第84話 私達と来てくれないか?
彼女..キジコは私と同じく神獣候補という運命に振り回された。今じゃ有名な事件だ、神獣候補キジコを我欲と愚かな幻想のためにその命を狙った組織があった事。
あれ以降各地で残党が次々と逮捕されており、中には権力を持った貴族もいたという。そして奴らが残した爪跡も大きい。
奴らの手によって失われた命は多く、今もその心の傷を負った罪のない民がいる。
彼らはが失った家族や友人の大半は、異教徒という扱いで奴らに殺されていたという。
そして一番の被害を受けたのは間違いなく彼女なのだ。
その存在を確認出来た上で一番古い情報が出たはヴィールという町だ。
当時魔物だった彼女を抱えた帝国兵を見たというのをある時住民から聞いた。
そこから色々調べると彼女は短期間で何度も襲撃に遭い、心から安息のある日々を送ってるようにも思えないのだ。
中には神聖な地をキジコから守るという名目で破壊した愚かな集団までいたという。
さらには黒幕の手によりある仲間を失ったそうだ。
...正直、私達が少しでもキジコ達の事を知り、守ってあげていたらこうならなかったのかなと後悔している。
けど彼女はいつも諦めていなかった。
いつも壁が立ち塞がるとぶち破っていた。
詳しい目的はわからない。
でも、前に進んでいた。
私は...彼女に興味が湧いた。
神獣候補だからという理由ではなく、
一人の人間として、強く興味を抱いた。
それからすぐ、彼女が所属する町のギルドへ直接の依頼という形で彼女へ手紙を送った。
色々試したい事があるからお礼無しってわけにもいかない。
そして彼女と手を合わせて核心した、
彼女は...私が思っていた以上に人間だ。
話してわかった、
彼女は想像以上に仲間をとても大切に思っている。
初対面の私や人達にも気を使う一面があった。
そして、私の悪い癖をなんとも思わないどころか自身も悪い所あると、弱さを見せた。
彼女は私とは反対だった。
戦ってわかった、
私は個体スキルが1つしか無い。
自身の能力を最大限に活用して、自身に合ったスタイルで技を使える能力、[ニコ]。
一言で言えば[こだわり]。
私が私という存在であり続ける象徴、私にとっての生き様のような何かなのだ。
けど彼女は逆だった。
多いのだ。
彼女の能力はあまりにも多い。
まず種族スキルのレベルがそもそも高い。
気配の察知力や空間把握力が予想以上に長けていた。猫の魔物はそういった感覚が強いと聞くが覚醒するとまさかこれほどとは。
だが空間把握力があると言うことは、それに関する技術もあることだ。
見た事がない技だった、私のニコストームが簡単に壊されたのだ。ルームバースト...あれはなんだったんだ?
それだけじゃない、あのレーザーの雨。
あんなのまともに喰らえばやばかった。
それに、私の横薙ぎを受け止めた。
感じた限りだが、魔力で力ずくで止めたわけではない、技術的な動きで止めたんだと。
はっきり言って彼女は[大樹]と例える。
なんというか、可能性の限りがない。
可能性が無数に枝分かれしている。
言ってしまえば可能性の中にあるのは暴走の危険性。
欲望の塊。
底なしの危機。
無限の恐怖。
終わりなき道。
けど、彼女はなんというか...そういうのじゃない。
どう例えたらいいのかわからないけど、大丈夫だと思う。
これ自体は所詮推論だけど...キジコは信じていい人だって思った。
...なら答えは決まった。
どんな展開なるかわからないけど今出せる答えはただ一つ。
「私達と来てくれないか?」
「断る。」
「...え?」
ーーーーーーーーーー
キジコです。
突然ですがスカウトされました。
無論断りました。
せっかく良い物件手に入ったっていうのに早速手放すやつがいるかっての。
「な..なんでだ!?インヴァシオン派はエデルを狙い始めたのだぞ!?それに神獣候補である以上君は特に狙われる。私達の国パースなら守れる!」
「...ニコさんを見る限りいい町だっていうのはわかる。でもさ、私今改修する予定あるけどいい物件手に入れたからさ。」
「物件!?え...保護とかは受けていないの!?」
「ああ、そういうの柄じゃないんだ。そっちも同じだろ?誰かになんとかしてもらうんじゃなくて自分で動いてなんとかする。そういうの。」
「...!!」
「ニコさんがどんな人生歩んできたのかはわからないけど、私は神獣候補になってからも自分の目的のためにずっと自分から動いている。確かに私を狙ったりするやつもいたり辛い事もあったけどさ、今が楽しいんだ。
私は今のままで大丈夫だ、頼りになる[家族]がいるからね!」
「...そうか。余計な事を聞いてすまなかった。」
「いや、完全にそういうわけではない。朱斗!!」
「へ?」
シュンッ...
「ほい、持ってきたぞ。」
突然現れた朱斗。その手には何やら紙がある。
パラッ...
「エデル大統領、桃花様の代行でここへ参った。」
「大統領!?」
「ああ、その代行な代行。
えーと...パース、ニコ派代表ニコ殿へ。
このような形でこの内容を伝える事誠に申し訳ありません。私は中立国家エデルの大統領を務めます桃花と申します。キジコ様から今回の事を聞きまして、日々勢力を拡大するインヴァシオン派に対抗するべく、我々はニコ殿らパースと同盟を組む事をお願いし申し上げます。
どうか、多くの民の命と平穏を守るためにこの結びを認めてもらいたい。
...以上だ。」
「ど...どど...同盟!!」
タッタッタッタ...
「すまない、政治関係は俺の方がまだ出来るからすまないが俺から話して構わないか?」
ニコがショートした事にいち早く気づき、焦って走ってきたジン。
「ああ、ニコ殿の反応見る限り問題ない。」
「...同盟の提案。こちらからもよろしくお願いします。今ニコ派はインヴァシオン派に対抗するべく、侵略された土地やまだ被害に遭っていない領域に協力要請などをしているが、中立最大国家からの同盟案はもらった側である我々からも感謝の言葉しかない!!どうか、お願いします!!」
「...決まりだな。では2日後、正式な同盟を結ぶべく桃花様と我々何人かがそちらパースへ向かう。それでいいな?」
「は...はい!!」
「お嬢、お嬢...!!」
「大丈夫..起きてる...でもビックリすぎて...。」
「はぁ...息吸って...吐いて。」
「...よし。ごめんねジン。...では、我々も2日後の同盟式に向け体制を整えておく。キジコ、今日はありがとね。」
「こちらこそありがとう。気をつけてね。」
「キジコ様、今回は依頼という形で呼び出した事申し訳ありません。依頼金は我々から直接渡します、どうぞお受け取りください。」
50G手に入れた!!
「ご...50も貰っちゃった...。」
「はは、我々としてもそれでも安く感じます。増額致しましょうか?」
「いえいえいえいえ、十分、じゅーぶんです!!」
ちょっと申し訳なく感じるキジコ。
「では、我々は国へ戻ります。」
「ああ、気をつけてな。」
ニコ派獣人達はパースへと帰って行った。
ーーーーーーーーーー
「朱斗、2日後の同盟式なんだけどさ。」
「ん?」
「パースって結構新しい国だからさ、もしかして向こうまでの転移できる人いないんじゃないの?」
「大当たりだ。」
「...護衛、私達に要請するつもりなのでは?」
「大当たりだ。」
...こりゃこっちも2日後に向け体力など整えておかなければ。
明日はギルド依頼お休みだな。
「さて、お前らこっち来い。転移で送ってやる。」
「そうか、苦労をかけるね...後ろの転移役の従業員さんに。」
「...。」




