4話 王宮図書館
記録官の当直室はきれいに整理されていてベッドも寝心地のいいものだった。アウレリウス、イリスと朝食をとっているとシエル、シルフのコンビがやってきた。今日から早速、王宮図書館でこの世界のこと理解しなくては。予言の記述と関連する王国の歴史を優先していくようアウレリウスは教えてくれた。僕はシエルとシルフを伴い、王宮図書館へと向かった。
王宮図書館は、静寂と古木の香、そしてインクの匂いが満ちる、まるで迷宮のような空間だった。高くそびえる書架は、まるで知識の深淵を象徴しているかのようだ。窓から差し込む光が、舞い上がる埃を照らし、重厚な書物群に輝きを与えている。その静かな一角にある革張りの椅子に深く腰掛け、古びた書物に熱心に目を落とす女性の姿があった。、20代後半くらいだろうか。彼女はシルフに気づいて顔をあげた。
「あら、シルフじゃない。今日は本を読みきたのかしら? あなたが噂の異世界人ね、いらっしゃい。わたしはリサ、ここで司書をしているの。ここの本のことはなんでも聞いてちょうだい。」
「リサは王国の歴史と古文書に深い知識を持つ、聡明な女なんだ、でも旦那さんがいるから手出すなよ。」
シエルは感情を隠すって言うことを知らないんだろうか。 この図書館の雰囲気は、単なる書籍の保管場所ではなく、歴史と知識が深く尊重されるこの王国の社会そのものを映し出している。迷路のように配置された書架は、過去の出来事や知識の複雑さを物語り、それを解き明かすには、綿密な探求が不可欠であることを示唆しているかのようだ。
僕がリサに用意してもらった古文書には、王国の未来を左右するかもしれない重要な情報が記されている。それは、遠い過去に存在した強大な星海帝国の興亡、三つの王国が成立した経緯、そして何よりも、「星の心臓」と呼ばれる謎の力に関する記述だ。
「お探しのものは見つかったかしら、アキト?」
リサは、優しく声をかけてくれた。僕は顔を上げ、手に持っていた古文書を示した。
「星の心臓について調べているのですが、記述が断片的で…」
リサは興味深そうに頷き、「星の心臓、それは重要なテーマね。もしよければ、私がお手伝いできるかもよ。」
と言ってくれた。彼女は、膨大な量の書物から星の心臓に関する記述のあるものを選んでくれた。リサが手渡してくれたものは、王国の古文書に記された数々の予言だ。「星の心臓が再び脈打つ時、三つの王国は再び争いの炎に包まれるだろう」——そんな不吉な言葉が、幾度となく繰り返されている。かつての英雄たちが予感したという世界の再度の混沌。それは、決して遠い未来の出来事ではないのかもしれない。「星の心臓」という存在が、三つの王国を再び戦火へと巻き込む可能性を示唆している。過去の英雄たちが同様の危機を予見していたという事実は、この予言が単なる迷信ではなく、歴史的な根拠を持つ可能性を示唆しているようだ。
シルフは飽きてきたのかリサの星霊であるキアナと遊んでいた。2人とも風の星霊なので気が合うようだ。
予言書の他に渡してくれた歴史書には、星海帝国の崩壊と三王国の成立が、生々しい筆致で描かれていた。かつて一つの強大な帝国であったものが、英雄たちの死後、それぞれの思惑を持つ者たちによって分裂していった過程は、現在の世界の不安定さを象徴しているかのようだ。三つの王国の文化、風俗、そして人々の気質の違いが詳細に記されていた。同じ星海帝国の血を引くにもかかわらず、それぞれの土地で独自の発展を遂げた文化は、時に衝突を生み、時に協力関係を築きながら、複雑な均衡を保っている。この情報は、三つの王国間の関係性を理解するために非常に重要だった。共通の祖先を持っていても、異なる環境や歴史的経緯を経て独自の文化を形成してきたことは、相互理解を困難にする要因となる一方で、協力関係を築く上での基盤ともなり得る。現在の三王国間の複雑な均衡は、過去の衝突と協力の積み重ねによって形成されたものであり、将来の動向を予測する上で考慮すべき重要な要素だ。
最後にリサはもう1冊の本を渡してくれた。「星の心臓」に関する記述だった。
「こちらの書物には、星の心臓がかつて世界を救った英雄たちが、その強大な力を封印するために砕き、三つの王国がそれぞれ守護するクリスタルであったと記されているの。ゾラスが生み出したこの強大な力は、世界を救ったと同時に、再び悪用されれば破滅を招く可能性を秘めています。この書物には、その力が人々の欲望を増幅させ、争いを引き起こす危険性が示唆されているわ。」
リサは丁寧に説明してくれた。彼女の言葉は、僕の理解を深め、「星の心臓」が単なる力ではなく、人々の内面に作用し、危険な力があることを改めて認識させてくれた。創造主であるゾラスについても、その意図や「星の心臓」の本来の目的を理解することが、将来の危機を回避する鍵となるかもしれないと、リサは付け加えた。欲望の増幅と争いの誘発という特性は、予言された戦乱が単なる偶然ではなく、「星の心臓」の力によって必然的に引き起こされる可能性を示唆しているのだ。
僕は、この世界を救うためにどんなことが出来るんだろう。
書物を読み進めるうちに、僕の胸には様々な感情が湧き上がってきた。英雄たちの犠牲に対する深い敬意、星海帝国の崩壊に対する悲しみ、そして未来への拭いきれない不安と、それでも抱き続ける希望。それぞれの書物に込められた人々の想いが、僕の心に深く刻まれていく。
「あまり根を詰めすぎるなよ。少し休憩しよう。図書館の外に食堂があるんだよ。行こうぜ!」
シエルが声を掛けてくれてはじめて自分の空腹に気がついた。リサはシルフとキアナの面倒をみてるとのことで、2人で食事に行くことにした。
「ずいぶん歴史書や予言書を読んでたけどすごい集中してたな。この後は魔法の勉強もしないとな。」
魔法。異世界といえば1番気になるのはやっぱり魔法だよな。僕の心は跳ねていた。