25話 ゼファーの影
アクアマリーナ解放の喧騒がようやく落ち着き、エルザたちが復興という新たな戦いに身を投じていた頃。王国の混乱に乗じるように、不気味な噂が流れ始めていた。傭兵団「火鉄団」が、アクエリスの各地で困窮する民や不満を持つ諸侯を巧みに取り込み、勢力を拡大しているというのだ。彼らは食糧を配り、治安を回復させるなど、バルバロスとは全く異なるやり方で、静かに、しかし確実に人心を掌握しつつあった。
その報告を王宮の一室で聞いた瞬間、カーラの表情が鋼のように硬くなった。
「火鉄団……間違いない。奴が、このアクエリスに来ている」
その声には、宿敵に対する強い警戒と、抑えきれない怒りが滲んでいた。
「奴って……」
アキトが息を呑んで問いかける。カーラはアキトの目を真っ直ぐに見つめ、静かに、しかしはっきりと告げた。
「火鉄団を率いる男、ゼファー。……エルザのペンダントを奪いにきたのだろう」
アキトは唇を噛みしめ、俯いた。彼の胸には、あるべきはずの星の欠片のペンダントがない。それは、カーラの首元も同様だった。鉄王国での激しい戦いの末、二人はゼファーにペンダントを奪われ、エルザのペンダントを守るためアクエリスへやってきたのだ。
エルザは、二人の様子と、火鉄団の不穏な動きを結びつけ、事の重大さを即座に理解した。
「つまり、アキトたちのペンダントを奪った男が、今この国にいる、ということか」
「はい」とカーラは頷く。「ゼファーはただの傭兵団長ではありません。やつは目的のためなら手段を選ばない。このアクエリスに来た目的が、ただの領地拡大でないことだけは確かです」
カーラの言葉通り、ゼファーの真の目的は別にあった。彼は既に、アキトとカーラから二つの「星の欠片」を奪っている。彼の計画を完成させるために必要なのは、あと一つ。エルザがその首にかける、海の青を湛えた最後のペンダントだった。
エルザは自らのペンダントを強く握りしめた。これは、アクエリスの王家に代々受け継がれてきた守護者の証。そして、アキトとカーラが取り戻すべき希望の一部でもある。
「なるほどな……。厄介な客が、海の向こうからやってきたというわけか」
エルザの瞳に、海賊王女としての獰猛な光と、守護者としての強い決意の炎が同時に宿った。新たなる敵の影は、復興へと向かうアクエリスに、再び戦乱の嵐を呼び寄せようとしていた。




