3話 親睦会
ナルジア王との謁見を終えた僕は、少し緊張した面持ちで王宮を後にした。隣にはアウレリウス、そして前を歩くのはシエルとシルフだ。王宮の厳かな雰囲気から一転、街の賑わいが僕たちを包み込む。吹いてくる風が心地よい。先程までの緊張がほぐれていく。
「まあ、ナルジア陛下はああいう方なのだ、あまり気にするでない。それより街の美味いものを食べてくつろぐとしよう。」
アウレリウスが穏やかな声でフォローする。
シエルに案内され、僕たちが訪れたのは、星都でも評判の小さな食堂だった。店内は地元の人々で賑わっており、活気に満ちている。店員が明るい笑顔で僕たちを迎え、奥のテーブルへと案内してくれた。
「シエルじゃない、アウレリウス様も、今日はご新規さんも連れてきてくれたのね。わたしはナナリィ、ウチの店は小さいけど味は保証するわ。いつも賑やかなのが証拠よ!」
目をくりくりとさせた可愛げのある娘だ。まさしく看板娘。ということだろう。テーブルにつくと、シエルは早速、店の名物料理を注文した。湯気を立てる温かいスープ、見たこともない鮮やかな色の果実を使ったサラダ、そして香ばしい匂いを漂わせる肉料理。僕は、運ばれてくる料理の一つひとつに興味津々だ。シエルとシルフは早速料理を口に運ぼうとしたところ、イリスがやってきた。隣にはもう1人先程マキアス王子と並んでいた女性がいた。装いは街に溶け込む自然な格好だが美しさは際立っていた。
「アキト様先程お会いしました。わたくしセリアナといいます。第一王子マキアスの妹です。わたくしも異世界の話を聞きたくて、イリスに無理を言ってついてきました。街にいる間は服装も変えていますから敬語はなしでお願いしますね。」
シエルはもう空腹に耐えかねたようだ。
「セリアナもイリスもみんなそろったな。まずは腹ごしらえさせてもらうぜ〜。今日は爺さんの奢りな。」
「油断も隙もないが今日は大切な日だからな、ここはわたしが持つとしよう。」
アウレリウスはいつの間にか既に出来上がっている。一体どれだけ飲んだのだろう。それにしても王女様が街に来るなんてことあるのだろうか?それほど治安のよい街なんだろうか。イリスは僕の顔から読みとったのだろうか。
「誰も王女様が街へやってきているとは思いません。王女だと知っているのは店の主人と奥さま、娘のナナリィだけです。外にはわたしの星霊とアウレリウス様の星霊、王女様の星霊がいますから心配いりませんよ。」
食事をしながら、会話は自然と弾んだ。シエルは、星都の面白い場所や、人々の暮らしについて、明るく語って聞かせた。シルフは、テーブルの周りをくるくると飛び回り、時折、いたずらっぽく風を起こして皆を笑わせた。
「アキトは、遠い異世界から来られたのですよね、一体どんな暮らしをしてきたのかしら?アキトのことを教えてほしいわ。」
「僕のいた世界は…」僕はこれまでの暮らし、佐伯夫妻が育ててくれたこと魔法のない世界のこと科学の発達した文化のことをはなした。僕の言葉に、セリアナの瞳が力強く輝いた。
「なんとかアキトの世界へ渡る方法はないかしら?わたしも、異なる文化に触れてみたいわ。」セリアナは、好奇心旺盛なのだろう。
アウレリウスが突然真剣な目つきで話しはじめた。
「およそ19、20年ほど前じゃが…王宮でクーデターが起こった日に異世界渡りがあったと言われておる。予言の件もあるがアキトがここに来たことを考えれば、異なる世界との行き来はない話ではないだろうな。」
「もしよければセリアナのことも教えてもらえますか?この世界のことや僕にどんなことが求められてるか。これからの僕の指針になると思う。」
王宮での生活や、ナルジア王のこと、そして暁王国の現状について、言葉を選びながら話してくれた。彼女の言葉の端々には、王国を憂う気持ちと、より良い未来を願う強い意志が感じられた。
アウレリウスは、静かに皆の言葉に耳を傾け、時折、穏やかな笑顔を向けていた。彼は、僕の言葉の中に、秘められた力と可能性を感じ取っているようだった。
賑やかな雰囲気の中、食事の時間はあっという間に過ぎた。店を出ると、空は茜色に染まり始めていた。
「今日は、本当に楽しかったです。ありがとうございました」
僕が感謝の言葉を述べると、セリアナは優しく微笑んだ。
「こちらこそ。アキトさんとこうしてゆっくりお話できて、私も嬉しかったです」
別れ際、シエルは僕の肩を軽く叩いた。
「明日からは、王宮図書館で本格的にこの世界のことを学ぶんだろ?何か困ったことがあったら、いつでも俺を頼ってくれよな!」
僕は、シエルの底抜けの明るさに心から感謝した。僕は今日出会った人々の温かさ、そしてこの世界の抱える問題について、改めて考えた。ナルジア王は予言を信じないと言っていたが、だからといってなにもしないわけにもいかない。
「アキト、しばらくは記録官の当直室に部屋を用意しよう。明日から王宮図書館と記録室を行ったり来たりじゃ。頑張ってくれよ。」
アウレリウスはすっかり白面のようだ。




