19話 ペンダントの在り処
森の奥深く、一行が一時的な避難場所としていた洞窟には、焚き火の心許ない光が揺れていた。リョーコの消耗は激しかったが、アキトたちの献身的な看病と、彼女自身の内から湧き上がる不思議な力のおかげで、少しずつ回復を見せていた。
「あの時の光…本当に、私なの…?」
リョーコはまだ戸惑いを隠せない様子で、自分の掌を見つめている。
「間違いない。君の力が、私たちを救ってくれたんだ」アキトは優しく微笑みかける。
カーラは厳しい表情ながらも、リョーコの力に光明を見出していた。「その力は、星の欠片と関係があるのかもしれない。そして、ゼファーが君を狙った理由も、そこにあるのだろう。だが、今はまず、奪われたペンダントの行方を突き止めなければならない」
彼女の言葉に、一同の表情が引き締まる。守護者のペンダント――アキトのもの、そしてガルム将軍のもの。少なくとも二つが敵の手に渡っている。
「リョーコ、囚われていた時、何か気付いたことや耳にしたことはないか? どんな些細なことでもいい」カーラが尋ねる。
リョーコは記憶を辿るように目を閉じた。
「私は、砦の塔の一室に…時折、ローブ姿の男たちが見回りに来て…彼らは私自身よりも、私がアキトと一緒にいたこと、そしてアキトが持っていたペンダントのことを気にしていたようでした」
彼女はそこで一度言葉を切り、何かを思い出したように顔を上げた。
「そうだ…一度だけ、見張りの男たちが話しているのを耳にしました。『ゼファー様は“異邦人の小僧の石”を手に入れた。これで“将軍の石”と合わせて、あの方の長年の悲願が…』と。そして、もう一人が『いや、宰相閣下も“将軍の石”を“大いなる儀式”に使うとお喜びだ。ゼファー様がそれをどう思われているか…』と心配そうに…」
「将軍の石…それは父上のペンダントのことか!」カーラが声を上げる。「そして、異邦人の小僧の石とは、アキト殿のペンダント…。やはりゼファーが持っているのか」
キールが続ける。「リョーコの話からすると、火鉄団はアキトのペンダントを手に入れ、師匠のペンダントも所持している。だが、ゼファーもガイウスもそれぞれのペンダントの使い道について、必ずしも一枚岩ではないようだ」
アキトも頷く。「僕が砦で捕らえられていた時、ガイウス宰相が『ゾラスを復活させる』と言っていました。そのためにペンダントが必要だ、と。それが“大いなる儀式”のことかもしれません」
カーラは、以前からの調査結果と照らし合わせるように思考を巡らせた。「ガイウスが“大いなる儀式”とやらで父のペンダントを使うつもりなら、それは厳重に保管されているはずだ。彼の権力を考えれば、最も安全な場所…それは、アイゼンブルク城内にある宰相の私的区画、あるいは彼の私邸だろう」
シエルが口を開く。「砦から脱出する際、火鉄団の部隊長がいた部屋で、燃えさしの中にあった羊皮紙の断片をシルフが見つけたんだ。持ち帰って見てみたけど、大部分が焼けていて…でも、一部だけ読み取れる文字があった」
彼は懐から焦げた羊皮紙の欠片を取り出した。そこには、かすかに「…宰相閣下…聖域…月の満ちる…」という言葉と、何かの紋章の一部が描かれていた。
「聖域…月の満ちる…」カーラはその言葉を繰り返す。「アイゼンブルク城の地下には、古の時代に使われていたとされる祭祀場跡があるという記録を読んだことがある。ごく一部の者しかその存在を知らないはずだが…ガイウスなら、そこを『聖域』として利用している可能性がある」
彼女はキールが見つけてきたアイゼンブルク城の古地図と、羊皮紙の紋章を照らし合わせる。
「この紋章…間違いない、王家以前にこの地を治めていた古い貴族のもので、その貴族が管理していた祭祀場が、現在の城の地下深くに位置しているはずだ!」
ついに、守護者のペンダントの在り処が、絞り込まれた。宰相ガイウスが管理する、アイゼンブルク城地下の古の祭祀場。ゾラス復活という不吉な言葉と結びつくその場所は、想像を絶する危険地帯であることは間違いない。
「まずはガイウスが持つペンダントを奪還し、彼の計画を阻止する」カーラは決然とした表情で仲間たちを見渡した。「父のペンダントを取り戻す。そして、ガイウスの野望の全容を暴く。これは危険な賭けになるだろう。だが、やるしかない」
アキトも強く頷いた。「はい。リョーコを助けられたのも、皆さんの力があったからです。今度は僕が、ペンダントを取り戻すために全力を尽くします」
キール、シエルも無言で頷き、その瞳には覚悟の色が浮かんでいた。リョーコもまた、まだ本調子ではないものの、仲間たちの決意に勇気づけられ、自分にできることをしようと固く心に誓う。
アイゼンブルク城地下祭祀場――次なる戦いの舞台は定まった。一行は、束の間の休息を終え、鉄王国の心臓部とも言える敵の本拠地への潜入、あるいは強襲という、無謀とも思える作戦の準備に取り掛かるのだった。




