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[COORDINATE 0032] What Leo Protected

# The_End_of_the_Long_Night:


周りの夜の景色が、流れるような残像となって私の後ろへと置き去りにされていく。


疾走しながら、集中して周囲の音を拾う。

レオは鳴き声の場所から移動しており、家畜小屋へ方向を変えている。

家畜小屋はまだ距離があり、確かなことはわからないが、子供がいる気配がする。


恐らく、あの女の娘だろう。


私は地面を強く踏み込んで、夜空へと跳び上がる。

前方に立ち塞がるように建っていた民家の壁を蹴り、空中でさらに加速する。

破砕音が響き、壁が粉砕されて建物の中の家具が露わになった。


「……緊急時だ。仕方ない」


誰に言い訳をするでもなく口の中で呟きながら、私は風となって疾走する。


やがて、より鮮明な音が聞こえてきた。ここまで近づけば、私は耳だけで状況がほぼ把握できた。

重々しい巨大なものが大地を踏む音と、小さな子供の泣き声。そして、その横から魔物へ向かって走るレオの足音。


私は速度を緩めることなく、手前にある家畜小屋の屋根へと直接飛び乗った。

眼下の地面で、ワイバーンが泣き叫ぶ子供を嬲るように見下ろしており、それをレオが決死の覚悟で止めようと噛み付いているところだった。


……なんだ、あの魔物は。

私から完全に逃げるならわかる。……一方的になぶれる相手を見つけたら地面に降りるのか。


私はワイバーンに抑えきれない不快感を覚えた。

気がつけば家畜小屋の屋根を半壊させながら、魔物へ向かって跳んでいた。


「このクソ野郎が!!」


私は風を切りながら、真っ直ぐに加速した。

真っ青な外套と、私の水色の髪が凄まじい速度によって後ろへ流れる。

片足をまっすぐ突き出し、ワイバーンの巨大な頭を横から躊躇なく蹴り抜いた。


「ギアッ!?」


私の浅緑のミニワンピースが大きくめくれ上がり、深緑のニーハイとのあいだから白い太ももが露わになった。

勢いのまま地面へ着地する。外套がばさりと音を立てて私の背へ戻り、遅れて水色の髪がふわりと後方へ流れた。


――しまった。

我を忘れて追撃することなく思い切り蹴り抜いてしまった。


急ぎ、痛む左手で黒い短剣を引き抜き、右手に持ち替えて逆手で握る。

軸足で強く大地を踏み、鋭く跳躍し、体を捻って上半身を引き絞った。


ワイバーンの頭上で、引き絞った上半身の力を解放して回転する。鋭利な黒い刃が、魔物の頭を引き裂いた。


分厚い黒緑色の鱗が切り刻まれ、夜空に飛び散るのが見えた。


大森林から溢れてきた個体だからか、本当に硬い。

私はそのまま怯むワイバーンの頭を足場にして踏み抜き、真上へ跳び上がった。


右手を突き出しながら、回るようにワイバーンの脳天へ黒い短剣を突き刺した。

そのまま右腕の力を万力のごとく込め、短剣をねじり込む。


ワイバーンは苦痛に暴れまわっていた。

私は魔物の頭で短剣を押し込みながら叫ぶ。


「……レオ! そこの子供を、連れて逃げろ!」


レオが子供のところへ走っていくが、その小さな女の子は腰が抜け、恐怖で立ち上がれないようだ。

……私だって、あの頃なら動けない。仕方ない。……それでも、あの子はレオを助けてと言っていたな。強い子だ。


「……動けるようになったら、そこから離れろ。……少しでもいい」


私はそう告げると、ワイバーンの脳天に突き刺さったままの黒い短剣の柄を足場にして踏み込む。

より強く頭の内側へ短剣が押し込まれ、魔物がたたらを踏む。


短剣を足場にして跳躍した私は、中空で一回転し着地した。

あまり今のは美しくなかったな。だが、今は格好をつけている場合ではない。


右手でグラディオの短剣を抜き、逆手で握る。

魔物の暴れる足元をすり抜けて逆側へ走り込み、強く踏み込んで跳躍し、中空で後転する。


頂点で体を捻った私は右手のグラディオの短剣を翼へ向かって遠心力を加えて振り抜いた。

奥側の翼は先程の一撃で深い傷が入っていた。同じ箇所を禍々しく紫に光るグラディオの短剣が鋭く切り裂いた。


硬い骨を断ち切る感触。片翼がだらりと垂れ下がり、動きが止まった。

これでこいつはもう空へは逃げられない。


ワイバーンは、この期に及んでようやく覚悟を決めたのか、私を強烈に睨みつけてきた。

まずいのは魔法だ。私は躱せるが、子供が狙われたら私の力では庇いきれない可能性があった。


ワイバーンが私への敵視を諦めて子供へ向かわないよう、わざと捉えきれそうで捉えきれない速度まで落とし、魔物の周囲を円を描くように走る。

こいつは小悪党だ。私を捉えられないと判断したら子供を狙うだろう。


ついにしびれを切らしたワイバーンが、苛立ちとともに風の魔法を私へ向けて撃ち放ってきた。

風の刃が迫る瞬間だけ、速度を上げて全て回避する。


視界の端で、レオに促されて子供がようやく立ち上がり、離れていくのが見えた。


私は自分の瑠璃色の瞳に力を込めて、速度を解放した。全身の血流の巡りが激しくなっていった。

両足と右腕に意識を集中させる。


真っ直ぐ走り抜けながら、ワイバーンへ右腕を振り抜く。魔物の足元から血が吹き出す。

ワイバーンは巨大な爪を振り下ろしてくるが、そんなものには当たらない。


跳躍し、中空で避ける。前転してすれ違いざまに爪の生える腕を翼ごと斬り裂く。

私は薄く笑みを浮かべて言った。

「……やはり、蜥蜴程度ではそんなものか」


言葉を理解したわけではないだろうが、魔物はその目に強い殺意を浮かべる。

苦し紛れのように大魔法の詠唱を開始した。

魔物は周囲の大気を震わせ、意味不明な言葉を紡ぎ始める。


「I, a nameless dweller of the mocking sky...」


「……お前は、闘いが下手だ」


大魔法の詠唱を始めた魔物を視認するや否や、私は中空へと高く跳び上がる。

左手が使えない。双手でなければ終撃はできない。


私は空中で体を捻ると、高速で回転しながら容赦のない踵落としを振り下ろした。

私の踵は、ワイバーンの脳天に深々と刺さったままになっている黒の短剣の柄を捉える。

柄に強烈な蹴りの威力が叩き込まれ、短剣は頭蓋まで届く。激痛によってワイバーンの大魔法の詠唱が強制的にかき消された。


「ギィィィッ……!」


私は蹴りの反動で跳び上がり、中空で前転しながら右手のグラディオの短剣を、見開かれたワイバーンの眼球へと真っ直ぐに突き刺した。


右腕の筋肉を限界まで引き絞る。自分の骨が軋むほど、命を絶つための力を限界まで込める。

神器であるグラディオの短剣はその力によって一切歪むことはなく、全ての力をワイバーンの眼球へ伝えた。

私はそのまま全身の力を込め、眼球を貫いて魔物の急所へ到達した。


凄まじい断末魔を上げたワイバーンは、地響きを立ててその場に倒れ伏した。


それを確認して、私は跳び退き、後転して着地した。

青い外套が翻り、夜風が私の露出した太ももを優しく撫でて冷やした。

姿勢を制御する余力はもうなく、そのまま腰が地面へ落ちる。


汗でワンピースが、お尻から背中にかけて、べったりと体に張り付いていた。

座り込んだことで外套の前が開き、その隙間から胸元の突起が、ワンピース越しに陰影を持って浮き上がっていた。


だが、もう動けなかった。


「……はぁ……はぁ」


戦闘の興奮状態が終わり、左腕に痛みが戻ってきていた。


まあいい。どうせ誰も見ていない。

私は自分の格好を気にすることなく、満天の星空を見上げる。


こちらへ向かってくる、ルナリアとアルスの姿が夜空に浮かんでいた。

何故か、アルスはルナリアに抱きかかえられていた。


……あいつらは何をやっているんだ。



# The_Stardust_Pendant:


俺は人生最大の恐怖から解放され、溜まった涙だけさっと拭う。

フェリスが左腕を負傷しているのを視認して、俺はまだ震える足にむち打ってフェリスのもとへ駆け寄る。


止血はしていたようだが、激しく動いたせいで傷が開いたのか、彼女の細い左腕からはまた痛々しい血が流れ落ちていた。

俺は急いで左手をその腕に添えて、回復魔法を展開しながら言った。


「フェリス、ごめん。無理をさせたな。怪我、痛かっただろ。……ありがとう」


俺の手から発せられる柔らかな光が、彼女の裂けた肌を治癒する。

フェリスは、治癒されていく自身の腕をじっと見つめながら、静かに首を振った。


「……いや。怪我は、自分のせいだ。……しかし、本格的な負傷の治癒は初めてだが」


彼女の言葉の続きを待っていると、彼女の透き通るような水色の髪が風になびいてさらさらと流れた。

フェリスは少し思案するように目を伏せ、それから小さく息を吐き出して続けた。


「……これは、確かに危うい。アルス、お前はよく自制している」


フェリスが何を言っているのか、俺はすぐに理解した。

死ななければ怪我が治るというのは、かなり思考と戦闘方法を雑にさせる。

それが行き過ぎると致命的な危険を引き寄せる事がある。


牛魔の迷宮で俺が言ったことを、彼女も実感として理解してくれたようだ。

よかったよかった。

俺が心のなかでうんうんと頷いていると、ルナリアが横から口を出してくる。


「……うぅ。フェリスちゃん。アルスは今回も自制してなかったの! 聞いてよ!」


振り返ると、ルナリアが赤い瞳に静かな怒りと呆れを滲ませて俺を見ていた。

風に金糸のウェーブがかった髪を揺らしながら、彼女は続けた。


「さっきは、きみの怪我で動転しててわからなかったけど。アルス、一体くらいは自分に攻撃してくる可能性があるって分かってたでしょ!」


俺のその行いは、すでに地獄の空の旅で禊がすんだのではなかったのか。

いや、そんな事より大事な確認を先に済ませておかないといけない。


フェリスへ向き直り尋ねる。

「フェリス、村人に負傷者はいないか?」


だが、フェリスは俺の話を無視して、ルナリアの方へ返答する。


「……ルナリア、なにかあったのか?」

「アルスの片足が見るも無惨なことになったの。あの時は私がもっと強ければとしか思わなかったけど……。

今思うとあれ、わざとああいう配置にしたんじゃないかと思うの」


そんな事はない。

ああいう流れになったのは、それ以外の選択肢を俺が思いつかなかっただけだ。

今考えると他にもやりようはあったかもしれないが、一刻を争っていたんだ。


しかし、そんな事を言えそうな雰囲気ではなかった。


ルナリアとフェリスが、どうしようもない悪ガキを見るかのような目で俺を見ている。

少しずつじりじりと俺へ距離を詰めてくる。

いけない、このままでは俺の行動にさらに制限を加えられる。

いくらお前らでもこれ以上は許さないぞ!


いや、違う。そうじゃない。今はこんな甘い茶番をしている場合じゃない。


「あああ、うるさい! そういう説教は後にしろ! 負傷者はいるのかいないのか、どっちだ!」


俺が一喝すると、フェリスは眉尻を上げ、俺をじっとりと見ながら淡々と言った。


「……私の見る限りでは、村人の負傷者はいない。すでに避難を済ませていた。

ただ、レオが子供を庇って少し負傷している。恐らく、広場の集会所にいるだろう。……だが、まあ大した怪我では――」


俺はそれを聞くや否や、二人のことは無視して集会所の方へすっ飛んでいった。



――残された二人は駆けていくアルスを呆然と見送っていた。


「……最後まで聞け。……あいつ、まさか」

「そうだね。隠すこともなく大っぴらに回復魔法使うだろうね」



俺が集会所を目指し急いで走っていると、途中で暗がりの中を歩いてくる小さな二つの影を見つける。

クロエは、びっこを引いて歩くレオを泣きそうになりながら庇うようにして歩いていた。


俺はクロエがびっくりしないように足音を立てて近寄り、声を掛ける。


「クロエ、レオ。大丈夫か」

「アルス! ……レ、レオが、わたしを庇って……っ」


泣きじゃくるクロエの頭を撫で、俺はすぐにレオの傷口へ手をかざした。

「頑張ったな、レオ。お前は凄い戦士だ」


淡い光が溢れ、レオの傷が瞬く間に塞がっていく。

クロエは、涙の溜まった目をまん丸に見開いてびっくりしていた。

痛みが引いたレオも、クロエと同じような目で俺を見ていたが、やがて元気に走り回りだした。


俺は一安心し、レオを抱きしめているクロエへ、人差し指を唇に当ててそっと微笑む。

「俺たちだけの秘密だぞ」


クロエはレオを抱きしめたまま、こくこくと頷く。


見上げた夜空には、アズールが優しく青白く光っていた。



――――――――――――――――――――――



ライオル村の長い夜は終わった。


翌日、抜けるような晴天の下、俺たちは手分けしてワイバーンや中級魔物たちのドロップ品を手早く回収した。

村の人たちも、その作業を手伝ってくれた。


フェリスはその作業の間、何回も村人にお礼を伝えられていた。

村人の男性に聞いたところによると、ワイバーンを追って村へ救助に向かった時、フェリスはそれはそれは英雄のような登場をしたらしい。


特にクロエは外にいたらしく、危ないところをフェリスが助けたという。

回収作業のあいだ、彼女はずっとフェリスの後をついて回っていた。


ワイバーンの角を切り取り袋に入れる。

俺は額にかいた汗を拭いながら、となりのレオに声をかけた。


「……ふう。暑いな」

「ワン!」


リナルドのように村娘の初恋相手には選ばれなかったが、レオは茶色仲間の頑張りを認めてくれたようだ。

今日はクロエじゃなくて俺にくっついて回っている。尻尾をぶんぶん振っている。


「ああ、そういえばフェリスが言ってたぞ。お前が足止めしなければ、クロエの救出は不可能だったって」

「ワン!」


「ははは。そうだな。そもそもお前がいなければ村も救えなかった。お前は最強の番犬だな」

「ワンワン!」


レオが自由に走り回っている。

こちらを見ながら愛想のいい顔をして走り寄ってきた。


俺はその辺の小枝を拾い投げてやる。

レオは走ってそれを追いかけて咥えに行く。咥えたあと、遠くから得意げにこちらを見て、その場にぽいっと捨てた。


それを見て、俺は頑張ってよかったなと素直に思った。



午前中に回収作業を終え、集会広場で村人たちから改めて昨夜の礼を伝えられた。

村の男性のうち、平凡そうな男性が男泣きをしながら再度フェリスにお辞儀をしていた。


クロエはお別れが近づいたのを察して、泣きながらマドレーヌさんにしがみついていた。


村人たちへの別れの挨拶を終えた俺たちは、馬車の前で出発の支度をしていた。

それぞれ仕事がある中、村長夫妻が見送りにきてくれていた。


ルナリアは荷台を整理している。

フェリスは御者席だ。


強面だが優しそうな村長さんが俺に頭を下げる。

「本当にありがとうございます。アルス様方、あなた方は、この村の命の恩人です。感謝してもしきれません。

あの、どうしてもお礼は受け取ってもらえませんか?」


俺は年上の人にこう何度も頭を下げられると落ち着かないなと思い、苦笑しながら言う。

「いえいえ。旅の助け合いは冒険者の常識です。それに、武装請負業は依頼を通さない金品の受け取りは禁止されてますから」


本当は、それが建前の法律にすぎないことくらい俺も分かっていた。

しかし、この村を救ったのは俺たちじゃない。レオだと俺は思っていた。だから今回は受け取れない。


村長さんは感心したように何度も頷いていたが、ふと思い出したように口を開いた。

「なんと高潔な。……そういえば、お連れのフェリス様はリナルド様の姉君であるとか」


え!? そうなの!?


俺は驚きフェリスに振り向く。彼女は地図を確認しながら聞こえないふりをしていた。

お前が聞こえないわけないだろうと言いたかったが、話がややこしくなるので黙っておく。


「そういえば、クロエやレオは見送りには来なかったんですね」


マドレーヌさんは苦笑しながら言う。

「最後まで泣いてぐずっていまして。今は泣きつかれて寝てしまっています。レオは心配してクロエを見ています」


そうか。少し寂しいが仕方ないか。


俺がしんみりしていると、マドレーヌさんがお礼の話に戻す。

「そうそう。金品は受け取ってもらえないかもしれないと思っておりました。ですが、せめてこちらはお受け取りくださいね」


マドレーヌさんが、示した先には大量の食材が積まれていた。

「全てこの村で採れたものです。もちろん、無理のない範囲で村民がそれぞれ持ち寄ったものですのでご安心ください」


俺は頬をかきつつ、マドレーヌさんを見て苦笑する。

正直、金銭よりよっぽど嬉しい。二人に向かって真っ直ぐに礼を言った。


「ありがとうございます。ありがたくいただきます。ルナリア! 運んでくれ」

「はーい。わあ! 凄いね! これで毎日ご馳走が食べられるよ! ありがとうございます!」


ぴょーんと跳んできたルナリアは、大人三人でも持ちきれないような食材を一度に運んでいた。


俺は再び礼をしながら二人に告げる。

「それでは。楽しい滞在になりました。王都への帰りには、また寄らせてください」


村長さんは是非にと快く応えてくれた。

マドレーヌさんは、ごそごそと鞄からなにか小さな古びた小箱を取り出した。

「はい。是非遊びにいらしてください。あと、最後にこれを。昔リナルド様から頂いたものです」


箱を開けると、不思議な青い石のついたペンダントだった。

石は夜空のように深い青をしており、中で星が煌めくような光が見える。


「星屑の石と言われる宝石をあしらったペンダントです。エルフ族では守護石とされるそうです」


村長さんが驚いて、俺がいるのも忘れてマドレーヌさんに詰め寄っている。

「お、お前がなんでリナルド様からペンダントを? やっぱりまだ彼のことを……」


マドレーヌさんが悪戯めいた笑みを村長さんに向けて言う。

「昔、お別れの時に泣きやまない私にこっそりくださったんですよ。……あのですね、貴方と何年連れ添っていると思っているんですか。

もともと貴方がいるから、もう私には守護石はいらないと思っていたんですよ」


旦那さんはその言葉に顔を赤らめて黙り込む。

なんだかんだ仲のいい夫婦だ。


マドレーヌさんが続ける。

「クロエが大人になったら渡そうと思って大事に取っておいたんですがね。あの子はリナルド様とは違う英雄様を見つけたようですから。

アルスさんが持っていてくださいな。旅の無事をきっとリナルド様が守ってくださいます」


鎖の部分に手を通し、深い青い石を改めて見る。

星空が石の中に広がっていた。俺の女神様も星空にいるようだし縁起がいいな。

ペンダントをさっと身につけ、俺はマドレーヌさんに笑顔を向けて礼を言った。


「ありがとうございます。すごく嬉しいです」


村長夫妻の最後の礼を聞きながら、俺はさっと馬車の荷台に乗る。

頭を下げる二人に手を振りお礼を伝える。


俺たちの馬車は、ごとごとと街道へ戻る道を進んでいった。



街道の分かれ道まで戻り、本来の目的地へ向けて進み出した時、村の方から大きな声がした。

小さな女の子が、茶色い犬と一緒に一生懸命こちらへ走ってきていた。


その小さな女の子は、泣き腫らした目を赤くしていた。

茶色い犬は楽しそうに走っている。


「アルス! お姉ちゃんたち! ありがとうー!!」

「ワン!!」


俺は荷台で、その遠くにいる二つの影を見ながら薄く笑った。


「ルナリア、空へ」

「くすっ。うん、わかったよ」


ルナリアが空にファイアランスを撃つ。

赤いそれは別れの花火だった。



* * *


――アルスたちは、レオの依頼を受けてライオル村を守りきった。


だが、彼らが戦った魔物たちは、なぜ森を捨てたのか。


あの夜、魔物の群れが雪崩れ出た森林の最奥を、一人の青年が歩いていた。


青年の髪は長く白い。

うっすらと青みを帯びたその髪は、暗い森の中にあってなお、かすかな光を放っているように見えた。

その身を包む真っ白な長衣は、森の闇の中でひどく異質だ。


彼は、唐突に消滅した牛魔の迷宮を調べた帰りだった。

ライオル村を襲った魔物たちは、彼を恐れて森を捨てた魔物だったのだ。


森で最も強い個体であった黒竜だけは、最後まで森を捨てなかった。

黒竜は、己の縄張りを歩くその青年に苛立ったように牙を剥いた。


だが、青年は背に負った大剣を抜こうともしない。

ただ短く、何事かを呟いた。


次の瞬間、黒竜は傷ひとつ負わぬまま、その場で息絶えていた。


青年は黒竜に一瞥すらくれない。

そのまま、自らの住処である世界樹へと帰っていった。


* * *



# COORDINATE 0032 END

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