表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/28

23――学校の話と階層ボスへの挑戦

 美桜さんと小百合さんが自分の家に帰るのを見送ったあと、男だった頃より小さくなった手でキーボードをカチャカチャと叩いて報告書を作ってみた。でもまだ何にもわかってないし、経緯と私の予想だけしか書ける内容がなかったので、報告書というよりは物語のあらすじみたいな文書が出来上がってしまった。


 これが送られてきたら、いくら和明さんでもおそらく困るだろう。でも間違いだろうと自己判断して黙っていたら、実際に問題が起こって大変なことになった事例もある。

 私ではないけど、社畜時代に報連相を怠ってとんでもない損害を会社に与えた人の話も聞いたことがあるし。この情報を受け取って、どう判断するかを決めるのは和明さんたち探索庁の人間だ。とりあえず私は自分がやるべきことをやろうと、和明さんのメールアドレスに向けて送信しておいた。

 これが功を奏したのかはわからないけど、あれからひと月ぐらい経った現在――渋谷ダンジョン第一層は相変わらず混み合ってはいるが、魔物を独占しているグループはいなくなったようで、魔物をまったく見掛けないという状況は解消されていた。


 ダンジョン協会が行った対策としては、怪我などで引退したそれなりにレベルが高い探索者を協会が雇い、子供たちが立ち入りを許可されている第一層から第三層の中を巡回させるようにしたらしい。

 子供たちだけが魔物の奪い合いをしていた際は年齢やレベルでヒエラルキーの頂点にいた独占パーティの連中も、そこに自分たちよりも強い大人が入ってくるならば話は別だ。

 ダンジョン協会が魔物の独占行為についての警告をインターネット上で大々的に発表し、探索庁が罰則を検討するとまで言い出したからには、中学生たちも手を引くしかない。


 いくら大金が手に入るとはいえその代償に国から睨まれるなんて、自分の将来と手に入る金銭を天秤に掛ければ絶対に避けたいと思う人がほとんどだろう。おかげで子供探索者がしっかりと経験を積める健全な階層としての姿を取り戻し、平日の放課後や週末の日中は賑やかながらも微笑ましい光景が見られるようになった。


 ただこれらの階層は子供たちが主な利用者のため、夜中などは人気がほとんど無くなるのが常なのだが、それを利用してスライムの魔石を集める輩が現れたのだ。

 夜間も監視カメラを設置して警戒を強めていたダンジョン協会と巡回のために雇われた探索者の活躍により、声掛けをして逃げ出したあやしい人間を数人捕まえることができたそうだ。ただ身元を確認すると日本に帰化したり不法滞在していた他国の人間だったようで、どうやら私が以前に危惧していた他国の介入の可能性が、現実味を帯びてきていると和明さんから聞いた。


 それを聞いたところで私に何ができるわけでもなく、ダンジョンの平和を保つために頑張ってくれている現場のみなさんに心の中でエールを送って、のんびりと日々の生活を送っている。


 そんなある日、本当なら小学校に通いはじめるのは来年度からという話だったのだが、『三学期から学校に通いはじめませんか?』と区の教育委員会から保護者の和明さんたちに連絡があったそうで、私の方にも正式に打診がきた。


 私が学校に早く慣れるようにという教育委員会側の言葉だったが、どちらかというと外国人そのものな外見の私に同じ学年の子たちを慣れさせたいという意図が見え隠れしているようだ。私にそれを冗談めかして説明してくれたのは和明さんだけど、隣に座る小百合さんも同意見だと頷いていた。


「トールさん自身も自覚しているだろうけど、君はとびきり見目麗しいから。今の子供たちは非常にマセているようだし、色恋沙汰みたいな面倒くさい騒動は避けたいと教育関係者が思ってしまうのも仕方がない部分もある。それ以外にもしかしたら、外国人差別みたいな悲しい話も出てきてしまうかもしれない」


「例えば女子に人気の男の子が、トールちゃんのことを好きになったとするじゃない? もしかしたらそれが面白くない子やその男の子のことを好きだった子たちから集団でイジメられるかもしれない。元男性なのだから当然だけど、トールちゃんはそういう女の子たちの心の機微ってよくわからないでしょう? 早めに学校に通って、味方になってくれる友達を作っておいた方がいいわよ。恋愛以外の問題が何かしら起こったとしても、あなたの味方になってくれるでしょうしね」


 そんな風に話を切り出した保護者ふたりから、それぞれの視点から見たメリット・デメリットを説明してもらった。どうせ来年の春には通う予定だったのだから、時期が数ヵ月早まるぐらいは特に影響ないだろう。

 今さら小学校に通うという面倒くささはあれど、別人として戸籍を作ってもらったのだからこの程度の手間は惜しまずに将来の自分のためにこなすべきだろう。あまりイジメという呼び方は好きではないが、私たちの時代でもつまらない理由で誰かをしいたげる輩は存在していたからね。

 私が実際に外見と同じ年齢の子供だったなら、精神的に傷つくこともあっただろうが、こちとら社会人として荒波に揉まれてきた元社畜だ。もしもイジメられたらしっかりと同じ分だけ相手にやり返すことを、ここに宣言しておきたい。


 私たちが住んでいる区の教育委員会の窓口になってくれる職員さんとも、実際に会って面談してもらったが特に問題はなさそう。編入して授業にちゃんとついていけるようにと定期的に大量の宿題を出されることが決まってしまったが、さすがに小学校で習う内容で躓いたりはしなさそうで、教材の中身を見てホッとした。

 この間美桜さんが冗談めかして言っていたが、どうやら本当に脳も体と同じように若返ったみたいで、記憶力や思考能力がすごく良くなっているのにはびっくりした。いや、この場合は衰えていた記憶力が子供の頃と同じぐらいに戻ったとでも言うべきなのだろうか。


 私たちが学校で習った内容って後の研究で新事実が発覚したりして、今の教科書だと修正されて記載されていたりするんだよね。そういうのを覚え直しをしていると、スルスルと知識として脳に吸収されていくのが楽しくて、あっという間に出されていた宿題を片付けてしまった。


 氷空くんたちが学校に行っているため放課後まではヒマなので、ダンジョンで彼らと待ち合わせている時間までは家事をしつつ予習する時間に充てている。もしかしたら本当に虐められたりなにかしらの問題が起こって、区内の中学校に通えなくなるという未来が訪れる可能性もないわけではない。


 もちろんこれは現時点では杞憂でしかないのかもしれないけど、受験のためにも勉強はすればするだけ無駄にはならないだろうから、参考書を買ってきて何十年ぶりかの猛勉強に励んでいる。まぁ2日に1回は小百合さんに外に連れ出されるので、勉強の進み具合がすごく早いということはないのだけども。


「なんだよ、トールって区立の学校に通うのか? てっきり私立だと思ってた」


 ダンジョンで魔物の復活待ちをしている時の雑談でポロッと、三学期から学校に通うと説明したら氷空くんからそんな言葉が返ってきた。


「うーん、お義父とうさんとお義母かあさんは私立の学校に入れたかったみたいなんだけど……卒業まであと2年だから家から近い方がいいかなって結論になったんだって」


「そうなのね、一緒の学校だったら連絡がしやすくてよかったのに」


「うんうん。トールちゃん、わたしたちの家の近くに引っ越してきたらいいよ」


 私の説明を聞いて、すぐ傍に座って休憩していた凪咲ちゃんとさくらちゃんがそんなことを言った。最初はトゲがあった凪咲ちゃんだったけど、私の様子から氷空くんへの恋心を感じないからか、最近は普通に友達として接してくれている。

 さくらちゃんは元々仲良くしたいと思って懐いてくれていたみたいなので、抱きついたり手を握られたりとスキンシップがさらに増えてきている感じかな。


 サラッと無茶なことを言うさくらちゃんに苦笑しながら、首をふるふると横に振った。そもそも今の家を買うときに、小学生の知り合いや友達なんていなかったからね。もうタワマンも買っちゃったし、万が一3人と知り合うのが購入前だったとしても、同じ場所で暮らすという小百合さんたちとの約束もあるから難しかったんじゃないかな。


「そんなことよりも、みんなのレベルっていくつになったんだっけ?」


「オレは6、お前らも同じだろ?」


 氷空くんが答えつつふたりに視線を向けると、彼女たちも揃ってコクンと頷いた。魔物がコンスタントに狩れる環境になってまだひと月だけど、パーティ設定で経験値が等分されているからか私がソロの時よりレベルが上がるスピードが早い気がする。


「それじゃあ……そろそろ装備とかも準備して、ボスに挑戦してみる?」


 私の提案に、氷空くんは『やる!』とテンション高く即答した。でも女子ふたりは不安の方が勝つのか、お互いの顔をチラチラと見て何か意思疎通みたいなものをしているみたいだ。


「……大丈夫? あたしたち、あんまり強くなった気がしないんだけど」


 凪咲ちゃんの不安に同意するように、さくらちゃんも頷いている。うーん、ちょっと安全な狩りに慣れさせすぎちゃったのかもしれない。私と氷空くんが前衛でスライムやコウモリを足止めして、安全なところから攻撃して倒すというルーティーンでやってきたからね。

 仮にもボスと呼ばれるからには、これまで相手にしてきた魔物よりも強い敵を相手にしなきゃいけない。もしも自分が攻撃されたらどうしよう、と不安になるのも当然のことだろう。


 ゲームならば死んでも何度だって蘇るし再挑戦も可能だけど、現実はいつだって1回勝負なのだ。それを考えれば慎重になるのは正しいし、むしろそういう考え方ができるあたり彼女たちは年齢よりも精神が成熟していると思う。


「大丈夫だよ、凪咲ちゃん。この1ヵ月頑張ってレベルを上げたんだから、絶対大丈夫!」


 自分よりも引っ込み思案だったさくらちゃんが、勇気を出してそう凪咲ちゃんと励ました。本当は自分も怖いだろうに、震える手で凪咲ちゃんの手を握るさくらちゃんの姿に、凪咲ちゃんの負けず嫌い心に火がついたようだ。

 こちらも強がりだとわかるぐらい表情が強張っていたが、鼻をフンと鳴らしながら『ちょっと不安だっただけよ!』と言ってボスに挑戦することに同意した。


 これからも下の階層に下りる際にはその階層のボスとは戦わないといけないので、この第1階層でどうやってボスの情報収拾をするかなど、氷空くんたちには実地で学んでもらおう。

 とりあえずボス部屋への突入は3日後にして、明日1日使って各自がそれぞれボスに対する情報を集めてくることにした。そしてその集めた情報をみんなで持ち寄って、残りの1日半で準備をする。そのスケジュールを提案すると、3人ともすんなりと納得してくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ