1.村からの出発
村の中の坂道を風を振り切るように駆け下りた。
その先にあるこの村では珍しい人混みの中に減速をせずに突っ込んで、人混みが発生していた原因へと進んでいく。
人混みを抜けて、原因である馬車の中に飛び込むように転がりこんだ。中にいた人間の目が一斉にこちらを向く。
追いかけるような風が馬車の中まで入り込みバタバタと幌を揺らした。
「うお、スゲエ風だな」
「坊っちゃん、大丈夫です?」
「マルクスは?」
「今は御者台のとこっすよ」
「わかった。ありがと」
荷物を乗り越えて、御者台側に抜ける。
御者台で話している騎士服の見慣れた男に声をかける。
「マルクス、おはよ」
「……あー、おはようございます。ご当主様から許可は取れたんです?」
「父様は普通に昨日の内に許可くれてる。荷物も昨日の内に運んでもらったりこれ代理許可証。家から出してくれなかったのは兄様だよ」
部屋の扉開けなかったり、家の扉開けなかったりといった小技を無視して上下開きの窓からなんとか脱出したのだ。
「なるほど、兄上様か……」
「心配性なんだよ。狩りは許してくれるくせに」
「そりゃ領地の山と辺境の戦場だと心配度合いは違うでしょうね」
「兄様が行くよりははるかに安全だろ。兄様だと辺境に生きてたどり着くかも怪しいよ」
その言葉に一瞬笑いそうになったらしいマルクスは慌てて口を手で塞いだ。
「1週間の野営に兄様が耐えられる筈ないし、たどり着いたとして、不衛生な環境と男だらけの環境だろ?間違いなく兄様は目をつけられるよ」
住みやすく工夫凝らした男爵家の部屋でもグッタリしてる時ある上に、美しいと客観的に見てもわかる母親と瓜二つの顔をした11歳のか弱い美少年なんて戦場に行くべきではない。
俺はあの顔に比べると平凡な顔をしている。
「そもそも心配されてるのはご年齢じゃないです?坊っちゃんまだ8歳ですし」
「大丈夫、代理許可証には11歳って書かれてる」
「……バレたらヤバい内容ですねぇ」
まあ、そう。
そもそも戦場に10歳以下の子供は出すなと国の方針がある上に、長子だと嘘をついて次子がやってくるという書類詐称である。
でもどうせ貴族の子供なんて前線には出すわけないし、お偉い方は田舎の男爵家の長子なんて顔も見たことが無い。
まして身体の弱い兄は周囲の貴族的な集まりにさえ顔を出していないし、俺も集まりに連れて行かれたことはない。
俺は8歳にしては身長が高いし、転生者なので喋りも子供っぽくはない。いけるだろ。
「そもそも戦場に爵位持ちかその血縁が来なければ罰金として金貨50枚がふざけてる」
「私は騎士爵ではありますがこの場合の爵位持ちに含まれてはいませんからね」
マルクスは俺と話しながらも詰め込まれていく荷物を確認、周囲に指揮しているので優秀な男ではあるのだ。
突然のぎっくり腰で未動き取れなくなってしまった男爵の実質的な代わりが務まるほどに。
ただ、今回の場合はこのクソ指令に適用されていない。
男爵以下は爵位持ちじゃないと言いたいのか。クソすぎる。
「マルクスが持たされた金貨50枚で代わりにいくらか人員買っていいって許可貰った」
「ああ、それは良いですね。奴隷商も何人か来るので安く買えます。帰りに村への物資もいくらか買いましょう。あまり無駄遣いも出来ませんが……荷物が揃ったのでそろそろ出ますよ。風もひどいし早く行きましょう」
マルクスの指示が飛んで、馬車がゴトゴトと動き出す。
風が馬車内にまで吹き込んで頬を撫でる。
座ったり寝ている兵士の上を通って、馬車の隙間から外を見た。
村の奥、坂道の上の小さい屋敷に目を向ける。
「ゴメンよ兄様、帰ったらちゃんと怒られるから許して」
顔に風に煽られた葉っぱがベチンと音を立てて叩きつけられる。
それを偶然目にしてゲラゲラと笑った兵士の頭を軽く叩いておいた。
見切り発車による蛇行運転開始。
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