[COORDINATE 0092] Sage’s Labyrinth ver. Celestia 6
# Julius_the_True_Sage:
いつまでも、こうしていても仕方ない。
俺は上体を起こし、腕をだらんと椅子の縁にかけたまま、大きく息を吐いた。
考え込んでしまう前に、皆の様子を確認しておこうと、沈んでいた顔を上げた。
無機質な灯りが室内を照らしている。
静かな部屋の中で、ユーリのよく通る高い少年らしい声が聞こえた。
先に叡智の魔法を終えた彼は、すでに椅子から立ち上がり、奥で案内人に質問しているようだ。
彼に答える案内人からは、ユーリの問いに少し戸惑っている様子がうかがえた。
ルナリアやフェリスは、大丈夫だろうか。
彼女たちへ視線を向ける。
こちらを見つめる二人の赤と瑠璃の瞳に、変わった様子は見当たらず、俺は一安心する。
だがさすがに、彼女たちも思うところがあったのか、いつものように抱きついてはこない。
……ひとまず、皆は大丈夫そうだ。
安心した俺は視線を下げ、もう一度ため息をついた。
結局のところ、最後の叡智が肝だったのだ。
ひとつ目とふたつ目の叡智は、それを円滑に理解させるためのものだったのだろう。
賢者ジークフリートは、物語を語るのが上手いな。
お陰で、彼が巡礼者に伝えたかったことが、しっかりと理解できてしまった。
確かに、この順番は適切だ。
困難な迷宮を踏破した者に、わざわざリゼット様が神性ではないと告げた。
それでも進める者に、彼女は創生の神には違いないと教える。
ついでに、触りだけ悲しい過去を伝えておく。
そして、物語の結末がこれだ。
神ではないと知り、神であると知り、少女を孤独から救えと。
お前の目指す女神は救われるべき存在だと。
そういうことだろう。
もともと、俺は星空でリゼット様に会っている。
あの寂しげな少女を救うため困難に挑むことに躊躇はない。
だから事情が違うわけだが、他の巡礼者ならこの順番でなければ、足踏みしただろう。
彼は素晴らしい演出家だ。
まあ、マクスウェルこだわりの迷宮のせいで台無しになっている気もするが。
しかし、俺が衝撃を受けているのはそんなところではない。
神であるかそうではないかなんて、とてもどうでもいい。
(魔物って、俺たちの前の人類だったのか……)
おそらく、ジークは戦士がこんなところに引っかかるとは思っていないだろうな。
俺は自分で思っていたより、甘ったれだったようだ。
俺の腕にふわりと温かいものが触れ、甘い匂いが鼻腔を掠める。
ちらりとそちらへ視線を向けると、ルナリアが俺の腕に手を添えていた。
「……アルス。あのね、きみが嫌なら、止めてもいいんじゃないかな。戦わなくても冒険はできるよ」
彼女は、弱い俺を否定することなく、いつもの優しい瞳で言った。
かつかつと革靴が床を叩く音がした。
そちらへ顔を向けると、ユーリがこちらへ歩み寄り、目の前に立っていた。
姿勢よく立つ彼は、毅然とした表情を浮かべている。
俺が見たことのない、子どもらしさの消えた精悍な顔は、別人のようだ。
だが、彼が薄く笑みを浮かべると、やはりそれはユーリだった。
「それは、先生には無理です。……ルナリアさん。すみません、僕から話させてください」
「ユーリ君……。うん、分かった」
ユーリの言葉を受け、ルナリアが手を離し、いったん椅子に座り直した。
彼はルナリアへ凛々しい笑みを向け、それからこちらを見た。
「では、先生。少しいいですか」
「うん? ああ、もちろん。それより、ユーリは大丈夫だったか? 叡智の魔法は、結構疲れるだろう」
なぜか、俺の言葉にユーリは口元に笑みを零した。
軽く咳払いをすると、彼は話し始める。
「こほん。僕はなんともありませんよ。……先生の様子がおかしい理由は、おおよそ見当がつきます。魔物の正体が、僕らの前世代の人類だったという事実に、衝撃を受けているのではないですか?」
「ユーリ、なんでお前……」
ユーリは目元を細め、口を開いた。
「事前に聞いていた話と、さきほど見た魔法の光景から推測しました。これについては確信していますし、魔族が何なのかも想像がついています。あとは……迷宮も似たような成り立ちだろうとも思っています。これは、ただの予想ですが」
彼は言葉を選びながら続ける。
「その中で、先生がそれほど打ちひしがれる内容といえば、魔物の件しかないでしょう。他のものなど些末な話です。僕には興味深く楽しいものでしたが」
俺は、彼のあまりの理解の早さに唖然としていた。
「どのような理屈で、人が魔物になるのか分かりませんが。まあ、元がなんであれ魔物は魔物です。侵略者であり、殲滅するべき敵です。……と、まあ先生はそのくらい、頭では理解しているでしょう」
「ああ。それは分かってる。だけど……」
ユーリは、静かに淡々と話している。
それなのに、俺は幼いユーリから、教皇と同じような空気を感じていた。
「僕はですね。先生に助けられたとき、あなたを神様みたいだと思いました。それは魔法のことだけではありませんよ。あの時、僕は暴漢の命など、端から頭にありませんでした。先生が、彼らが死なぬよう急いで回復している様子を見て初めて、ああ、そういえばこいつら死にそうだったな、と思っただけです」
ユーリはそこで言葉を切り、ルナリアに視線を向けた。
「これは、別に僕が王子だからとかは関係ありません。ごく普通の反応でしょう。ねえ、ルナリアさん」
「……うん。わたしもユーリ君と同じことを思うよ」
ユーリは小さな身体で、可愛らしく腕を組んだ。
そうして、うんうんと頷いている。
俺はこれまで、彼が腕を組んで話すような、品のない真似をするところを見たことがなかった。
もしかすると、俺の真似かもしれない。
「いいですか。先生は、自分では戦いでは冷徹になれるだとか、思っていそうですが。全然駄目ですよ。先生は優しい。……甘すぎると言ってもいいです」
俺の両隣から、ぼそりと少女たちの声が漏れた。
「格好良いよね」
「……いや、可愛い」
彼は腕を組んだまま、ルナリアとフェリスをじっとりと見やった。
「お二人とも、ちょっと黙っていてください。もう、あなたたちがそんなだから先生が自分のことを誤解するんです」
ルナリアとフェリスが、それぞれ気まずそうに答えた。
「うっ。そうかも……。ごめんなさい」
「……ん。少年、そんなに怒らないでもいいだろう」
ユーリは小さく息を吐いてから続ける。
「先生は、自分の危うさを自覚してください。今、こうして生きているのは運がよかっただけです。いえ、女神様が守ってくれていたのかもしれませんね」
「そんなことは……あるかもしれない」
柔らかな黒髪が灯りを返す中、ユーリは黒い瞳で俺を捉えている。
彼の瞳は強い意志を感じさせる、堂々としたものだった。
「先生は変われないでしょう。そして、あなたは戦いから離れられる人ではない。いえ、先生だけじゃないですね。そもそも僕らは、戦うことから逃げられない。剣が僕らの世界を作っているんですから」
ユーリは真っ直ぐに俺を見た。
「これはお願いです。先生は、甘いままでいい。僕らが守ります。ですが……躊躇だけはしないでください。僕らは勝たなければいけません。負けたら死にますからね」
彼は言葉を締めると、毅然とした表情のまま笑みを浮かべた。
ユーリの言葉は、俺の心のわだかまりを少し溶かした。
それはそれとして、子どもに諭されたのは恥ずかしいので、軽口で応えた。
「分かった。約束しよう。躊躇はしない。なあ、ユーリ、お前、王様みたいなことを言うな」
「……僕は商人の息子です」
そう答えた彼の笑顔は、子どもらしい可愛いものだった。
# The_Demon_the_Girl_and_the_Cat:
幾分か気持ちが楽になった俺は、自分の茶色い髪をかき上げて姿勢を正した。
「ありがとう。ユーリ、楽になったよ。少し、ジークの感情に引きずられていたかもしれない」
「それはよかったです。いや、そうではなくて先生が……まあ、分かってくれたならいいです」
彼の言葉は、俺の心に響いた。
というか、落ち着いて考えてみれば当たり前の話だ。
出自が何であれ、いいやつはいいやつだし、嫌なやつは嫌なやつだ。
今までと変わらない。
牙を向けてくるやつは、ただの敵だ。
俺がユーリの言葉を反芻していると、ルナリアたちが口を開いた。
「あ、終わった? ね、ねえ、アルス。わたしもちょっと傷ついたなあ。……抱きついていい?」
「……む。おい、ルナリア。……最後の叡智を授かるときは、きちんとすると昨晩、二人で約束しただろう。一人だけずるいぞ」
ユーリは二人へ視線を向けると、苦笑いを浮かべた。
「まあ、お二人がいるなら大丈夫でしょう。……案内人、この後ですが、僕はまだひとつ目なので、退出した方がいいですよね」
「ユリウス・アーサー・セレスティア。君が先ほど口にした内容は、今回の叡智で抱くべき決意のほぼ全てである。さすが真の賢者だ。同席についてだが……」
俺は座ったまま頬杖をつき、案内人に視線を向けた。
「おい、誰が偽りの賢者だ。お前ら兄弟は、ちょいちょい本音を漏らす癖があるな」
「……君は勇者アルスである。決して軽んじたわけではない。話を戻すが、勇者の同行者は丁重に扱うよう、女神リゼット様より仰せつかっている。よって、ユリウス・アーサー・セレスティア。君も同席したままで構わない」
「そうですか。わかりました」
その答えを受けて、ユーリは自分の椅子へ戻り、腰掛けた。
案内人の指示が、どんどん大雑把になっている。
リゼット様は、寄り道せずに早く来てほしいんだな。
「勇者アルス。真実をすべて受け止めた君は、最後の力を授かる資格を得た。だがその前に、様々な問いがあるだろう。何でも聞くがよい。私が答えられるものはすべて話そう」
俺は苦笑しつつ、案内人に答えた。
「ありがとう。けど、軽々しくすべてって言わないほうがいいぞ。うちにはとんでもない天才がいるんだ」
「……可能な限りは答えよう」
俺は腕を組み、手を口元へ添え思案し始めた。
「まあ、ちょっと待ってくれ。少し考えを整理する」
「承知した」
魔物が旧人類だったという事実は、俺には衝撃が強すぎた。
けど、今回の叡智の光景は、それ以外にも重要な話があったはずだ。
だが、俺はここまでの叡智や経験から、半端に理解できるようになったことが多すぎる。
情報を切り分けるべきだな。
叡智の魔法がかなり気を遣った変換をしているようだったが、意味の分からない言葉はやはりいくつもあった。
ジークと俺では『文明』が違うってやつだな。
宇宙だとか、AIなどというものは、俺たちにはそれを示す言葉がないのだろう。
つまり、この辺は俺にはどうでもいい話ということだ。
まず、世界樹を目指すうえで一番の問題は魔王だ。
この話を案内人に尋ねるかどうかは、ルナリアとフェリスは俺に任せると言っていた。
この真面目な顔をして不器用な発言をする、案内人たちのことを、俺は結構好きだ。
だから、疑うのはやめた。
俺は案内人に顔を向けた。
「よし、ある程度まとまった。初めに聞いておきたいんだが、ジークが魔王を名乗っていることは知っているか」
「ジークというのは、最後の賢者ジークフリートのことだな。女神リゼット様が魔法革命を成した時、運悪く彼は存命だった。最後まで抗ったが、旧人類には違いないゆえ、魔物化したと御身より聞いている。だが、魔王を名乗っているという話は知らされていない」
ほぼ、予想通りだった。
案内人はやはり外のことを、実際に知ることはできないんだな。
必要なことのみ、伝えられているようだ。
騎士団長と、騎士みたいなものだろうか。
それにしても、ジークは何がしたいんだ。
あいつはなぜか、俺に対してだけは明確な殺意を向けてくる。
……できれば、戦う前に話を聞いてみたいが、無理だろうな。
ジークについてはこれ以上聞いても仕方ないと思い、俺は話題を変えた。
「次の質問だ。魔物の成り立ちは分かった。けど、魔族は一体何なんだ。あいつらも結局は魔物だよな。なぜ言葉を話せるんだ? ……いや、違うぞ。……そうか、逆だ。なぜ魔物は言葉を発しないんだ」
「勇者アルス。順番に説明する。ほとんどの旧人類は末期、楽園時代において対話を捨てていた。理由を端的に言えば、他者が必要なくなったからだ。これは魔物化とは関係のない、人類が自ら獲得した特性である」
案内人は補足するように言った。
「それが魔物化で更に顕著になり、ほとんどの魔物が言語そのものを捨てた。そして、一部の魔物が魔法詠唱に言語を使用するのみとなったのだ」
「なるほど。理屈はわかるよ」
案内人は言葉を選ぶように思案してから話した。
「そして、君たち人類が魔族と呼ぶ彼らだが……。極めて嗜虐性が高く強度の高いコアドライブを持つ者が変質した魔物。それが魔族だ。つまり、魔族が言語を保ち、なおかつ君たちの言語を解する理由は――」
俺は案内人に手を上げて制止した。
それだけ聞けば分かった。
嬲る相手の反応を観察するためには、言葉が必要だからだ。
そのために、俺たちの言葉を覚えたということか。
魔物にはまだ思う所があるが、魔族は遠慮なくぶっ殺せるな。
「ありがとう。もう分かったよ。そういえば、魔族はそんなやつばっかりだった」
「そうか。助かる。あまり話していて気分のいいものではない」
静かに話を聞いていたフェリスが、俺の質問を補足してくれた。
「……なぜ、あいつらは森林に拘る」
「魔物は、コアドライブの強度で強さに差がある。そして、強い個体ほど森林に固執する。森を離れれば大きく弱体化するからだ。魔族は魔物の最上位と言えるゆえ、滅多なことでは森から出ない」
フェリスは、水色の髪を耳にかけながらメモを取っていた。
彼女は凛とした表情で、俺に視線を向けた。
「……アルス、もう少し私から聞いてもいいか」
俺は真面目な会話が続いて疲れたせいか、思ったことがそのまま口から出た。
「ああ、頼む。……なんか真面目な顔のフェリスってえっちだな」
ルナリアが吹き出して、笑いを堪えていた。
「ぶふっ」
真剣な顔をしていたユーリが、珍しく呆れた目をして俺を見ていた。
「先生って思っていたより、女性に弱いですね」
フェリスは、少し眉を上げて小さく息を吐いた。
「……はぁ。お前は、初めの頃はもう少し毅然としていたと思うのだが。……まあいい。案内人、迷宮について聞きたい。迷宮自体の成り立ちは理解した。……迷宮の主はなんだ」
「赤結晶は永遠を得た大樹と同義だ。そのため大規模森林並みの魔力が、絶えずそこへ流れ込んでいる。それを掠め取り、自分を強化した魔物が迷宮の主である」
フェリスが口元に薄く笑みを浮かべた。
俺は感心して彼女へ言った。
「凄いな、フェリス。ほぼ、お前が予測していた通りじゃないか」
「……もっと褒めてもいいぞ」
それから、俺は頭の後ろで手を組み、ぷらぷらと上体を揺らしながら考えた。
聞いておきたいことは、これくらいだろうか。
後は教えてもらっても理解できなさそうな疑問しか残っていないな。
最後に、天才に話をさせて締めようと思い、俺はルナリアを見る。
「ルナリア、お前も何かあれば聞いておけよ」
「アルスたちはもういいの? ふふふ、フェリスちゃん。わたしだってやる時はやるんだよ。ちゃんと考えてたんだからねっ」
フェリスは苦笑しつつルナリアに答えた。
「……いや、そもそも私は、あらゆる状況でお前は凄いと思っているが」
「俺も同意見だ。まあ、お前の質問はいつも大事なとこに刺さるしな。今回も頼む」
自慢げにそう言ったものの、俺たちに素直に持ち上げられたルナリアは、照れたように頬をかきながら口を開いた。
――そして、やはり彼女は天才だった。
「えっと。案内人さん、宇宙って星空のことですよね。それは分かったんですが、AIというのが理解できません。AIってなんですか?」
「……君のことは話には聞いていた。だが、ルナリア・アストライア。この短時間で、君は宇宙と星を理解したのか。想像以上だ」
会話の始まりを聞いただけで、俺はこの先の話の理解を諦めた。
のんびりルナリアを見ていることにする。
毛先のウェーブがかった金糸の髪が、彼女が声を出す度にふわふわと揺れている。
一生懸命、自分の考えをまとめるために、彼女が唇に指を添える様子が、とても艶めかしい。
「——というわけで、硝子板のこの子が賢くなったものが、AIなのかなって思うんです。合ってますか?」
そう言うとルナリアは硝子板を取り出し、慣れた手つきで指を走らせた。
とんっと彼女が図形を指で叩くと、硝子板に不細工な茶色い猫が浮かんだ。
気になった俺は座ったまま、彼女の硝子板を覗き込んだ。
「へえ。不細工な猫だな。また新しい使い方を見つけたのか」
「不細工じゃないよ! 可愛いもん! アルって名前なんだよ。ねー、アル」
<ニャア>
「うおっ! なんだそれ! 今返事したのか? す、すげえ。おい、アルお手!」
<……>
俺の言葉をアルは無視した。
ルナリアが赤い瞳で俺を見ながら、くすくす笑った。
「ふふ。フェリスちゃんとも試したんだけど、わたしの声じゃないと返事しないみたい」
フェリスとユーリが歩み寄り、ルナリアの硝子板を覗き込んでいた。
「……私の硝子板には無かったんだ。そうだ、案内人、後で私の硝子板にもこれを付与してくれ」
「いいなあ。先生、世界樹の冒険が終わったら、僕もこれが欲しいので連れて行ってください」
そんな玩具をねだるような気分で行けるところじゃない。
「で、ルナリア。こいつは何ができるんだ?」
「うーん、今のところ可愛いだけなの。ご飯あげないと拗ねちゃうし。何に使うのかはさっぱり。ねえ、アル」
<ニャア>
俺が顔を上げると、案内人が固まっていた。
どうだ、うちのルナリアは凄いだろう。
「ルナリア・アストライア。……それは、君が独力で見つけ出し、名を付けたのか。インターフェースは古代語なはず……いや、なんでもない。それよりも、AIがこれの発展ではないかという、その発想を自分でしたのか」
「はい。そうです。アルは撫でると喜ぶんですよ。そういうことかなって」
ルナリアが硝子板を指で擦ると、不細工な猫が鳴いた。
<ウニャー、ゴロゴロ>
ルナリアが、にこにこしながら硝子板を見ている。
「うふふ。可愛い」
ユーリが、俺に顔を向けて言った。
「先生が動物好きなのは知ってましたが。ルナリアさんも、そうなんですね」
「それもあるけど、あいつが動物を撫でると、逃げるか硬直するかのどっちかなんだ。だから、余計嬉しいんじゃないか」
しばらく思考していたのか、黙っていた案内人がルナリアに答えた。
「……ルナリア・アストライア。絶対に、その硝子板の知識を勇者の補助以外に使ってはならない。……それと、先ほどの質問に答えておく。AIについてだが、本質的には違う。だが、発想は正しい」
「ふんふん。ああ、そっか。この子は、餌が欲しいって自分から言えないですもんね。そういうことかな。うんっ。なんとなく分かりました。ありがとうございます」
ルナリアの言葉を聞いて、案内人がもう一度同じことを言った。
「……本当に、絶対に、勇者の補助以外にそれを使用してはならない。……フェリス、君の硝子板を提示せよ。同じ物を付与する」
「……ん。聞いていたのか。いいやつだな。ありがとう」
ユーリがすっかり子どもらしさを表情に戻し、羨ましそうに二人を見ている。
俺は彼に視線を向けると小さく息を吐いた。
苦笑いしつつ彼に声をかける。
「ユーリ。俺の硝子板は穴が開いてるんだ。色々片付いたら、一緒に取りに行こうか」
「本当ですか! 先生! ありがとうございます!」
決して、俺が子どもに甘いわけではない。
そういえば、ユーリに甘すぎるとカタリナさんに説教されたのだった。
パイオニアに行くとなったら彼女も来るだろうな。
まあ、それはそれで面白い冒険になるか。
<ニャア>
ルナリアが、硝子板に浮かぶ猫を撫でていた。
彼女のほっそりとした指先が硝子板の上を這う様子は、やはりえっちだった。
そんなルナリアの美しい相貌を見ながら、俺はふと思った。
アルは、ルナリアが呼ばないと出てこられない。
リゼット様も賢者のせいで世界樹から離れられないらしい。
……最後の方で、ジークは何かとんでもないことを言っていなかっただろうか。
俺は聞いておくべきことを、ひとつ忘れているような気がした。
# COORDINATE 0092 END




