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[COORDINATE 0079] Prince’s First Adventure

# First_Battle_on_the_Road:


 王都セレスティアを南へ抜けると、広大なヘラス平原が広がっている。


 秋口にこの地を通れば、主要街道からでも、遠くに壮大な穀倉地帯が望めるそうだ。

 なだらかな平原の一角に、麦畑や農村が点在しているのだろう。


 晴れ渡った冬の空は冷たく、けれど驚くほど澄み切っていた。

 雲ひとつない青が、どこまでも高く突き抜けている。


 そんな、少しずつ寒さの和らぎ始めた冬の街道を、俺たちを乗せた馬車は南へと進んでいた。

 馬車の傍らには、二頭の軍馬が静かに歩を進めていた。


 手綱を取っているのは、ユーリとカタリナさんだ。

 旅装に身を包んだ二人はそれぞれ馬上にあり、俺たちの旅の仲間として、王都から南へ向かう街道に同行していた。

 ユーリは仕立てのいい冒険者らしい灰青の装備を着ている。

 だが、腰に佩いている黄金の武器が、きらびやかに光を返していて、とても冒険者には見えなかった。


 カタリナさんも、いつもの近衛騎士の鎧ではなく、軽装の剣士風の衣服に身を包んでいた。

 深紅の布地は、後ろで束ねた赤みがかった長い髪によく似合っている。


 だが、鎧を脱いだことで、かえって彼女の美貌は際立っていた。

 切れ長の目元は涼やかで、艶のある唇には、凛とした色気がある。

 剣士の装いをしていても、そこにいるだけで目を引く人だ。


 俺は御者台で手綱を握りながら、並走するユーリに声をかけた。


「それにしても、ユーリは強くなったな。たった十ヶ月ほどで大したもんだ」


「先生にそう言ってもらえると嬉しいです。剣術も、やる気になってみると意外と楽しくて。中級魔物にも勝ったんですよ!」


 城を抜け出して、中級魔物と戦うとかどういう王子だ。

 出会った時は、俺と同じく知能派を自称していたはずなのだが。


 隣で硝子板に浮かぶ地図を見ていたルナリアが、ユーリに顔を向けて言った。


「ユーリ君、凄いね。昔のわたしみたいだよ。わたしも五歳くらいのとき……」


 俺は空いていた左手で、ルナリアの口を塞いだ。

 お前の子どものころの話なんか聞かせたら、悪影響しかない。

 俺に口を塞がれたルナリアは、赤い瞳に潤みを宿し、とろんとした表情を浮かべた。


 前方を見据えながら馬を進めていたカタリナさんが、小さく息を吐いた。


「殿下、城を抜け出されるなら、せめて私だけでも同行させてください。小言は控えますので」

「無理です。そんなことをしたら、カタリナの首が飛びます」


 それにしても、いくら本気で訓練したからといって、普通はルナリアと剣を打ち合えるようになんてなれない。


 とんでもない才能だ。

 純粋な剣技なら、すでにユーリが俺より強いことは間違いないだろう。


 迷宮攻略自体には、カタリナさんは参加しない。

 護衛がいては冒険ではない、というのがユーリの主張だった。

 その気持ちは俺にも分からなくはない。


 だが、王子の護衛を外すなど本当にまかり通るのだろうかと思っていたら、なぜか陛下から許可が下りた。


 とはいえ、旅の間ずっとユーリを俺たちだけに任せるわけにはいかない。

 折衷案として、カタリナさんは迷宮へ到着するまでの同行となった。


 そんなことを考えていると、荷台の小窓からフェリスが顔を覗かせた。

 眩い陽光に目を細めながら彼女が告げた。


「……この先に、魔物の気配がする」

「わかった。馬車を止める」


 俺たちは、ルナリアの飛行魔法による魔物の殲滅を一時的に控えていた。

 旅のあいだを利用して、ユーリの実戦訓練を行うためだ。

 ルナリアが空から魔法で殲滅して終わりでは、ユーリもつまらないだろうと思ったのもある。


 俺は馬車を街道から少し離れた場所に止めた。

 軍馬から降りたカタリナさんの方を向き、馬車を任せた。


「カタリナさん、馬と馬車をお願いします」

「承知した。殿下、くれぐれも無茶はされませぬよう。アルス殿、よろしく頼む」


 カタリナさんに馬と馬車を預け、俺たちは街道を少し進んだ位置で立ち止まった。

 水色の髪をふわりと揺らし、フェリスが地に左手をついた。


 しばらくして、フェリスが口を開いた。


「……数は四体。……強いぞ。恐らく、すべてオーガだ」


 俺は星切の柄に手を添えながら思案した。


「ルナリア、ユーリが参戦しても問題ない数まで減らしてから、訓練をつけてやってくれ。ユーリ、ルナリアの指示をきちんと聞くように。破ったら置いていくからな」


 ユーリが、真剣な表情で俺に視線を向けたまま答えた。

 眉のあたりで切り揃えられた柔らかな黒髪が、ふわりと揺れた。


「はい! ルナリアさん、よろしくお願いします!」


 ルナリアがいつもより真面目な顔をして答えた。


「うん。任せてよ。ユーリ君、頑張ろうね」


 ユーリの立ち振る舞いに、浮足立った感じはないな。

 まだ、子どもなのに大したものだ。


 そう思いながら、俺は支援魔法をユーリに展開した。

 淡い光が彼を包み込み、彼の速度を一段上昇させ、粒子となって消えていく。


「ユーリ、かけた支援魔法は速度上昇だ。初めは、調子が狂うかもしれない。慎重に動けよ」


「わかりました。……やっぱり凄いですね。先生の支援魔法は」


 俺はユーリに視線を向けた。

 ユーリは頷いて少し距離を取り、後ろを向いて耳を塞いだ。

 ルナリアとフェリスが支援魔法を受ける様子は教育に悪いので、あらかじめそうするよう伝えていた。


 ユーリが向こうを向いたのを見て、ルナリアとフェリスに両腕を伸ばした。

 彼女たちにも支援魔法を展開した。


「二人も速度上昇属性だ。フェリスは、緊急用に待機しておいてくれ」


 身体を駆け抜ける甘い電気に、ルナリアがぞくりと肩を震わせた。

 彼女は赤い瞳で俺を捉えたまま、熱い吐息を漏らしながら答えた。


「あぁん! ……んぅ……んぁ! うん。ユーリ君の気持ちはよく分かるからね。ちゃんと、強くしてあげないと!」


 フェリスは耐えるように、浅緑のワンピースの裾を握っていた。

 だが、全身を駆け抜ける快感に負け、ほんのり声を漏らした。


「……んっ。……くっ。……あぁっ……あ、ああ。危険だと判断したら、介入する」


 ルナリアが腰の鞘から銀の剣を抜き放った。

 その動きに揺れた彼女の金糸の髪が、陽光を返して煌めく。


「いくよ、ユーリ君」


 ルナリアはそう言うと、地を蹴って駆け出した。

 彼女の白いスカートが翻り、白いニーハイに包まれた太ももが、ちらりと覗いた。


 ユーリが黄金の剣を抜刀し、彼女に続く。


「はい!」


 凄まじい速度で風を切って奔るルナリアに、負けじとユーリが追いすがった。

 俺とフェリスもそんな二人に遅れて走り出した。


――轟音とともに、ルナリアの赤い剣閃が幾重にも奔る。


 ルナリアが、業火の剣を左に引き絞り右へ鋭く振るった。

 濃紺のバトルドレスに包まれた胸が、下着がないせいで、ぶるんっと揺れる。

 揺らめく魔法の炎が、その胸の先端に淫靡な影を作っていた。


 オーガを一体、一刀のもとに両断したルナリアは、地を蹴って中空で身を捻った。


「――ファイアランス!」


 魔法の槍がオーガの頭蓋に命中し、脳を揺らされた魔物がふらつく。

 ルナリアが大地を円形に陥没させながら、魔物へ突進する。


 ずばあっという斬撃音が響き、オーガの胴が両断され炭化しながら崩れ落ちた。

 彼女は残心ののち、迫りくる二体のオーガの攻撃を、飛ぶように跳躍して回避した。


 中空で姿勢を変え、くるりと縦に回転しながら、後方で待機していたユーリのそばへ着地した。


「よし。じゃあ、ユーリ君、いってみようか」

「は、はい!」


 え? 相手はオーガだぞ。


 二体にひとりで突っ込ませるのは、いくらなんでも無茶苦茶じゃないか。

 俺がそう思って目を見開いて口を挟もうとすると、隣に立っていたフェリスが言った。


「……心配する気持ちは分かる。だが、少年は問題ないだろう」

「む……。うーむ。本当に大丈夫か? やっぱり、お前も行った方がいいんじゃないか」


 風に流れる水色の髪を細い指で押さえながら、フェリスがこちらに視線を向けた。


「……少年をパーティーの戦士だと、お前が言ったんだ。……信じてやるべきだぞ」

「……わかった」


 初めのうち、ユーリは自分の速度に戸惑いながらも、ぎりぎりでオーガの攻撃を回避していた。

 だが、徐々に支援魔法に慣れてきたのか、ユーリは身を捻ってオーガの攻撃を避けつつ、黄金の剣を鋭く振るった。

 彼の剣は、徐々にオーガの身に届き始めた。


 焦れたオーガが、二体同時に巨大な棍棒を振り下ろした。

ユーリは地を蹴り、魔物の頭上を越えて跳び上がった。


 少し離れた位置で、それを見ていたルナリアが声を上げた。


「いい感じだよ、ユーリ君! そこで、回転しながら剣を振って!」


 中空で黒い髪をはためかせながら、ユーリが魔物へ視線を向けたままルナリアに答えた。


「え!? わ、分かりました!」


 ユーリは身を捻った勢いを利用し、小さな身体を中空で横へ鋭く回転させた。

 その勢いを乗せて横薙ぎに振るわれた黄金の剣が、一直線に奔り、オーガの首を切り飛ばした。


 だが、その勢いを制御しきれなかったユーリが、姿勢を崩して地に落ちてしまう。

 それを見た最後のオーガが棍棒を叩きつけようと、丸太のような腕に力を込めた。


 そのオーガへ、赤い炎の剣閃が奔った。

 すでに地を蹴っていたルナリアが、業火の剣で魔物の腕を切り飛ばし、炎を纏う銀の剣を手の中で返して下段から振り上げた。

 ずばあっという音とともに、最後のオーガは斜めに切り裂かれ、絶命した。


 ユーリの戦いを見た俺は唖然として呟いた。


「ユーリも空中で方向転換できる類の人間だったのか……」


「……あの少年、才能があるな。……そういえば、模擬戦でも肩を守らずに打ち返していた。あれは強くなるぞ」


 ユーリが、俺が見ていたことに気づき、ぶんぶんと手を振っていた。


「どうですか! 先生! 僕もなかなかやるでしょう!」


 俺は、にこやかな笑顔を浮かべるユーリに笑みを返しながら思った。

 女の子二人と、子どもに守られる勇者か。


 斬新すぎる。



# Camp_Under_the_Moonlight:


 オーガとの戦いのあと、俺たちはしばらく何ごともなく街道を進み、日が落ち始めたところで野営地を設営した。


 フェリスの作った料理は、ユーリとカタリナさんにも好評だった。

 料理を褒められたフェリスは表情こそ変えていなかったが、少し嬉しそうにしていることは、俺とルナリアには分かった。


 今は食事を終え、五人で茶を飲みながら会話を楽しんでいた。

 ふと空を見上げると、雲ひとつない夜空が広がっていた。

 無数の星がまたたくその中に、丸いアズールが浮かんでいた。


 俺はその星空を見ながら、そういえば最近、ある感覚に触れていないことに思い至った。


 銀色の既視感。


 俺が道を踏み外しそうになったとき、幾度となく優しく導いてくれていたあの既視感を、このところ感じていない。


 俺はもう、歩む道を間違えなくなったのだろうか。

 それとも、魔王がなにかをしているのだろうか。

 俺が間違えないなどあり得ないので、後者ではないかと思った。


 では、魔王との戦いのとき、俺を守った銀の膜はなんだったのだろう。

あの銀の膜は既視感とは違っていた。

 やはり、魔王相手だから、無理をして強い加護を使ったということなのだろうか。

 ジークフリートも、それに近いことを言ってはいた。


 しかし、俺はいまいち腑に落ちなかった。


 カタリナさんは話をしていたが、俺が上の空になっていることに気がついた。


「そういうわけで、Sランク冒険者昇格の件は、殿下の件とは別で政治的な……アルス殿?」


「ああ、すいません。月が綺麗だなって思って」


 俺を挟むように座っていたルナリアとフェリスが、なぜかため息をついた。

 カタリナさんは俺の答えを聞いて、口元に苦笑を浮かべつつ、話を続けた。


「こほん。アルス殿、今度女性に言ってはいけない言葉を教える。……話を戻していいか。アルス殿とルナリア殿がSランク冒険者になったのは、政治的判断だ。なにせ、王国の冒険者が共和国の推薦で勇者候補になり、なぜかそのまま教国に向かっていた」


 はて?


 俺の言葉に、なにか変なところがあっただろうか。

 そう思いながら俺は茶に口をつけ、話の続きを待った。


「他国での勇者候補認定はまだいい。だが、そのまま貴殿が正式に勇者となれば、王国だけが蚊帳の外ということになる。貴殿は王国出身だというのに、これでは面目が立たない。そこで、あらかじめSランク候補にしておいたのだ。もし教国が正式な勇者認定を下した場合、その勇者はもともと王国のSランク冒険者だった、という形にできる」


「なるほど。だから、俺はSランク候補になっていたんですね。やっぱり正式に認定されるには面談とかあるんですか?」


 地面に届かない足をぶらぶらさせていたユーリが、口を挟んだ。


「先生は、もうSランク冒険者ですよ。この旅の初めに言ったじゃないですか。先日の模擬戦で父上……国王陛下が観戦していたのですが、その際にルナリアさんの力も確認できたので、そのまま王権で認定まで進めたそうです。そうしておかないと、賢者の迷宮は本来、冒険者ならSランクでないと挑戦できませんからね」


「……少年、アルスは興味のない話を、聞いているふりをする癖がある。多分聞き流していた」


 フェリスが木杯を置き、ユーリに答えた。

 彼女の水色の髪は、月明かりの下では本当に透き通るように美しかった。


 そんな彼女から視線を外し、俺はユーリに答えた。


「そうだっけ。いや、わるいわるい」


「先生は普段はあんなに理知的なのに、ところどころ雑ですね。いえ、そういうところも、先生の素晴らしさのひとつなのかもしれません。国王陛下は、存分に学んでこいと仰ってました」


 俺のそういうところは、学ばないほうがいいと思う。

 ルナリアが、肩より少し長い髪に炎の明かりを返しながらくすくす笑っていた。


「アルスは、そういうところも格好良いんだよ」

「……ん。いや、どちらかというと可愛い」


 野営しているときのユーリは、本当に楽しそうだった。

 丁寧に切り揃えられた黒髪を、ふわりと揺らしながらよく笑う。

 仲間との夜の会話は、冒険者の醍醐味だものな。


 ユーリが大きくなったとき、一緒に酒を飲むのが楽しみになった。


 そんなユーリが茶に口をつけながら、ふと思い出したように言った。


「そういえば、先生たちは共和国に入ってすぐに、フェリスさんに出会ったのですよね。それなら、一度戻ってきてくださればよかったのに」


「ああ、お前やカタリナさんがお勧めしてくれたおかげだ。共和国の首都に用事ができてさ。すぐには帰れなかったんだ。それに、フェリスが正式にパーティーに加わったのは、かなり後だったんだよ」


 カタリナさんが、何かを思い出したように視線を逸らした。

 ルナリアも木杯に視線を向けたまま固まっていた。


 二人の反応は、なんなんだろう。

 俺はそう思いつつ、木杯に口をつけた。


 俺たちの話を聞いていたフェリスが、疑問を口にした。


「……そういえば、共和国を勧めたのはエルフ族が多数いるからだろう。それは分かっているのだが、なぜ、わざわざエルフ族のスカウトがよかったのか、二人とも教えてくれない。少年、なぜなんだ?」


「ああ、それはですね。先生は大きな胸の女性が好きなので、エルフ族ならルナリアさんも安心だという……」


 ユーリは、夜の空気に浮かれて不用意なことを言ったのだと、途中で気づいたらしく、言葉を止めた。

 ユーリの言葉で、俺はとうに忘れていた当時の会話を思い出した。


 フェリスがじっとりした目で、俺を見つめていた。

 瑠璃色の瞳からは、普段の優しいお姉ちゃんじみた雰囲気とは違う、少し湿った色気が滲んでいた。


「……ふぅん?」

「いや、きっかけがそうだっただけだよ。どちらかというと、フェリスに出会う運命がそうさせたんだ」


 フェリスは左右均整な相貌に薄い笑みを浮かべたまま、怪しい色気を漂わせていた。


「……私は、そんな言葉で誤魔化されない。少年、教えてくれてありがとう。おい、アルス。ちょっとこっちへ来い」


 俺はフェリスに引きずられ、寝床にしている馬車の荷台へ連れていかれた。

 そんな俺とフェリスを見送りながら、ルナリアが困ったような笑みを浮かべていた。


「あはは。えっと、じゃあわたしも今日はこのへんで寝るね。ユーリ君、今日の戦いはよかったよ。明日から訓練も一緒にやろうね。カタリナさん、おやすみなさい」


 ユーリは頬をかきながら、口元に苦笑いを浮かべた。


「はい。ありがとうございます。す、すみません。つい」

「あはは、心配しなくても大丈夫。ちょっと、アルスがフェリスちゃんに夜通し、いじめられるだけだよ。じゃあまた明日ね」


* * *


 私は茶を飲みながら、今や王国……いや、世界でも随一の強さを誇るであろうアルス殿たち三人の珍妙なやり取りを眺めていた。

 寝所へ引き上げていくその背中を、静かに見送る。


 殿下は、ああ仰っていたものの、さして気にしていないようだった。

 炎の淡い光を返す美しい黒髪を揺らしながら、楽しそうに星空を見上げていた。


 薄々思っていたが、この方の精神性も相当なものだ。

 殿下は、あの英雄たちと肩を並べる存在にきっとなる。


 五年もすれば、殿下も彼らに見劣りしない好青年に成長なさっていることだろう。


 今の可愛いお姿を、しっかりと覚えておきたいものだ。

 思わず、口元に笑みが漏れた。


 ふと、殿下が何かに気がついたように、視線を私に向けた。


「カタリナ、そういえば、もうひとつの理由は、エルフ族が人族に色目で見られるのを嫌うからではなかったですか?」


「そうです、殿下。私も軍事作戦で、実際に行動をともにすることがありました。間違いありません」


 殿下は不思議そうな表情を浮かべて、彼らが引き上げていった馬車の荷台に視線を向けた。


「フェリスさんは、どう見ても先生にぞっこんではないですか?」

「殿下も大人になれば分かります。そういうものです」


 私の言葉を聞いて、殿下は可愛らしく小首を傾げ、それから納得するように頷いた。


「そうですか。まあ、先生ですしね。出会う女性すべてに好かれてもおかしくはありません」


 確かにアルス殿には、どうも無意識に女性を口説く悪癖があるようだ。

 多少盲信の入った殿下の感想ではあるが、あながち的外れではないように思えた。


 彼が独り身であったなら、私も少し危なかったかもしれない。

 とはいえ、あそこに混じるのは勘弁してほしいが。

 フェリス殿のように、ルナリア殿に認めてもらえる自信もないしな。


 私は殿下が見ていた星空を見上げた。

 今日のアズールは大きく、青白い光で夜の闇を優しく照らしていた。


「殿下、彼らのパーティーに加わるのであれば、あの三人の男女の話に口を挟んではいけませんよ」


「はい。そうみたいですね。魔物より怖そうです。それにしても、こうやって色々起きるのは、本当に楽しいですね」


 私と殿下は、アルス殿たちが用意してくれた簡易天幕に引き上げた。

 天幕に使われている布や縄は、見たことのない素材で造られている。

 近衛騎士団のものより温かく、上等で清潔な毛布が敷き詰められていた。


 私はそんな天幕で殿下を休ませ、子どもらしい寝顔を見ながら思う。


 きっと、殿下は大物になられるだろう。

 願わくば、いつまでもそんな殿下の護衛でいたいものだ。


* * *



# COORDINATE 0079 END

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