20話 敵の本拠地へ
アイゼンブルク城の地下深く、古の祭祀場――それが、カーラたちが突き止めた、父ガルムの、そして守護者のペンダントの在り処。宰相ガイウスが「ゾラス復活」という不気味な儀式を執り行おうとしている可能性が高いその場所へ、一行は決死の覚悟で潜入、あるいは強襲を開始する。
作戦決行の時が迫っていた。洞窟の隠れ家には、張り詰めた空気が満ちている。カーラは最終的な装備の確認を行い、キールはアキトに訓練をしている。アキトは深呼吸を繰り返し、決意を固めていた。シエルはシルフと小声で何かを交わし、その瞳には鋭い光が宿る。
「私も行く」
リョーコが、まだ顔色は万全ではないものの、強い意志を込めて言った。
「リョーコ殿、君はまだ…」カーラが案じる。
「大丈夫です。足手まといにはなりません。それに…この力が、何かのお役に立てるかもしれません」リョーコは自分の胸にそっと手を当てた。あの夜、仲間を守りたい一心で発現した星の欠片の輝き。まだ自在に操れるわけではないが、その予感は確かに彼女の中にあった。
アキトはリョーコの肩に手を置く。「無理はするな。でも、一緒なら心強い」
カーラも、リョーコの瞳に宿る力を見逃さなかった。「分かった。だが、決して無茶はしないこと。常にアキトか私のそばを離れるな」
夜の闇に紛れ、一行はアイゼンブルク城へと向かった。ガイウスの影響下にある首都は、昼夜を問わず重苦しい雰囲気に包まれ、城へと続く道は厳重な警備が敷かれている。しかし、カーラにはかつて父ガルムから教わった、今は使われていない古い水路の存在という切り札があった。それは城壁の直下まで通じている。
「ここからだ」
カーラが指し示したのは、苔むした水路の入り口だった。悪臭が漂い、内部は漆黒の闇が広がっている。
「リョーコ、頼めるか」アキトが言うと、彼女の光が闇の中へと先行し、道を示す灯りとなった。
水路は想像以上に長く、複雑に入り組んでいた。時折、頭上から響く城内の物音に緊張が走る。カーラの記憶とリョーコの先導を頼りに進むことしばし、彼らはついに古地図に記された地下祭祀場へと続く隠し通路の入り口に辿り着いた。それは、城の石垣の一部に巧妙に偽装された扉だった。例の古い貴族の紋章が、かろうじて識別できる形で刻まれている。
「ここを開けるぞ」キールが扉の仕掛けに手をかける。わずかな機械音と共に、重い石の扉が内側へと開いた。
扉の向こうには、下へと続く長い石段が伸びていた。空気はひんやりと冷たく、カビと古い石の匂いが鼻をつく。ここからは未知の領域だ。
「気を引き締めろ。ここからはガイウスの私兵か、あるいはそれ以上の何かが待ち構えている可能性がある」カーラが警告する。
石段を下りきると、そこは広大な地下空間の入り口だった。松明が壁に点々と灯され、通路の先は暗闇に閉ざされている。
「感じる…」リョーコが小さく呟いた。「ペンダントの気配…そして、何かとても古くて、不気味なものが奥に…」
彼女の星の欠片の力が、この場所の異様な雰囲気を敏感に捉えているようだった。
その時、通路の奥から複数の足音が響いてきた。
「来たか!」キールが拳を構えている。
現れたのは、黒い装束に身を包んだ兵士たち。その装備は火鉄団とも、城の正規兵とも異なる、ガイウス直属の精鋭部隊のようだった。彼らは無言のまま、鋭い殺気を放ちながら襲いかかってきた。
「散開して迎撃!リョーコ殿はアキトの後ろへ!」カーラの号令が飛ぶ。
カーラとキールが前衛に立ち、その卓越した武術と体術で敵の猛攻を捌く。アキトもリョーコを守るように剣を振るい、シエルは壁を蹴って敵の側面や背後を突き、シルフが目くらましや牽制で援護する。
敵は手強い。一人一人の練度が高く、連携も取れている。数も多い。
「キリがない!」アキトが叫ぶ。
「奥へ進むぞ!ここで時間を食うわけにはいかない!」カーラが判断し、敵の隙を突いて前進を開始する。
戦闘は地下通路の各所で断続的に続いた。古の石壁には新しい剣戟の痕が刻まれ、一行は時に罠を回避し、時に敵の包囲を強行突破しながら、祭祀場の中心部へと近づいていく。リョーコの感じ取るペンダントの気配と、不気味な力の波動は、徐々に強まっていた。
長い回廊を抜けた先、彼らの目の前に巨大な石造りの扉が現れた。扉の向こうからは、大勢の人間の声と、何かを詠唱するような厳かな、しかし不穏な音が微かに漏れ聞こえてくる。
「ここだ…この奥にガイウスが…そして父上のペンダントが!」カーラの声に、決意と緊張がみなぎる。
一行は息を整え、最後の決戦を前に、互いの顔を見合わせた。これから始まるのは、鉄王国の運命、そしてあるいは大陸全体の未来を左右するかもしれない戦い。カーラ、キール、アキト、シエル、シルフ、そしてリョーコ。彼らは、それぞれの想いを胸に、その重い扉へと手をかけるのだった。




