第54話 趣味vs悪趣味 後編
「魔砲発動、チャージ開始。」
私の役目は邪精霊が出すタイミングまでにこの技の威力を最大限にチャージする事。この作戦は精霊力と膨大な魔力が必要らしく、その上でタイミングが重要なのだとか。
『気を引き締めろ!細かい動きがおかしくなり始めている!』
邪精霊がミルカーナさんを安全に救えるタイムリミットは20分と言っていた。しかしディストルは現在暴走し始めているゆえこの時間がさらに縮まる可能性はある。
「なんとしてもこの技を....!」
キジコの前には高濃度の魔力が集まっている。この時点でも並以上の人間を粉砕可能だがこの作戦においてはまだ足りない。
「キ..キジコ様、一体その技は...?」
「ごめん静かにして!下手に意識散らすと暴発してみんな吹っ飛ぶぞ!!」
「ヒィッ...了解..。」
私が発動しようとしているのは魔砲撃と魔砲弾の融合技であると同時にそれをさらに無理して強化した技。それゆえドジすれば大爆発してしまうのである。
正直言ってめっちゃ怖い。
バキッ ドカッ ドゴォッ!!
『ハァ..不安定な状態だって言うのにまだこんな強いってのかよ...。』
「ア...ア゛...!」
ディストルと激戦している邪精霊。流石の彼も長時間の戦闘で疲労が現れ始め、少し焦っている。
(ダメだ...予想していた時間が早まっている...どんだけ不安定要素組み込んだあの変態狂気野郎...。)
『...一か八か...はああ!!』
邪精霊は魔力を溜め始める。
『この攻撃に賭ける..アーダテルク・フィスト!!』
「ガアア゛ァァ!!?」
邪精霊の拳から放出される魔力波動がディストルに大きなダメージを与えた。
「ア...ア...。」
『ど...どうだ...効いたか...!?』
「....ゲテ...。」
『!!』
「オネ...ア゛イ...ニゲテ....!!」
『今だレリィ!!!』
『我が加護を受けし者よ、その姿を現せ。』
ディストルの胸から光が見え始める。
『傷つき魂よ、今その器から解き放つ。』
「ア゛あぁアア゛ァアアア!!!」
ディストルは苦しみ始め、光を中心にヒビが入る。その光は輝きを増しヒビから溢れる。
『あるべき姿へ戻るがよい、精霊術..リトゥン。』
その瞬間、光の球体がディストルから飛び出す。...ミルカーナさんの魂だ。その光はミーシャの元へ行く。
「精霊さん。」
『わかった。』
その瞬間、ミーシャが光に包まれた。
ーーーーーーーーーー
「...ここは..どこ?」
そこはどこかの暗闇。
私は..何を...?
...ずっと暗闇にいた気がする。長い時を..ずっと。
...そうだ。私は...十数年前、帝国で買い物をしていた時..拐われた。
その男はどこかへ連れ去るなり私の体を..切り刻んだ。そしてまたくっつけた。
くっついた腕や足は日が経つと共に形を変えた。ある日はトカゲのような鱗、ある日は動物の毛、そしてある日は...朽ちた。そしてなぜか再生した。
痛覚は数日経った所で失った。なのに痛みは消えなかった。
ある時は意識が飛んだ。
気がつけば目の前には魔物の死体が沢山転がっていた。私の体は魔物の血で染まっていた。
(すごい...すごいよディストル様ぁあー!これが悪魔之操人形!!!)
あの男が何を言っていたのか分からなかった。
私もなぜこうなったかわからなかった。そして何も感じなかった。
ある時は魔物を殺した。
ある時は体の色が変わった。
ある時は目が4つに増えていた。
ある時は気づけば体が大きくなっていた。
ある時は...何も思い出せなくなっていた。
そしてある時は...ミーシャを傷つけた。
...ミーシャ?誰だったかしら、でも暗い空間にいた時はなにかを思い出していたような気がする。
なんでだったかしら。...宝物のように思えてた気がする。
そう..私の大切な宝物を...壊そうとした。
壊そうとした....私の宝物...私の娘を..私がミーシャを...傷つけた!!
そうだ...思い出した...。
私の宝物、大事な娘...ミーシャ...!!
ーーーーー
その瞬間、暗闇が晴れ草原が広がった。
「もう泣かないで。」
どこかで聞いた声
「...やっと会えたね、お母さん。」
「え...?」
振り返るとそこにいたのは...、たとえ長い時が経ち、すっかり成長していようがわからないはずがない、大切なあの子。
「...あ..ああ!!..ミー..シャ。..ミーシャ..なの!?」
「...遅くなってごめんなさい...お母さん!」
母親に駆け寄り、涙を流すミーシャ。
その姿を見て、ミーシャを抱きしめ崩れ落ちるミルカーナ。
「...!ダメ...私は..あなたを傷つけたのよ...貴方を...ずっと寂しい思いに...させたのよ...。」
ミルカーナはミーシャから慌てて離れようとした。だがミーシャは離さない。
「もう離れないで...。ずっと心配した、ずっと探した、ずっと寂しかった、ずっと悲しかった、ずっと怖かった、....ずっと会いたかった。」
「...!!」
ずっと探していた母を見つけたミーシャは子供のように泣いていた。
ずっと人形だった母親は娘に迷惑をかけてしまった事への罪悪感で泣いていた。
「...貴方を傷つけたのに..こんな私を...?」
「お母さんは何も悪い事はしていない!!だから..また...一緒に暮らして...一緒にいて...お願いだから...私とお父さんを...置いていかないで....!」
「!!」
娘の口から出たのは、家族でまた一緒に暮らしたいという気持ち。
罪悪感に囚われていたミルカーナはその言葉を聞き...ミーシャを強く抱きしめた。
「ごめんなさい...ごめんなさい...!」
「...家に帰ろ、お母さん。お父さんが待ってる。」
辺りが光に包まれた。
ーーーーーーーーーー
ミーシャとミルカーナさんの魂が光に包まれた。
これでミルカーナさんは助かったな、良かった良か............
...待てよ?だとしたら私の役目って..
『ボサっとするな化け物を撃て!!』
「後処理じゃねかああああああああ!!!」
ミルカーナさんの魂を抜かれたディストルは膨大な魔力が制御出来ず今にも爆発しそうな状態だ。素体が居なくなって形状維持すらできなくなり始めていた。
だああ最初からそう言う事かよおお!!
「覚えてやがれ..、これが私の今の最大出力で最大の技で最大威力の趣味再現...!
極限魔力大砲撃!!!!」
地面を抉り出すほど大きく膨大な威力の魔砲はディストルを飲み込み、向こう空の彼方へ光となって消滅した。
『おっ疲れさん。』
「お...覚えてやがれこの悪魔めが...。」
『邪精霊ですけど何か?』
「物体転移。」
『痛゛ぇ!?』
頭にそれなりの大きさの石落としたった。
その直後。光の空間の光が収まり始める。
そこには少し褐色の肌、長い耳、種族的には珍しい金色の髪、白い服の姿のダークエルフの女性。
...良かった。
「...良かった...ああああもう!疲れたわ畜生!!!」
「うるさいわよゼオ、ミルカーナさん起きちゃうよ。」
「ゼオが疲れても元気なのはいつも通りだろ。」
「いつもっすね。」
「そうか?」
「...フフッ!」
「ようやく...助ける事が出来たね、ミーシャ。」
...良かった。まさか帝国へ向かうだけでこんな事になるなんて...。帰ったらしばらく森で引き込んでもいようかな。いやそれだと約束の海水浴が出来んな。いやーやる事多くて大変だわこの世界。
『ミルカーナ...おかえり。』
その精霊の声は震えていた。
「...帝国..すっかりボロボロだね。」
「大丈夫ですよ、きっとすぐ再建します。」
「残念ながらそうはいきません。」
「え?」
ズドオオッ
「!?」
何かが横の瓦礫に飛んできた。
それは...血に塗れた青い鱗の魔物。...え?
「ル ...ルザーナ!!!!」
それは斬傷と血だらけのルザーナだった。
「まさか[ドッペルゴーレム]が負けてしまうなんてね。あれ一個しか開発出来てなかったのに。おまけに邪精霊は裏切るし、ディストル様は消し飛ばされてしまうなんて。...本当に予想外だ、どこまで不快にさせてくれるんだよ屑どもが。」
そこにいたのは、ロティアートだった。




