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其の一

戦国の世天文23年

人は富 金 名声 土地 力

武士として剣豪として最強になる為に戦った戦国時代の英雄が数多くいる

 その中には異端の剣聖、流浪にの剣鬼、尾張のうつけ、戦の化身。

異名を持つ武将や剣豪が多くいる。


そんな時代

一人の少年は母のために働き続けた。


雪は、視界を奪うほど降る。

 降り続ける白は、世界から色を奪い、音を飲み込み、ただ静かにすべてを覆い隠していく。


 その村も、例外ではなかった。


名もない山間の寒村。

 冬になれば道は閉ざされ、外との繋がりは断たれる。頼れるのは、秋に蓄えたわずかな食料だけ。ただーー


 その年、秋は来なかった。


いや、正確には来たが――実らなかった。


 冷たい雨が続き、作物は腐り、収穫はほとんどなかった。蓄えは底をつき、村はゆっくりと、確実に死に向かっていた。

子供を養わんと己の身を削ってまで子供に食べ物を食わせる親。つまり優しい親からドンドンと死んでいった。


最初に消えたのは、隣の家の老人だった。


 火の気のない家の中、痩せ細った身体を丸めたまま、まるで眠るように息を引き取る。

 誰も泣かなかった。泣く力すら残っていなかった。最後にこの人は何を思ったんだろう。


村には何も無い。金もなければ道具もない。

貧乏な村だ。すぐ消えて灰になってしまいそうな貧乏な村。

俺はまだ10代だから耐えられた。でも妹はどんどん元気がなくなってきた。


  次に、子供が減った。


  ある朝、隣の家の戸が開いたままになっていた。覗いたとき、そこにあったのは、静まり返った空間と、冷えた小さな体だけだった。

俺の妹の友達が死んだ。

もう死体を見ても何も思わなくなってきた。

病気は流行るし食べ物はないし寒いしお腹すいたし。生き地獄。まさにここは地獄だった。


 その日を境に、村の空気が変わった。


 誰もが、他人を見なくなった。自分を守るのに精一杯だったから。協力とかそういうのをしなくなった。

 

目を合わせれば、何かを差し出さなければならない気がしたからだ。食料か、火か、あるいは――自分の命か。


  俺の家も、例外ではなかった。


 母は咳をしていた。最初は軽いものだったが、日を追うごとに重くなり、やがて血を吐くようになった。


 囲炉裏の火はすでに消えて久しい。灰の中にわずかな温もりが残るだけで、部屋の空気は冷たく、湿っていた。


 「宗春……大丈夫だからね」


 母はそう言って笑ったが、その声はかすれ、指先は氷のように冷たかった。


 妹は何も言わなかった。言えなかった。

 ただ、母の着物の裾を握りしめて、じっと下を向いていた。


 食べ物は、ほとんど残っていなかった。


 乾いた粟がひと握りと、固くなった芋がいくつか。それを三人で分け合えば、数日ももたない。



 俺は山に入った。


俺は父上が残した一振りの剣を握りしめた。剣術なんて全くできやしないが今はそんな事言ってる場合ではない。


 雪を踏みしめる音が、やけに大きく響く。獣の気配はない。罠を仕掛けても、何もかからない。


 指先の感覚が薄れていく。息は白く、視界は霞む。

 それでも、帰ることはできなかった。

何も持たずに帰れば、終わるとわかっていたからだ。


帰り道、村の入口で、人が倒れていた。

痩せた男だった。見たことのない顔。外から来たのだろう。すでに息はなく、雪の上にうっすらと赤い跡が滲んでいる。


 俺は立ち止まった。


目を逸らそうとして、逸らせなかった。


 周囲を見回す。誰もいない。


 ゆっくりと、近づいた。


 心臓が震える。

手が震える。魂がダメだと叫ぶ。


俺の心とは正反対に体は正直だ。


 膝をつき、男の懐に手を入れる。

布の感触。冷たい指先に触れる、硬いもの。


――金だった。


その瞬間、理解した。

食べ物ではないが、食べ物に変えられる。

 

金があればいい。


 それから数日後、母の容態は急激に悪化した。

咳の合間に血を吐き、呼吸は浅く、目の焦点が合わなくなっていく。


「医者を……」


 誰かが言った。だが、村に医者はいない。呼ぶには金がいる。


 彼は、もう一度山に入った。

心のどこかでまた死体がないかと期待した。

だが、獣も人もいない。罠も無意味だった。


 そんな時だった、雪の中に足跡を見つけた。

人の足跡、それから血痕があった。

  それを辿る。

辿り着いた先にいたのは、痩せた男だった。

 死体を漁っていた。村の、もう動かない人間から、着物や持ち物を剥ぎ取っている。


 目が合った。


 男は一瞬固まり、次の瞬間、逃げようとした。


 そのとき、俺の手にあったのは――


父上の形見である刀。


理由は、明確。金を持ってるかもしれない。

なら奪う奪って母を救う。

 

遅れれば終わるとわかっていた。

俺はその時になって初めて


 剣を振った。


 肉を裂く感覚、鈍い手応え。

男は、その場に崩れ落ちた。

しばらく、何も考えられなかった。


 


 ただ、自分の呼吸音だけが、人を殺したという事実だけが鮮明に残った。


 やがて、震える手で男の懐を探る。

金が、あった。それを握りしめて、走った。

村を出て、隣村へ。さらに先へ。


 雪の中を、転びながら、何度も立ち上がりながら、ただ走った。

 医者を見つけた。金を差し出した。

だが。


 

 間に合わなかった。


母は、すでに冷たくなっていた。


妹は、毎晩泣いた。

俺はそれでも金を稼がないといけないから夜は隣の母の妹の家に預け面倒を見てもらった。


 山に来るとたまに人が死んでいる。

だからそいつの懐から金を奪う。

もう慣れた。


 ただ、俺は刀だけは売れなかった。

売れば金になる、そんなのわかってる。

でもこれ以上家族と離れ離れになるのは嫌だった。


斬れば、金になる。

その事実を知ったのは齢18歳の冬の事だった。




よろしくお願いします

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