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オリキャラのキャキャキャ1  作者: 御餅屋ハコ
オリキャラのキャキャキャ1 第四章
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第四章 06 鑑定屋


06


 時計塔は、三階建てか四階建てのビルぐらいの高さだった。周りの建物より頭一つ分抜きんでている。入り口はあったが『関係者以外立入禁止』と書かれ、施錠されていた。中の歯車にいたずらされないようにだろうか。

 時計塔の正面には大きな建物があり、『鑑定屋・ファスタン』と書かれた看板があった。

 川を渡らなくても農地や工場に行ける、品物の供給源により近い東ファスタンの方が、西ファスタンより重要な施設がそろっているようだ。

「鑑定屋だね」

 リユルがそう言って胸元を押さえる。服の下には蓄光石がある。

「ええ。ここにあったんですね」

 ヴァルルシャも首から下げているものを確認する。蓄光石の光は金色になっていた。

「入ってみようよ」

 ユージナが入り口を指さす。その広い入り口を、魔物狩り屋らしき人々が何人も入っていくのが見える。

 三人は鑑定屋の入り口をくぐった。

 鑑定屋の中には大きな広間があり、広間の中央、外からの出入り口から真正面に見える位置に、『換金の方は一列になって並び、空いた窓口にお進みください』という看板があった。その看板に沿って十人ほどが横に並んでいた。看板の向こうには、カウンターがあるのが見えた。

「銀行とか、区役所の窓口みたいだね」

 リユルが他の人に聞こえないように、ヴァルルシャとユージナにささやく。二人も小声で返す。

「税金から魔物狩り屋にお金を配分するわけですから、公的機関なわけですものね。役所っぽいのは当然かもしれませんね」

「てことは、働いとる人も、公務員みたいな扱いなのかな。ていうか……あれは精霊?」

 ユージナが背伸びをして、魔物狩り屋と看板の向こうの窓口を覗く。

 それは、役所や銀行の窓口のように、一定間隔をついたてで区切った、しかし完全に遮断されたわけではないスペースだった。

 窓口の上には説明書きがあり、半分以上は『換金』と書かれていたが、『蓄光石の制作』『その他ご相談』と書かれた窓口もあった。

 そしてそのすべての窓口に、普通に座って対応しているのは、人間だろう。

 皆、茶色っぽく、装飾の少ないかっちりした服を着こんでいる。窓口の奥でも、机に向かって書類を書いたり、棚を行き来したりしている人間が、男も女も同じ服を着ているのが見える。それが鑑定屋の制服なのだろう。店員というよりは、職員、と呼んだ方がふさわしい雰囲気だった。

 そして、それぞれの窓口で、宙に浮いているもの。全体的に茶色っぽく、半透明で、窓口に座っている人間と同じ制服を着ている。鑑定屋の精霊だろう。

 精霊は男の姿も女の姿も同じぐらいの数がいたが、そのすべてが、顔に眼鏡をかけていた。

「眼鏡だ! 眼鏡ってこの世界にあるの?」

 ユージナが二人にささやく。リユルとヴァルルシャも精霊の姿を確認し、顔を見合わせる。

「本当ですね。眼鏡があるということは、視力を補正する技術があるということ、レンズを作る技術があるということですよね。それに、虫眼鏡のような形でなく、耳につるをかけて顔に乗せる、という形が考案されているということは、手ぶらで眼鏡を使いたいという需要が高いからそういう発想が出た、つまり労働者階級にも眼鏡は普及している、そういう推測が成り立ちますね」

「でも、窓口にいる人は眼鏡かけてる人いないね、みんな割と若いし……。あ、奥の方にいる、部長とかそんな感じのちょっといい机に座ってる人、眼鏡かけてるね。髪も白いし、この中で一番年配っぽいね」

「てことは、眼鏡は知性の象徴、ってイメージがこの世界にもあるってこと? だって窓口におる精霊、男も女も、そんな歳いっとるように見えんし。知的キャラを眼鏡にするのってあっちの世界じゃよくあるけどさ……」

「でも、さすがお役所というか、眼鏡をかけているデザインでも、萌えキャラという感じではないですね。お堅いイメージキャラクターと言ったところでしょうか」

 そこまでひそひそ話をしたところで、後ろからまた新たに魔物狩り屋がやってきたことに気づき、三人は黙って換金の列に並ぶことにした。

 列の先頭から、一人、またはパーティーごとに、空いた換金の窓口に進んでいく。

 ユージナ、リユル、ヴァルルシャの順番になり、三人はそろって同じ窓口に進んだ。

 三人が進んだ窓口は、人間の男性の職員と、男性タイプの精霊がいる窓口だった。

 他の魔物狩り屋がやっているように、蓄光石を精霊に見せる。

「では、鑑定いたします。こちらの蓄光石に蓄積された功績は……5,235テニエル、5,510テニエル、8,916テニエルとなります」

 精霊は知的で落ち着いた声で、ユージナ、リユル、ヴァルルシャの順番に、そう示した。

「うちら、休んどる日もあったで、ヴァルルシャが一番高いんだね」

 ユージナがリユルに言う。二人は生理で魔物狩りに行かなかった日があり、常に魔物狩りに行っていたヴァルルシャが一番高いのは当然だった。

「精霊の鑑定にお間違いはございませんか? でしたら、お金を準備いたします」

 人間の職員はそう言い、カウンターの下で何やら準備し始めた。おそらく金庫などがあるのだろう。

 精霊は穏やかな顔でほほ笑んでいる。リユルは精霊に話しかけてみた。

「ねえ、あなたの名前は何て言うの?」

 フィーアの魔法屋や髪染屋・クァリスのように、店に精霊の名がつけられているわけではない。人間の職員も『精霊』と呼んだし、どんな名前が付けられているのか気になった。

「私たち鑑定屋の精霊は、カンティーと呼ばれます。ここはファスタンの町の鑑定屋なので、私の名前は『ファスタン・カンティー』となります」

 鑑定屋の精霊、ファスタン・カンティーはそう答えた。

 『かんてい』だから『カンティー』なのだろう、三人は目でうなずきあった。

「そっか、でもフルネームで呼ぶとちょっと長いね。だから『精霊』って呼ばれてるのかな?」

 リユルがそう言ったとき、鑑定屋の職員が準備を終えて姿勢を戻した。リユルの言葉に笑顔を見せるので、間違っていないのだろうと思われた。

「では、こちらの蓄光石の光を、これだけのお金と交換いたします。ご確認ください」

 職員はトレイを三つ差し出した。そこにはさっき精霊が鑑定した金額がそれぞれ乗せられていた。

 この世界で、最初から所持していたお金でなく、自分たちで、魔物退治をして、稼いだお金。それがこうして、目の前にある。

 三人は誇らしい表情で、うなずいた。

「では、光を吸い取らせていただきます」

 精霊、ファスタン・カンティーが言い、蓄光石に手をかざすと、光が彼の手に吸い取られていった。蓄光石は元の黒い色に戻る。

 三人はお金を受け取り、蓄光石をしまう。

「またよろしくお願いします」

 職員と精霊がそろって頭を下げた。三人は窓口を離れる。次の魔物狩り屋がその窓口に向かう。

 鑑定屋の壁には、掲示板があった。窓口を離れた三人は、そこへ向かった。そこにはこんな文字が書かれていたからだ。

『魔王予報』

『現在、魔王発生の予測はありません』

 木でできた掲示板に、そう書いた紙が鋲で止められている。

「魔王予報……。なんか、天気予報みたいだね」

 リユルの言葉に、ユージナとヴァルルシャもうなずく。

「魔王が出そうになったら、ここに『魔王出没注意』とでも書かれるんかな? 熊みたいだね」

「下の方に、『魔王らしきものと遭遇した場合は情報提供をお願いします』とも書いてありますね。魔王の出現予報が出て、どのあたりに出たらしいぞ、という情報が入ってきたら、それを元に出現場所の情報もここに張り出されるのでしょうか。『南の海上で魔王が発生しました』とか、台風のように……」

「なんか、『魔王を退治する勇者を求む』みたいなかっこいい感じかなーって思っとったけど、こんな感じなんだね。勇者がおらん設定だでこうなったんかな」

「でも、わかりやすくていいよね。魔王の出現場所の情報があったら、あいたちもそこに行けばいいんだし」

「そうですね。我々の目標は、魔王を倒すことですから」

 魔王の出現予報が何もないので、他の魔物狩り屋たちはその掲示板に目も止めず通り過ぎていく。他の魔物狩り屋が時々立ち止まるのは、別の壁に設置されている、このあたりの地図だった。

「地図だ! 地図があるよ!」

 ユージナが言い、三人もその地図を見に行く。

 地図は広範囲ではなく、ファスタンの町を中心に近辺を描いたものだった。だが、今まで歩いたところの確認ができるし、これから向かうところの情報も得られる。十分にありがたかった。

 『現在位置』と書かれた横には『ファスタンの町』という表記があり、『鑑定屋』という文字が、川の東側の一点を示している。この地図が掲示されているこの場所だ。

 町の施設は他には橋しか描かれていなかったが、川を挟んで町が広がっている図は示されていた。川には『キヨゥラ川』と表記があった。

 キヨゥラ川を上になぞると、森に囲まれた中に湖があり、『ズーミー湖』と書かれている。森は山と一体化して広がり、南西に伸びている。そこに『ヤームヤーム山脈』と記述がある。

 キヨゥラ川を下になぞると、川沿いに森が描かれている。リスタトゥーの宿屋は表記が無かったが、ファスタンから南へ伸びる街道が森の近くを通っているので、その辺りだと想像がつく。

 地図の縦の表記はそこで終わりで、街道のところには『この先、ギョーソンの町』と書かれていた。

 ファスタンの町からはもう一本、東にも街道が伸びていた。道具屋で聞いた通り、町の東側は平野で、農地や工場なのだろう。リスタトゥーの宿屋のそばの森が、キヨゥラ川を挟んで少し広がっているぐらいで、大きな森や山などの表記は無かった。

 東に伸びる街道の、地図の横幅が尽きて表記が途切れるところに、『この先、セカンタの町』と書かれていた。

「セカンタ、って……セカンドタウンの略かな」

 リユルが、他の魔物狩り屋がいなくなった隙を見計らって二人にささやいた。

「それを言うなら、ギョーソンは漁村でしょうね」

「てことは、うちらが次に向かう町は、セカンタに決まっとるってこと? ここがファスタン……ファーストタウンなんだもんね?」

 ヴァルルシャとユージナも小声で会話を返す。

「じゃあ、あいたちがセカンタに行かず、ギョーソンへ行く選択をしたらどうなるの?」

「しかし、ギョーソンが漁村から来ているのならば、『ギョーソンの町』という表記ではありますが、町よりも村といった規模なのかもしれませんね。となると、我々が次に向かう『町』は、どうあがいてもセカンタ、そういうことなのかもしれません」

「あっそうか、漁村ってことは、その先は海ってことだもんね。あいたちがさらに進もうと思っても、ギョーソンより先に町は無いってことか」

「『港町』なら船でどっか行けるのかもしれんけど、漁村だもんね。魚を捕る船しかないのかも。てことは、うちらがファスタンから行ける『次の町』は、セカンタ以外にないってことか……」

 ユージナがそこまで言ったところで、鐘の音が鳴り響くのが聞こえた。鑑定屋の中からではない。鑑定屋の正面の、時計塔が鳴ったのだと思われた。

 あたりを見回すと、外からの出入り口の上部、入ってきたときは同じ向きなので目に入らない位置に、時計が一つ掲げられているのに気づいた。その針は真下、「5」の位置を指している。

 ということは、現代日本で言う夕方の六時だ。

 窓口の方がざわつくので三人はそちらの方に顔を向ける。すると窓口の人間の職員が立ち上がり、精霊も同じように宙に浮きながら、揃って『気をつけ』の姿勢をとっていた。

「夕の五刻となりました。窓口の業務を終了させていただきます」

 人間も精霊も、そう言って一礼した。

 そして、精霊は半透明の姿がさらに薄くなり、消えていった。

 換金を待つ列はすでに無く、魔物狩り屋は、掲示板や地図を見ている者がわずかに残っているだけだった。

「時間になったので業務終了ですか……お役所仕事って感じですね。魔物狩り屋もその時間に間に合うように換金しに来ているんでしょうね。まさに役所の窓口のようです」

 その様子を見て、ヴァルルシャが小声でそう言った。

「でも、精霊って、時間になると消えちゃうんだね! 一日中いるとそれだけ税金がかかるから? 役所とかお店の営業時間に合わせて、何時から何時まで精霊を置きたいです、っていう申請を国にするってこと? で、時間になると消えて、時間になると現れる、ってこと?」

「今の見とるとそういうことだよね。ていうか時間、『夕の五刻』って言うんだね。文字盤が指しとる数字に『刻』をつけて言うってこと? てことは正午は『昼の一刻』とかそういう言い方?」

「かもしれませんね……。それより、鑑定屋が片付けに入っているようですから、我々も外に出ましょうか」

 他の魔物狩り屋も鑑定屋の外に向かい始めた。鑑定屋のカウンターの中でも、人間の職員が書類などをまとめ始める様子が見て取れる。精霊はただ消えただけだが、人間には後片付けの仕事が残っているようだ。

 三人が鑑定屋の外に出ると、空は夕焼けで赤く染まっており、正面の時計台が、「5」の数字を指しているのが見えた。

「もう夕方になっとる。結構時間が経っとったんだね。そろそろ、宿屋さがさん? 荷物も置きたいし」

 ユージナが風呂敷包みを背負いなおしながら言った。

「そうだね。それに、お腹すいたよね。食べるお店はいっぱいあったから、夕ご飯は宿屋で用意してもらわなくても大丈夫だよね」

 リユルが胃のあたりを撫でながら言う。

「では、宿を探しましょうか」

 ヴァルルシャが言い、三人は宿屋を探し始めた。

 宿屋はすぐに見つかりはしたが、入り口の前に置かれた看板を確認すると、一泊の料金がかなり高かった。時計塔と鑑定屋のあるこの通りは町の中心部にあるので、高級な宿泊施設が多いのだろう。三人は裏通りに行って宿を探すことにした。

 魔物狩り屋が多く集まってくる町だけあって、宿屋自体はたくさんあった。だが、人が集まってくるので土地の値段も高いのか、リスタトゥーの宿屋は夕食込みで500テニエルだったが、ファスタンでは夕食無しでも500テニエルから1,000テニエルぐらいの宿が多かった。

 橋を渡って西ファスタンに戻ると、夕食無しで400テニエルの宿がちらほら見つかった。だが、そういう宿は、建物が古そうなものが多かった。

 しばらく宿を探し続けると、西ファスタンのキヨゥラ川沿いに、『食事無し、一泊400テニエル』という看板のある宿屋を発見した。そこはそれほど古びていなかった。町の中なので魔物が出る心配はほとんど無いとは言え、万一ということもあるから川沿いは少し土地が安いのだろうか。

 そういう推測をしながら、三人はその川沿いの宿屋に泊まることを選んだ。


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