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突然TSしたアラフォーおじさんがダンジョン探索する話  作者: 武藤かんぬき
第1章

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22/28

21――スライム退治完了と魔石の買取


「スライムの中に黒い塊があるでしょ? あれがスライムの心臓みたいなもので、核っていうの。なるべくアレを狙って、思いっきり石を投げてね」


 みんなにそう説明しながら、振りかぶってこぶしぐらいの大きさの石をスライムに向かって投げた。レベルが上がって器用になっているのか、私の投げた石は命中して当たった部分が飛び散っていく。

 石だけではさすがに倒し切ることができずに、スライムは体内に残っている酸をこちらに向かって飛ばしてきた。


「この酸に当たったら肌がヤケドしたみたいに爛れるから、絶対に当たらないようにね」


 警告しながら、岩陰に身を隠して酸を避ける。3人も見様見真似で私と同じように岩の陰にしゃがみ込んだ。

 もし本当に当たったとしたらヤケドで済まない可能性も高いんだけど、変に恐怖心を煽りすぎるのもよくないよね。肉が溶けて骨が見えることもよくあるらしいし、そうなったら私のヒールで治しきれるかどうか。

 多分美桜さんの時はレベルの高さと装備が身を守ってくれたから、あの巨大スライムが放った酸の砲撃を浴びても少し赤くなるぐらいで済んだのだろう。


「オ、オレからやってみる!」


 男の子のプライドなのか、それとも好奇心が勝ったのか。まずは氷空くんが少し緊張気味な表情でそう言った。もうちょっと肩の力を抜いた方がいいかな、そう思った私は彼の後ろに回ってそっとその肩に手を置いた。


「大丈夫、落ち着いて。スライムは私たちとの距離が一定以上に空いていれば、いきなり酸を撃ってくることはないよ。ジワジワ近づいてくるけど、動きは遅いから心配しないで」


「お、おう……とりあえず、投げるぞ」


 氷空くんにそう言われて、彼の肩に手を置いたままだったことに気付く。このままの状態だと石を投げられないし邪魔だよね。私はそっと手を離して、彼の数歩後ろまで下がった。投げた石が当たったらすぐにそのスライムを焼き払えるように、指鉄砲の形にして備える。


 『おりゃっ!』という掛け声と共に、だいぶ大きめの石が氷空くんの手から放たれる。一投目は残念ながら狙ったスライムには当たらずに、別のスライムに直撃した。でもまぁ、結果オーライだよね。


「ファイア!」


 氷空くんの石に当たったスライムを、ファイアで素早く倒した。私のレベルが上がったからか、最初の頃よりちょっと威力が上がっている気がする。炎に溶かされて消えたスライムのいた場所に、魔石がポロンと現れるけれど拾うのは後だ。


「トールが使える魔法ってファイアだったのかよ、カッケー!!」


 尊敬と羨ましさがないまぜになった氷空くんの視線に、私のやる気がモリモリ上がる。


 次は凪咲ちゃん、その次はさくらちゃんと順番に石を投げてもらって私が燃やすというルーティーンを繰り返す。3人で順番に交代しながら同じことを30分ぐらい続けているとようやくその場のスライムを倒しきったので、4人で地面に転がっている魔石を手分けして集めた。


「おお……本当にこれ、オレたちが倒したのか?」


「あたしたちはただ石を投げてただけだったけどね。倒したのはトールでしょ」


「トールちゃんの魔法すごかったね。わたしもあんな風にかっこいい魔法、使ってみたいなー」


 三者三様の感想を言い合いながら、私のところに魔石を持ってくる。一番大きなリュックを持っているのと、この中だとレベルが一番高いのでステータスが魔法使いタイプの私でもこの3人の中では一番力持ちだからだ。

 リュックの中はまだまだ余裕があるので、そこに拾った魔石を入れてもらって背負い直した。


 倒されずに放置されていた期間が長かったのか、スライムの魔石が通常より大きい物がいくつかあった。あの巨大スライムの例を考えると、いくつかのスライムが合体して成長したと考えるべきかもしれない。合体なのか共食いなのか、どちらが正しいのかはわからないけどね。


「じゃあトールの取り分を多くするか。これだけ魔石があれば、オレもいい装備を買えるかもしれないし」


「ううん、きっちり4等分でいいよ。はじめてのダンジョン探索、頑張ったのはみんなも一緒なんだし」


 私がそう言うと、なにやら3人からの視線に温かみやら尊敬みたいなものが増えた気がした。正直なところパーティ内で不公平感から不和が出ないようにという打算から出た言葉だから、そんな風にまっすぐな好感を向けられると罪悪感をおぼえる。


 それに氷空くんの論功行賞を地で行くような考え方は将来有望だしありがたいのだが、いい装備というものはなかなかにお高いのだ。私はこの間の買い物でそれを知ったよ。彼としてはとりあえず棍棒を卒業できればいいのかもしれないけど。


 第一層にいる魔物なら市販の金属バットでもなんとかなるだろうし、そっちもお勧めしておこう。あの相棒だった金属バットはそろそろ次の持ち主に見つけてもらっただろうか、そんなことを考えながらこの場所を脳内マップにマーキングしておく。


「今度来るときも、この場所はチェックした方がよさそうだね。あれだけ倒したのにスライムがリポップしないということは、この階層のいろんなところにバラけて現れてるんだろうし」


「そうね、そうしましょ。今日はたくさん歩いたし、これで終わりにしてもいいんじゃない? 最初はどうなることかと思ったけど、無駄に歩いただけにならなくてよかったわ」


 凪咲ちゃんが少し疲れた表情でそう言ったのをきっかけに、初回だしダンジョンと魔物との戦いを少し経験できたしここで切り上げることにした。戻る途中にいくつかの小学生パーティがスライムと戦っているのを見かけたから、どうやら別の場所にリポップしたという私の推測は正しかったみたいだ。


 魔物を探して階層の奥の方まで移動していたので、出入り口まで戻るのに時間は掛かったが無事に帰り着くことができた。帰りの道中でそれぞれステータスの確認をしてもらうようにお願いしておいたので、レベルが上がったのかどうかは精算後に聞こう。


 ゲートの係員である女性に『おかえりなさい』と声を掛けられたので、『ただいまです』と返事をして受付にも戻った旨を報告する。魔石の買取について聞くと、買取ブースへと案内してもらった。

 待ち合い室と査定室が分かれていて、誰が何を持ち込んだかをパッと見た感じはわからないように配慮されている。高額なドロップ品を持ち込んで大金を手に入れた探索者に目をつけたならず者グループがあとをつけて、殺害した挙げ句に金銭を奪うという残忍な事件がダンジョン黎明期には多発したらしいからその防止の意味合いもあるのだろう。


 番号札を取って呼ばれるのを待っている間に、3人にレベルが上がったどうかを聞いた。石を一度当てるだけでは得られる経験値は少なかったかもしれないけど、あれだけのスライムを倒したのだからひとつぐらい上がっててほしい。


 少しもったいぶってから、3人は人差し指と中指を立ててピースの状態にしながら小声で『レベル2になった』と教えてくれた。残念ながら新しいスキルは身につかなかったみたいだけど、レベルが上がったということは基礎能力も強化されているだろうし、次からは安心して彼らの戦いを見ていられそうだ。


「1683番の方、窓口までお越しください」


 雑談をしていると私たちの番号が呼ばれたので、全員で窓口に移動する。一応このパーティのリーダーは氷空くんなので、窓口の女性との会話は彼に任せた。

 私が全部やっちゃうと、彼らの経験にならないからね。後方腕組みおじさんとして、3人の成長を特等席で見守っていたい。もちろん何かあれば手助けするつもりだけど、大人だからってやたらと出しゃばるのはよくないからね。


 査定室に入ると白手袋を付けたおじさんが待っていて、テーブルの上に買い取る品物を出すように言われる。


「トール、魔石を出してくれ」


 氷空くんの指示に頷いて、リュックから魔石を数回に分けて取り出し、テーブルの上に置いた。おじさんがにこやかに『たくさん持ってきてくれて嬉しいよ』と言いながら、魔石をひとつひとつ検分していく。

 女子ふたりはこういうお堅い空気に慣れていないのか、表情をこわばらせながら氷空くんの後ろに立っている。小学生男子はこんな感じに物怖じしない子の方が多い気がするなぁ、私は逆に引っ込み思案なタイプだったから全員がそうではないんだけどね。


「しかし、よくこれだけの魔石を……この時間の第1階層は混み合ってて魔物になかなか会えなかっただろうに」


「人が多いだけじゃなくて、独占してるヤツらがいるんだよ。中学生ぐらいのパーティが」


 おじさんの言葉に、思わずといった様子で氷空くんが反論する。聞いた感じだと、ダンジョン協会もたまにダンジョンの様子を覗いているみたいだけど、あまり現状を把握していない気がした。実際に氷空くんの言葉を聞いて『ええ? そんな子たちがいるの?』と半信半疑な様子だったし。


「氷空くんの言葉はウソじゃないです。レベルが高いからか、すごいスピードでダンジョン内をあっちこっちに走り回ってる感じで。多分魔物がリポップする確率が高い場所を調べて、効率のいいルートを決めて狩りをしているんだと思います」


 それが何人もいるんだから、そりゃあ第1階層の魔物は枯渇するよね。もちろんウソじゃないよと凪咲ちゃんとさくらちゃんも後ろで必死にうんうんと頷いてくれていたので、どうやら信憑性のある話だとおじさんも思ってくれたようだ。


「そうだったのか、それはこちらの管理不足ですまないね。上に報告して調査してもらえるように話をもっていくよ。しかしその状態で、君たちはどうやってこれだけの魔石を……?」


「彼らの巡回ルートから外れた場所に、スライムが溜まっている場所があったんですよ。順番に倒して、魔石を持って帰ってきた感じです」


 ああ、しまった。また私が出しゃばって説明してしまった。氷空くんたちは気にした様子はないけど、できるだけ彼や他のふたりが説明できる状況にもっていかないと。


 ダンジョン協会に素材を買い取ってもらうと、民間の買取業者よりは査定が低くなる。でも私たちは未成年だから、ここで売るしかないんだよね。


 それでもひとり当たり約4万円の利益を得て、初日の狩りは終わった。氷空くんが早速この金額でも買える武器を買いたいとかのたまっていたけど、世知辛いが4万円じゃいい武器は買えないんだよ。

 それにまだ棍棒を使って戦闘していないんだから、一度試してからでも遅くないよと説得した。


 そんな氷空くんに呆れた女子ふたりのジトッとした視線が向けられて、今日のところは新しい武器をしぶしぶ諦めた氷空くんがちょっとかわいそうだった。


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― 新着の感想 ―
1日数万円行くならそりゃ調べて周回するやろな
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