髪を切ったり、当面の着替えや日用品を買ったりした。
とは言っても私は一銭も出させてもらえず、すべて小百合さんに奢られてしまったのだが。
それから1ヵ月の時が経ち、私はこれまでの自分とはまったく関わりのない新しい戸籍を手に入れた。母国の紛争から逃れて日本へと亡命してきた少女、という設定を探索庁公認で作ってもらえたのはありがたかった。
そして和明さんから誘われていた養子の件は、条件を付けることで承諾することにした。本来ならば条件など付けられる立場ではないのだが、彼らは快く受け入れてくれた。
その条件とは彼ら家族の邪魔になりたくなかったのと、この年までひとり暮らしをしてきて今さら自分以外の他人との共同生活を送ることに煩わしさを感じたため、別の場所でひとり暮らしさせてほしいということだ。
これについては高月家の女性陣から大反対を受けたのだが、自分の気持ちを正直に告げて真摯にお願いしたところ、なんとか受け入れてもらえた。ただし同じマンション内に住むように厳命されてしまったため、なんと高級タワマンに自分の家を購入することになった。
最上階に近い高月家と違って、程々の高さで風もそこまで強くない部屋の方が好みなので、ちょうどタイミングよく空いていた10階の部屋を選んだ。合鍵も渡しているので小百合さんと美桜さんがよく訪ねてくるが、それもひとり暮らしの条件なので快く迎え入れている。
小百合さんに付き添ってもらい、実家から荷物を引き上げて売却のための準備を整えて、ようやく東京に新生活の基盤を作ることができた。これから私は高月トールとしての人生を歩むことになる。元の戸籍も生きているから、対面以外なら大人の立場を使えるのもありがたい。これができるだけで、かなり生きやすくなるはずだ。
現在の貯金は人生を何回もやり直せるぐらいあるけど、これから先の未来で何が起こるのかわからないしなるべく減らしくたくない。スライムの魔石が結構な額で売却できることを実体験として学んだ私は、探索者として生活費を稼ぐことにした。
残念ながら私が学生時代に取った三原徹の探索者証は使えないため、高月トール名義で探索者資格を取る必要がある。一番下級の資格ではあるものの、一発合格で取得することができた。
最近は座学研修もあるみたいで、合格者は強制的に受講させられるようだ。当然ながら私も参加したのだけれど、そこで肉体年齢と同い年ぐらいの小学生3人組に一緒にパーティを組まないかと誘われた。
彼らは保育園に通っていたころからの幼なじみなのだそうで、そんな中に私が加わってもいいのかなと逡巡したのだが、ケンカップルっぽい氷空くんと凪咲ちゃんの間で遠慮しながらポツンといる雰囲気なさくらちゃんのことが気になりパーティに入ることにした。
微力ながら3人が対等に接し合うことができるような、フラットな関係を作る手伝いができるのではないかと考えたのも理由のひとつである。
もちろん私としてもソロで活動するよりもパーティで行動した方が探索の安定感が増すだろうし、下の階層に下りるためには階層ボスと戦わなくてはいけないので、その攻略もやりやすくなりそうだというメリットも考慮に入れている。
そんな経緯で結成された私たちのパーティだけど、中学生ぐらいの探索者が複数で魔物を独占して狩っているためこちらに回ってこなかったり、様々な問題を乗り越えてようやく最初の階層のボスであるファイアスライムを討伐することができた。
適性がなくても初級の水魔法が使えるウォーターガンや、魔力回復ポーションなどを購入するなど財力でゴリ押しした部分も大きかったので、今度は自分たちの実力でボスを倒せればいいなと考えている。
そんな決意を固めながら、次の階層である第2階層を探索する準備を進める私たちなのであった。
現在カクヨムで行っている女性シンガーの改稿が終わるまでは、月に1~2回程度の更新頻度になると思います。




