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[COORDINATE 0002] Vision of The Future

# Lunaria_Astraea:


安宿の重い木の扉を抜け、朝の喧騒に包まれた街の石畳を二人でギルドへ向かって歩く。

てくてくと歩きながら、俺は少し前を歩く相棒の事を見ていた。


"ルナリア・アストライア"


太陽の光を反射する金色のセミロングは、安宿の備え付けの石鹸しか使っていないはずなのに信じられないほど艶やかだ。

その赤い瞳は、深紅の宝石を溶かして澄ませたようで、星型をした瞳孔がその中できらきらと輝いている。

すれ違う通行人のほとんどが、その神がかった美貌に目を奪われて振り返る。


だが、街の男たちの視線を釘付けにしている理由は、その完璧な顔立ちだけじゃない。

ネイビーブルーのバトルドレスを内側から弾け飛ばさんばかりに主張する、規格外の双丘。

歩幅を合わせて足を踏み出すたびに、Fカップの暴力的な質量が重力に抗いきれずにふにゅ、ふにゅ、とたわむ。

下着をつけていないせいか、薄い布地越しの摩擦や形の変化がやけに生々しく、見ているこちらの頭がおかしくなりそうだった。


ルナリア本人は、周囲の粘着質な視線にも、自身の圧倒的な魅力にもまったく無自覚だ。

すらりと背筋を伸ばして石畳を歩く所作や、ふとした瞬間の振る舞いには、気品がある。


(そういえば、養成学校でなんか良家のお嬢様だって聞いたことがあるな。)


容姿端麗、お嬢様、おまけに性格も裏表がなく素直。

こんな完璧人間が存在しているとか、リゼット様は公平性に欠けるのではないか。


さらにルナリアは異常に強い。何故俺とパーティーを組んでいるのか謎だ。


剣技は長い養成学校の歴史の中でも屈指の上位。


さらに当時の養成学校でも、いやこれまでの養成学校の歴史上一人もいなかった魔法の使い方をする。

当時の講師の推察では出身家系の影響ではないかとのことだった。


本来魔法は、神器と詠唱が必要だ。

詠唱は神器が継承されている家系にのみ効果があるらしいから、

実際は「神器」「詠唱」「血統」の3つが必要なのが本来の魔法だ。


例えば、勇者アルスなら、勇者の子孫である必要があり、勇者の剣を持ち

「我、勇者アルスなり。全ての困難に打ち勝ち、全ての邪悪を退けるものなり。全てを断絶する光として顕現せよ!エクスカリバー!」

と詠唱することで全てを断絶する光の魔法が発動するわけだ。


もちろん俺は勇者じゃないのでエクスカリバーは使えないし、

そもそも人類にそんな変態じみた魔法を使えるものはいない。


だが、ルナリアは詠唱を必要としない。

魔法名をいうだけで速射でき、さらにその特性を使って剣に炎をまとい近接攻撃を行う。

近接攻撃においては常時高熱の炎を纏う斬撃で魔物を一掃する、まさに魔法剣だ。


魔法剣という名前は俺がつけた。

ルナリアはこれを気に入ったらしく、自分を魔法剣士だと言っている。


世間では、彼女が携える銀の直剣『アストライアの剣』が、魔法行使を可能としている「神器」だと思われている。


だが、俺だけは知っている。実は、ルナリアは剣がなくても魔法を扱えるのだ。

アストライアの剣は確かに神器なのだが、彼女が魔法を放つための必須条件ではないらしい。


しかし、武器なしでの魔法発動なんてバレれば、無詠唱どころではない大騒動になる。

だから彼女はあくまで「偽装工作」として、その剣を携えているというわけだ。


(まあ、俺も魔法使用のルールを何故か無視しているんだけど。…俺ってやはり勇者なのかもしれない。)


魔法ルールの無視具合に関しては、アルスという少年の方がさらに異常だった。


彼もまた、神器と詠唱を必要としない回復魔法が使えた。さらに出身はド田舎の漁村で、高貴な血など一滴も流れていない。

極めつけに、この世界の歴史上、「回復魔法」などという魔法は一度たりとも確認されたことがない。


そのため、彼は養成学校時代、回復魔法のことはひた隠しにしていた。

彼の腰に提げられた凪いでいる日本刀は、神器の偽装工作のために、安くてそれっぽい、見た目のいいものを選んだだけの代物である。



俺が考え事をしていると、その美少女狂戦士が振り向いて問うてくる。


どんっ、と。

肩と肩がぶつかるほど無防備に距離を詰め、俺の顔を下から嬉しそうに覗き込んでくる。

密着した腕の感触とともに、甘い体温の匂いが鼻腔をくすぐった。


「アルス、今日の依頼はどうする? この前は探索仕事だったし、護衛仕事でもいいね。

討伐系もいいかな?きみが指差した場所ならわたしはどこへだって切り込んでいくからね。」


ルナリアの、俺との距離感は独特だった。

性的な誘惑をするわけではない。彼女は生まれから高い貞操観念をもっており、女を武器にするような行動を取らない。

ただ、無意識に「自分の所有権は君にあります」とでも言いたげな行動を、彼女はたびたび取った。


「そうだなぁ、探索技能のまったくない俺達にはこないだの迷宮はきつかったなー。

だが護衛仕事は駄目だ。俺達には向いてないと思うよ。討伐がいいな。一気に稼げるやつ。」


俺はもうそれに慣れっこだったので気軽に返答する。

そもそも俺にとっては、ただ都合が良く、嬉しいだけである。


ルナリアはころころ笑いながら俺に答える。


「あはは、確かにね。こないだの迷宮は、階段を見つける前に二人でヘトヘトになっちゃったもん。

きみがそう言うなら、護衛はやめておこうか。理由はよくわからないけど、きみが向いてないって言うなら、きっとそうなんだろうし!」


ルナリアは俺の言葉に深く頷きながら、一歩、無意識に距離を詰める。

ちょうど肩が触れ合うくらいの距離で、俺の顔を覗き込むようにして笑った。


「討伐だね、了解っ!だったら、ギルドで一番強そうなやつを探そうよ。

一気に稼いで、夜はおいしいもの食べよう?きみが後ろで支えてくれるなら、わたし、どんな魔物相手でも負ける気がしないんだ」


ルナリアはそう言って、細身の身体には不釣り合いなほど豊かな胸を、誇らしげに、そして無自覚に強調するように張ってみせた。

その動作のせいで、ネイビーブルーの布地がぱつんと張り、Fカップの柔らかな曲線がくっきりと浮き上がる。


(お前と護衛仕事なんか受けたらチームの冒険者が男なら俺は刺され、女ならお前が刺されるからだよ…。いやお前はナイフなんか刺さらなさそうだが。)


そうして俺達は見慣れた門の前につく。


「ついたな。今日中に宿代と、お前の三倍の食費を稼ぎ出すぞ」


「だから、三倍じゃないってば!」


冒険者ギルド、フリージア支部。


荒くれ者たちが放つ熱気と、焦げた肉と安酒、

そして革製品の匂いが混じり合った独特の空気が、重厚な扉の向こうから漏れ出している。


俺とルナリアは気負うことなく、慣れた手つきでそのドアをくぐった。



************************************************************


わたしは腰の『アストライアの剣』を軽く叩きながら、これからの冒険を想像して、少しだけ瞳を輝かせる。


きみの判断なら間違いない。きみが指差す敵を、わたしがなぎ倒す。

きみとなら、どんな冒険だって必ず成功するって本気で思っているから。


――そしていつか。

きみのその手が、剣の柄ではなく、わたしのすべてを縛り付けてくれる日が来ることも。


ルナリアはそんな、ただの恋する乙女のような無垢な微笑みを浮かべながら。

その実、己の貞操も、常識の判断基準も、そして命の使い道すらもすべてをアルスに委ねてしまいたいという、

異常な熱を胸の奥に閉じ込めて、ギルドの喧騒の中、俺の隣を並んで歩いた。


************************************************************



# Adventure_Guild:


ギルドの扉を開けると、いつもの騒々しくて暑苦しい熱気が押し寄せてくる。

お世辞にも綺麗とは言えないこの独特の喧騒が、俺は嫌いじゃない。


その中心にある受付カウンターへ、アルスは気負いのない足取りで進んでいく。


「たのもー! アリシアさんいますかー?」


俺はカウンターの奥に向かって、少しだけ声を張り上げてお気に入りの名前を呼んだ。

ほどなくして、書類の束を抱えた一人の女性が顔を出す。


アリシア・ヴァレンタイン。

凛としていて、てきぱきと仕事をこなす所作が美しい、この支部の看板受付嬢だ。

そして何より、タイトな制服の上からでも主張を隠しきれない、

豊かな胸のラインが素晴らしい。俺のどストライクと言っていい。


ああいう女性に「わたしをめちゃくちゃにして」と懇願されて、断ってみたい。

そんなシチュエーションを頭の中で組み立てながらも、それは表情には出さず、

俺はにこにこと微笑んで、アリシアさんに声を掛けた。


「アリシアさんは今日もお綺麗ですね。」


「あら、アルスさん。今日はお早いですね」


アリシアさんがプロフェッショナルな微笑みを向けてくれる。

俺に男性としての興味が一切ないのがよく伝わる素敵な笑顔だ。


ごきげんな顔で雑談していると、俺のすぐ隣で、冷ややかな空気が動いた。

俺にはわかる。これはルナリアの殺気だ。


ちらっと覗き見ると、普段余り見ることのない、不機嫌な顔をしている。

不満げに結ばれた唇。感情の揺れに合わせて、

彼女の豊かなFカップが、ネイビーブルーの布地を内側から突き破らんばかりに鋭く揺れていた。


「ねえ、アルス。依頼、選ぶんでしょ。早くして」


ルナリアの声はいつもの明るさを欠き、わずかに低い温度を帯びていた。

ルナリアはあまり嫉妬しないが、自分の女性的魅力を理解していないため、

不安になるのか、他の女性に好意を向けていると少し不機嫌になることがある。


そしてルナリアの少しの不機嫌は突き刺さる刃のような殺気だ。

本気で怒ったら俺はおしっこを漏らすだろう。


「そんな怒るなよ。わかってるって。それにしてもルナリアは怒っていても可愛いね。

アリシアさん、何か美味しい仕事はあります?

ルナリアの戦闘能力を最大限いかしつつ、他の冒険者と絡まないようなやつがいいですね。」


俺はおしっこを漏らしたくないので、ルナリアの機嫌をとりつつアリシアさんに尋ねる。


「っ! 急にどうしたの…。悪いものでも食べた?

……でも、ありがと。きみにそう言ってもらえるのは、嫌じゃない…よ。」


(そう言って、彼女はわざとらしく自分の頬をぺちぺちと叩いて熱を逃がそうとするが、

金色の髪の隙間から覗く耳の先が、ほんのり赤くなっている)


「そうですね。近隣の村の墓地でアンデッドが多数発生しているそうです。

アンデッド・ミドルの存在は確実、もしかすると、ハイ・アンデッドがいるかもしれません。

神器持ち二人のあなた方なら、十分に達成は可能でしょうが、ハイ・アンデッドがいた場合、かなりのリスクがあります。

危険度の分、報酬は破格です。どうされますか?おすすめはしません。」


ハイ・アンデッド、リッチや高位のヴァンパイア等だ。

ルナリアがいれば勝てないこともないだろうが、そもそも俺が足手まといだ。


もう少しランクを下げようかとも考えたが、今朝の夢がふと脳裏を掠めた。

世界樹。あの響きが、どうしても頭から離れない。


俺は少し悩み、隣にいるルナリアの様子を盗み見た。


さっきの言葉がまだ効いているのか、彼女は耳たぶをほんのり赤くしたまま、

金色の髪をふわりと揺らして首をこてんと傾ける。

そして、潤んだ赤い瞳で真っ直ぐに俺を見つめて、少しだけ弾んだ声で言った。


「どうしよっか?迷ってるなら、アルスが決めていいんだよ。

きみが選んだことなら、わたし、どんな大変なことだって頑張れちゃうから」


少しだけ鼻先を掻き、内心の照れを誤魔化す。

だが、隣で俺を真っ直ぐに見つめるルナリアを見ていると、

「俺たち二人なら最強だ」なんて、柄になく思ってしまう。


「よし、受注します。アリシアさん、手続きをお願いします。……ルナリア、お前の方で何か足りないものはあるか?」


俺がそう声をかけると、ルナリアはぱっと顔を輝かせ、弾むような足取りで俺の隣に並んだ。

きらきらと赤い瞳を揺らしながら、俺の顔を覗き込むようにして嬉しそうに微笑む。


「うーん、そうだね……。移動中の食料と水は、ここの売店で揃えちゃえばいいと思うな。

装備はこの前きみが一緒に見てくれたばかりだし、わたしのほうはもうバッチリだよ!」


ルナリアはそう言って、弾んだ声とともに胸を張る。

その拍子に、ネイビーブルーのドレスを内側から押し留めていた『質量』が、重力に従ってゆっさりと大きく揺れた。

ブラをしていないFカップの柔らかな膨らみは、彼女が「うーん」と考え込むたびに形を変え、

腕を組もうとしてその重みを乗せるたびに、ふにゅっと潰れては薄い布地をぱつんと張り詰めさせる。


「それじゃ、早速出発するか」


俺はルナリアの弾むような胸元をチラチラと盗み見つつ、ギルドの重厚な門をくぐろうとした。


――その、瞬間。


キィン! と頭の芯を突き刺すような鋭い耳鳴りが響く。

自分の重心がどこにあるのか分からなくなるような感覚。

一瞬銀色の光が世界を覆い、奇妙な既視感デジャブが俺を襲った。


「…っ」


「ど、どうしたの? アルス。顔色が悪いよ。少し休む?」


心配そうに顔を近づけるルナリアに、俺は手をひらひらと振って応える。

冷や汗を拭いながら、俺は自分でも驚くほど自然に、けれど切実な口調で彼女に願い出た。


「いや、ちょっとした立ちくらみだ。…アリシアさん、すみません。

一応、何があるか分からないんで、高純度の聖水を何本か売ってもらえますか?多少値が張っても構わないので」


「聖水ですか? 高純度となるとかなりお高いですよ。いいんですか?」


「ええ。三本。…いや、四本売ってください」


俺は財布の底をさらうようにして、迷いなく購入手続きを済ませる。


「きみは心配性だねぇ。ハイ・アンデッドくらい、わたしが全部なぎ倒してあげるのに!」


聖水の瓶を後生大事に抱える俺を見て、ルナリアは可笑しそうに鈴を転がすような声で笑う。

彼女はそのまま、腰に提げた剣の鞘を軽く叩き、自信満々に胸を張ってみせた。


その拍子に、Fカップの暴力的な質量がゆっさりと重たげに揺れる。

薄いドレスの布地は限界まで張り詰め、彼女が深く呼吸するたびに、その形の良い膨らみが隠しきれない存在感をこれでもかと主張していた。


「バカ言うな。お前は平気かもしれないが、俺はハイ・アンデッドの攻撃なんか一発喰らったら即死なんだよ」


「あはは、そうだね! だったら、なおさらわたしの後ろにぴったりくっついててよ。絶対、傷一つつけさせないから!」


そんな軽口を叩き合いながら、俺たちは今度こそギルドの門を後にした。



************************************************************


俺が、己の欲求に負けてルナリアを傷つけそうになった時。

倒れた彼女を前に自制を失い、無策に走り寄ろうとした時。

あるいは調子に乗って、身の丈に合わない無茶をしようとした時。


視界の端で、淡い銀色の光がいつも俺を正しい道へと引き戻そうとしてくれる。


************************************************************



# COORDINATE 0002 END

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