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[COORDINATE 0095] Three Twinkle Shooting Stars

# Hanna_and_Mia:


* * *


 見上げた空は抜けるように高く、春らしいちぢれ雲がゆったりと流れている。

 まだ朝早いというのに、温かな陽の光がさんさんと降り注ぎ、素敵な一日の始まりを予感させた。


 私は、額に浮かんだ汗を袖で拭う。


 視線を落とすと、小さな女の子が洗濯物を籠から取り出して、私に差し出していた。

 私はにこりと笑みを浮かべると、それを受け取り、庭の物干し竿にかける。

 その子は、その間に籠から次の洗濯物を一生懸命に取り出そうとしていた。


 私は微笑ましく思いながら、その様子を見ていた。


「ありがとう、ミア。でも、あなたはまだ寝ていていいんですよ」

「んーん。みあ、あるすのおよめさんになるかられんしゅう」


 教国の冬は晴れ間が少なく、洗濯物が滞りがちだった。

 加えて、普段から孤児院の洗濯物はとても多い。


 ようやく訪れた春に感謝しつつ、その大量の洗濯物を私は干していた。

 年長組の女の子たちが隣で手伝ってくれている。


 ミアは籠から洗濯物を取り出し、私に手渡す手伝いをしてくれていた。


 初めは自分で洗濯物を干そうとしていたのだが、さすがに止めた。

 濡れたシーツを三歳になったばかりの彼女が干せるはずもないし、危ない。

 そこで私の横で、こうやって手伝ってもらうことにしたのだ。


 正直、私が取り出したほうが早いのだが、もちろんそんなことは口に出さない。

 小さな手で洗濯物を取り出すミアを待ちながら、私は笑みを浮かべた。


「あらあら。アルスさんのお嫁さんになるんですか? 素敵な旦那さんで羨ましいですね」

「だいじょうぶ。せんせいも、およめさんにまぜてあげる」


 私はミアから受け取った白いシーツを竿にかけながら答えた。


「私もですか? うーん、私は遠慮しておきますね」

「なんで? せんせいもいっしょがいい」


 シーツの皺を伸ばし、竿に固定すると私は振り向いてミアを待つ。


 彼女が洗濯籠に手を伸ばす可愛い仕草を眺めながら、あの優しくてどこか子どもっぽさの残る青年のことを思い出した。


 親切で礼儀正しく、ちょっとえっちな、可愛い笑顔の青年だった。

 彼は、勇者候補という一目置かれる肩書きを持ちながら、一度もそれを自分から口にしなかった。

 彼がここでやったのは、赤子とミアのサンタクロースになったくらいだ。


 私はそのことを思い出して、笑みを零す。


(確かに、彼は素敵でしたね。……格好よかったですし)


 とはいえ、あんな綺麗な女性が二人も隣にいる男性は恋の対象外だった。

 私は自分だけを見てくれる人でないと嫌なのだ。


 ミアがシーツを引っ張り出して、両手で抱えたまま私に向き直った。


「せんせい、だいじょうぶ。あるすはおおきいおっぱいがすき。せんせいのこともすき」


「あなた、どこでそんな言葉を覚えたんですか。まったくもう。そういう言葉を使っているとアルスさんに嫌われますよ?」


 ミアからシーツを受け取りつつ、私は小さく息を吐いた。

 目をまんまるに見開いたミアが言った。


「そ、そうなの? それはこまる。もういわない。しょうがない、せんせいはあきらめて」


「はいはい。アルスさんのお嫁さんはきっと大変ですよ。彼についていくなら、ミアは一生懸命勉強しないといけませんね」


 ミアが両手で抱えたシーツは、すっかり丸まってしわくちゃになっていた。

 一度それを広げてから、竿にかける。


 本当にいい天気だ。

 湿っていたシーツの手触りが、干したそばから心地よいものへ変わっていく。


 私は、黙り込んだミアが気になって振り向いた。

 アルスさんのお嫁さんにはなりたいけど、勉強は嫌なのだろうか。

 いやそもそも、子どもの初恋を躾に利用するのは、少し品がなかったかもしれない。


 そんなふうに反省しつつ、ミアへ目を向けると、彼女は空を見上げていた。


「あるすがいる。すごい、とんでる」

「え?」


 ミアの見ている方向へ私は視線を向けた。

 春の透き通るような青空を、白と赤と緑の光が、仲良く流星のように西へ飛んでいくところだった。


「ミア、大変ですね。彼のお嫁さんになるには空も飛べないといけないみたいですよ」

「むー。きっとだいじょうぶ。わたしはとべる」


 不思議なことに、私はあれがアルスさんたちだというミアの言葉を疑っていなかった。


* * *



# Victoria_Celna:


* * *


 私は執務室の机に広げた地図に、視線を落としながら部下の報告に耳を傾けていた。


「セルナ閣下の指示通り、北方へは国軍第二師団を向かわせました。エルフ族の戦士団と合流後、再編を行う予定です」


「そうか。そちらの指揮官の人選は任せる。だが、フレイヤ山脈方面の指揮官はクロードにしろ。あそこが一番重要だからな」


 魔族が出現する可能性が一番高いのは、フレイヤ山脈だろう。

 私は最も信頼する将官にその方面の指揮を任せることにした。


 矢継ぎ早に報告されていく派兵状況を、視線の先の地図を見ながら頭に入れる。


 重要なのは森林と街の位置関係だ。

 魔物は脅威だが馬鹿だ。

 真っ直ぐにしか移動しない。


 そして私は、森林の規模と魔物の脅威には、相関関係があると見ている。


 以上から、私は森林と街を結ぶ直線上に、その森林の規模に応じた兵力を配備していた。

 口うるさい議会の横槍がなければ、もっと余裕を持った配備が可能だったのだが。


 ベルナールは背筋を伸ばしたまま、手元の書類へ目を向けず、自分の言葉で報告を続けている。


 こいつも優秀な男だ。

 だが、重用しすぎているかもしれんな。

 私は休息など必要ないし、睡眠も三時間あれば十分だが、自分が異常なのは分かっている。

 この件が落ち着いたら、ベルナールには少し休暇を取らせよう。


「東方には大規模な森林がありません。よって、国軍のうち練度に不安のある部隊を派兵しております」

「ああ、第五師団か。元貴族の馬鹿どもが格好つけるには丁度いい」


 ベルナールが私の言葉に少し眉根を寄せ、口を開く。


「閣下……お気持ちはわかりますが、外では控えてくださいよ」

「すまん。失言だったな。議員どもの横槍で少し苛立っていた」


 先日、突如として教国の方角から立ち昇った光の柱。

 あれが出現して以降、これまでの比ではない魔物の氾濫が各地で発生していた。


 あの光の柱は、どうも世界樹の方角で発生しているらしく、女神教の信徒によれば祝福の光だそうだ。


 だが、私はそういうものではないと感じている。

 あれは人類を破滅に導きかねない光だ。

 今起きている魔物の氾濫には、あの光の柱が深く関係していると確信していた。


 おそらく、今の事態は一過性のものではない。


 私は自分の直感に従い、国境の常備軍をはじめ、人間同士が戦うための軍をすべて魔物の鎮圧へ動員しようとした。

 その判断に、議会から待ったがかかったのだ。


 王国が攻めてきたらどうするのか、というものだった。

 馬鹿どもが。今、戦争など起こるわけがない。

 どうせ、王国も同じ状況だ。


 おかげで全軍を派兵することはできず、こうしてベルナールと配備の調整を続けていた。


 私は地図を見ながら調整を続ける。

 テーブルの上に置かれているのは紙の地図だが、その上には本物の生活があり、市民が暮らしているのだ。

 私はリナルドの理想を実現するため、一切妥協する気はない。


「南方のこの地域はどうなっている。確かこの森の近くにはアルスが防衛した村があったな」

「はっ、閣下。南方一帯には第三師団がすでに配備されております。加えて、その村には件の商会が取り仕切る戦士団が向かっております」


 ベルナールの言葉を受けて、私は顔を上げた。


「商会? ああ、ガストン商会か。あの商人も変わり者だな。利益などなさそうだが」

「勇者殿に頼まれているとのことで。そのほか、商会は教国とも連携して防衛を行うそうです」


 私はマアト山の宿場町の件で何度か顔を合わせた、商会の主を思い返す。

 あの男は、いずれアルスを商会に引き込みたいとか言っていた。

 なるほど、確かにアルスは勇者より商人のほうが向いている。


 そのための投資というわけか。

 もちろん善意も多分にあるだろうが。


 夜明け前からこうして調整を続けていたが、懸念事項を念入りに確認し、なんとか納得のいく配備案を固めた頃には、窓の外はすっかり朝の光に包まれていた。


 一息ついた私はテーブルの茶に口をつけながら、執務室の窓際を見やる。

 そこには、自分の神器である煌びやかな盾が立てかけてあった。


 神器へ歩み寄り、窓辺に立つ。

 そこからは西の空を縦に割る光の柱が覗いていた。

 

「……本来であれば私も従軍したいところだ」

「おやめください。閣下がいなければ議会を抑えられません」


 背負うべき責務というやつだな。

 分かっている。


 それに皆も頑張っているが、先日のような飛行型の魔物による襲来も考えておく必要がある。

 首都に防衛向きの魔法使いがいなくなるわけにもいかない。


 私は窓から覗く、地平線の向こうに立ち昇る光の柱へ視線を向けた。


「なあ、ベルナール。私は、あれが魔王の魔法ではないかと思っているのだが、どう思う?」

「はっ、閣下。……はあ。魔王ですか?」


 ベルナールは優秀であるし柔軟でもあるが、適当さに欠けるな。

 まあベルナールにアルスのようになられても困るが。


 益体もないことを考えながら、しばし脳を休めるように外の景色を眺めていた。

 そんな折、三つの流星が南方から光の柱へ向かって飛んでいくのが見えた。


 思わず私は笑ってしまう。

 なぜならその流星は、白と赤と緑だったからだ。

 義姉さんも、とんでもない男に惚れたものだ。


 まあ、国家転覆した私に言われたくはないか。


「冗談だ。気にするな。まあ、あれが魔王の仕業ならアルスがなんとかするだろう。私たちは、私たちの仕事をするぞ」

「はっ、閣下」


 明日にでもリナルドの墓へ行き、勇者たちを見守ってくれるよう祈るとしよう。

 だが、あまりアルスを心配すると、リナルドが妬いてしまうかもしれないな。

 まあ、それも可愛いか。


 私は少しだけ乙女のような笑みを浮かべたことを自覚し、すぐに表情を戻した。


* * *



# Galden_and_Chloe:


* * *


 俺は長大な戦斧の柄を両手で握り、力を溜めるように水平に構える。

 軸足で強く地を踏み、もう片方の足を後ろへ滑らせながら身を回転させる。


 弧を描く穂先の鋼が鈍く陽光を返し、ぎらりと光る。


 戦斧の刃が、牙をむき出しにして襲い来る大狼たちを両断する。

 肉を裂く音が響き、魔物どもが鮮血を迸らせて絶命した。


 街道のど真ん中、子どもと犬を背に庇いながら、俺は下級魔物の大群と向かい合っていた。


「嬢ちゃん、大丈夫か。もう心配いらねえからな」

「虎のおじちゃん、助けてくれてありがとう!」


 周囲では、俺たちに濁った殺意をぶつけるため、大狼の群れが距離を保ち続けている。

 俺は魔物を注視しながら口を開いた。


「誰がおじちゃんだ。俺の名はガルデンだ。まだ二十代だ」

「そうなの?」


 妙に守られ慣れている子どもの声を聞きながら、現状を思い返す。


 以前のパーティーが解散してしまった俺は、リヨンの街で意気投合した人族二人と新しいパーティーを組んでいた。

 偶然出会ったそいつらは、俺にとって一人しかいない人族の友人の知り合いだった。


 俺はそいつらと、共和国でも有数の商会の依頼を受けていた。

 依頼の内容は、最近多発している魔物の氾濫への対応。

 それから、とある村の安全確認だ。


 村の安全確認を、わざわざ依頼として出すなど変な話だ。

 だが、商会と懇意らしい俺たちのパーティーリーダーから事情を聞き、俺は納得した。


 光の柱事件以降、頻発している魔物の氾濫。

 商会は軍の手が届きにくいところへ、民間の戦士団を使い、防衛の手を伸ばしていた。


 なんでも、商会長はあの少年の知己らしく、彼ゆかりの小さな村へ片っ端から戦士団を派遣しているらしい。

 あの少年たちへの義理か、商人としての下心か。

 まあ、両方だろうな。


 俺たちの派遣先であるライオル村は、少年一行が守った村とのことだった。

 そうか。なら、次は俺たちが守ってやろう。

 そんな気持ちで、俺たちは意気揚々とそのライオル村へ向かっていた。


――のだが。


 村に辿り着く前にして、大規模な戦闘に巻き込まれた。


 初めは、その村近くの街道で子どもと犬が、一体の大狼に襲われかけていたのを助けたのがきっかけだった。

 すると、次から次へと大狼の群れが加わり始めたのだ。


 俺たちは最終的に、とんでもない大群と戦うはめになっていた。

 だがまあ、この様子なら村の方には魔物は向かっていないだろう。


 俺は眼前に迫って来た大狼を屠り、さらに増え続けている魔物へ視線を向ける。


 大狼程度、どれだけ来ようとも後れは取らない。

 ……取らないが、それにしても数が多すぎる。


 戦斧を構え直しながら、腹いせに前方で戦っている仲間の剣士へ罵声を上げた。


「おい、猿顔! お前、アルスと出会ったのは魔物に襲われていた時だって言ってたな! お前らの運がなさすぎるんじゃねえのか!」


「うるさいっすよ、虎顔! 誰が猿顔っすか、いいって言ってんだから名前で呼んでくださいよ! マ・ル・ク! っていうか、ガルデンの兄貴なんて、魔族とかち合ったんでしょ! 兄貴のせいっす!」


 鋼の剣を振るい、大狼を斬り捨てたリーダーが声を張り上げた。


「遊んでないで真面目に戦え、お前ら! マルク、前に出すぎるな! ガルデン、前方の群れはこのまま私たちが対応する。その子を守れ!」


「やだなあ、ヴァレリーさん。大狼くらい楽勝っすよ! ……うおあっ、あぶねえ!」

「おうよ! 猿顔、死ぬなよ!」


 俺はちらりと、後ろの子どもと犬の方へ視線を向けた。


 その小さな女の子は、獣族が珍しいのか、きらきらした瞳で俺のことを見上げている。

 茶色い犬が、その子を守るように、魔物を睨みつつ唸り声をあげている。


 魔物の群れに襲われかけたというのに肝の座った子どもだ。

 それに、犬っころの方も、見上げた心意気じゃねえか。

 魔族に怯んじまう俺なんかよりよっぽど勇気があるな。


 いずれにせよ、どちらも恐怖に駆られている感じはない。


 正直言うと、少し心配していた。

 俺の腕では、この群れと戦いながら、逃げ惑う子どもを守るのは厳しいのだ。

 だが、この様子ならきっちり守りきれる。


「嬢ちゃん、犬っころも。もう少しこっちに寄ってくれ」


「はーい」

「ワン! ワンワン!」


 俺の腰ほどもない子どもが、とことこと歩み寄ってきた。


 魔物への警戒を保ったまま、俺は口を開く。


「嬢ちゃん、虎に抱っこされるのは嫌か?」


「ううん! あ、私はクロエだよ! ガルデンさんが、名前を呼んでくれたら抱っこさせてあげるね!」


「ワン!」


 俺は戦いの最中だというのに、その言葉に驚いて子どもへ顔を向けた。

 虎の顔に笑みを浮かべ、口を開く。


「そうかい。だが、嬢ちゃん。そう簡単に名前は呼べないな。大人になったら考えてやる。ほら、危ねえぞ」

「私はもうほとんど大人だもん! デートもしたんだから! きゃっ」


 魔物から視線を外さないまま、腰を落とし子どもを左腕で抱え上げる。

 戦斧の長大な柄を右腕のみで短く握り、鍛え上げた腕の筋肉で左へ引き絞った。


「嬢ちゃん、少し目をつむってな。犬っころ、俺の足元から離れるなよ」


「うん、分かった」

「ワン!」


 取り囲むように近寄っていた巨大な狼が、大きくあぎとを開き、牙を剥いて迫ってきた。

 三体一斉に中空へ躍り出た魔物の動きを、俺はしっかりと見定める。


 脳裏に描くのは、勇者に付き従うあの炎の剣士。

 引き絞った力を解放し、鋼の刃を振るう。


 ぶうんっ、という重量感のある音が響き、大狼たちが鮮血を迸らせながら絶命していく。


 俺を警戒するように、距離を保ちつつ、残った大狼が連携しながら牙を向けてくる。

 子どもを抱えたまま、足元の犬っころも守るように軸足を動かさず、襲い来る狼を斬り飛ばし続ける。


 しばしの間、街道には魔物の断末魔が響き渡り、血飛沫が散り続けた。


 そうして戦い続けた俺は、戦斧を振り上げ、最後の一体へ向けて斬撃を放った。

 身を断ち切られた大狼が崩れ落ちた。


 こちらを狙っていた魔物はあらかた片付いたな。

 

 余裕のできた俺はリーダーたちの方へ顔を向ける。

 さすがにあちらの二人は付き合いが長いだけあって、危なげない連携だ。

 

 あれほどいた魔物の大半を討伐し終え、残りをじっくりと仕留めているところだった。


 仲間の無事に少し安心した俺は、抱えている子どもに視線を向けた。

 もじもじしながら、子どもが俺の顔を見つめていた。


「ねえ、ガルデンさん。お願いがあるの……」

「ああん? しかし、本当に度胸のある子どもだな……。どうした?」


 子どもは少し遠慮がちに言った。


「もふもふしていい?」

「……駄目だ」


 ……なんなんだ、この子どもは。

 いくらなんでも神経が図太すぎるだろう。


 俺はこっそり顎を撫でだした子どもにため息をつきながら、足元の犬へ顔を向けた。


「お前のご主人様は、話を聞かねえな」

「ワン! ワンワン!」


 犬が同意しているような気がした。


 リーダーたちの戦いにも決着が付いたようだ。

 二人が血糊を払い剣を収める様子が目に入った。


 俺に断られたことをすっかり忘れたらしい子どもが、俺の顎を撫で続けている。


「うーん。ガルデンさん、もふもふで気持ちいいね。旦那さん候補にしてあげる」


「そうかい。だが、俺は好みがうるせえぞ。お前が美味い飯を作れるようになったら考えてやる」


「ワン!」


 俺は苦笑いしながら子どもに答えつつ、遥か向こうに依然として聳え立つ光の柱に視線を向けた。


 魔物の氾濫など、予兆に過ぎないのではないだろうか。


 あれを放置していては危険だと、俺の予感が告げている。

 あれは俺たちを破滅に導く強大な何かだと、俺の中の虎がそう言っている気がした。


 だが。


 俺の視界には、そこへ向かう流れ星が見えていた。


 白く輝く光と、それを追い求めるかのように続く、赤い光と緑の光。


 ……ありゃ、あいつらだな。


 ならまあ、破滅は来ない。


 俺は子どもの小さな手が、自慢の毛皮を撫でているのを感じながら思った。

 そうだな。この異変が落ち着いたら、俺も嫁さんでも探すか。


 そのまましばらく、俺は流れ星の消え去った方向を見ていた。


* * *



# COORDINATE 0095 END

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