22.訓練場の従士
馬車の中で戦場の話や必要な物の話を聞いているうちに、どうやら辺境伯家所属の兵士が訓練する場所に着いたらしい。エディが馬車をノックして扉を開けてくれる。
俺たちに着いていた文官さんと侍従さんが訓練場の使用内容の通達に走っていく。
先駆けで騎士が向かってくれているらしいけど、ちゃんと着いたって通達と場所がどうなってるかの確認とかも必要だからね。
それを見送ってからメアリに手を貸してもらって馬車を降りる。
「辺境伯様が着けてくださった者すら直ぐに離れる程度ということだな」
「頼りないと見限られたのだろう。女にエスコートされるような間抜けだからな」
降りた子息たちが笑ってこちらを馬鹿にしてくる。まあその内容があまりにも見当違いなのでこちらにはノーダメージなのだが。
うわ、最後に降りてきた門番長さんがめちゃくちゃ顔しかめてる。
そして“やって”いいぞの物騒ジェスチャーを子息2名に見えないようにしてこないで。
馬車の中でなんかあったんだろうな。お疲れ様です。
文官さんと侍従さんと一緒に訓練場の管理者である人がやってきたのでご挨拶。男爵家の方だそうなので一番この集団で地位が高い。おかげで子爵子息2名もちょっと大人しい。
訓練場を取りまとめている方だからなのか、めちゃくちゃガタイが良い人だし騒ぐ気も失せるか。
腕が俺の胴くらいはありそうで、横幅も俺の倍はありそうな感じだ。縦も横もデカい。
「ニーエベルグ男爵家の騎士の方が来てくださるとは!是非戦場へ行かれる前に一度こちらで身体慣らしの訓練をされていって欲しいくらいだ!」
「おや、ありがとうございます。このような立派な施設を管理されている方にそのように誘っていただけるとは光栄です」
武官家のニーエベルグに興味津々らしくマルクスががっつり捕まってしまった。時間が合えばこちらで合同訓練をしようという話をデカい男爵を見上げながら約束を交わす。かなり乗り気なのかウキウキしながら訓練場を案内してくれる。
ちなみにその間は放置されたハプセン子爵子息らはだいぶ不機嫌である。しゃーないでしょ、君らのお家、文官家で流通系なんだから。
むしろそんな家出身なのに暴力系な自分たちをもうちょっと振り返って客観的に見て欲しい。
訓練場の開けた場所に着いて、男爵は一度息を吸って、大きな声を出した。
「ハプセン子爵子息とニーエベルグ男爵子息の模擬決闘を私、カールハイン男爵見届けの元行う!」
少し離れた場所にいる、訓練していたのだろう兵士たちがわあっと盛り上がる。
メアリをソッと呼んで聞く。
「ごめん、模擬決闘って何?」
「簡単に言えば決闘擬きの貴族用の喧嘩ですね」
本来の決闘は通達を広く出して、準備期間やルール選定などを細かく設定、協議をした上で見届け人として貴族を招き観客も入れる。お家を背負った見世物。お金もめっちゃ動く。
んで、模擬決闘はそんな難しいルール決めずにとりあえず喧嘩したいし、相手にちょっと言うこと聞かせたい貴族用の喧嘩をカッコつけた物。
……わかるけど身も蓋もないな。
約束とかは交わすけど、決闘ほどの絶対的な強制力は無い。それでも今回は見届け人がいる為、約束を守れない場合は貴族としてどうなんだと評判が落ちる。
「では、互いに勝った際に相手に何を望むか」
「我々はそちらが今回の滞在の間、服従することを」
「……こちらは今回の滞在において、彼らが何をしたかを他者に隠さないことを」
アホみたいな望みを押しつけてくる子供2人に呆れつつ、山火事をちゃんと自白した上で今回の遠征中にアホなことしないようにという注文をつけてみる。
辺境伯領の従士と思われる人に訓練用の武器を貸してもらい、防具も貸してもらうことで統一……する予定だったんだけど、俺のサイズの金属鎧が無いっぽい。
多少サイズ調整のきく簡易な造りの革鎧を貸してもらう。従士が革鎧の一部に穴を開けたりオイルを可動部に塗ったりしている。お手間おかけします。
サイズ調整の間にジェードと軽く作戦をたてる。
「坊っちゃん剣そんな上手くないけどどうするのー?」
「うーん、とりあえず俺は後方から嫌がらせと囮かな」
「各個撃破のがラクだよねー、どっちからやる?」
「弟の方が体格小さいからそっちから全力で叩きのめして」
「はいはいりょうかーい」
革鎧を更に微調整する為に身体を動かして、従士にまた調整をしてもらう。良い具合に身体に沿った状態にしてもらえたので従士たちに礼を言っておく。
「調整ありがとう」
「いえ、感謝は不要です」
「倒していただければむしろこちらがお礼を言う側になりますので」
……あの2人が過去になんかやった際の被害関係者だったのかな?
「、心情はどうあれど、我々は貴方がた全員が戦いやすいように最善の調整をしたと誓えます。互いに」
向こうの従士は不正を行うようなことはしていないという根回し、且つ彼らの仕事への誇り的な部分でもあるんだろう。
従士たちの落ち着いた目を見て、無言で頷いた。
ざわついている空気の中で、微かに向こうから怒鳴り声が聴こえた。
あそこまで周囲に喧嘩売ってると逆に感心するわ。そして従士の方たちはほんと偉い。
ボソッと聴こえた「鎧で絞め殺してやりてえわ」という呟きはきっと気のせいだよ。




