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弾丸vs拳

 村の門番は警備隊を見送ると持っていた木の棒に体を預けた。

 この木の棒で怪しい者が現れれば戦う事もある。だが、基本は戦わない。

 危険な場合はさっさと門を閉めてしまえば良いからだ。


 だから森から奴等が現れた時、門番は急いで門を閉じようとした。


 森から現れたのはアルマジロに似た鎧を纏う猪、アーマー・ボアの群れだった。


 丸まる事は無いが、その固い鎧と突進力は侮れない。下手な剣や矢は弾かれるし、大きいものだと煉瓦造りの塀も壊してしまう。


 それはまるで大きな弾丸のように。


 村の門は木製。特別大きな奴は居なかったが数が多い。少なく見積もっても十頭以上は居た。

 門番は門を閉めても防ぎきれないと思った。閉めるのを諦め、逃げようとも。


 その時、アーマー・ボアの群れの前に一人の男が立ち塞がった。


 あまりの無謀な行動に門番は息を飲む。


 だがその男、一矢は先頭のアーマー・ボアを殴り飛ばした。

 殴られたアーマー・ボアは後ろを走っていた奴を巻き込んで、吹き飛んで行く。


 驚いてアーマー・ボア達が立ち止まった。その隙に一矢は続けざまに殴り飛ばしていく。


 横から一頭のアーマー・ボアが一矢に突っ込んでくる。それもかわして殴り飛ばした。


 門番はあまりの事に、門を閉めるのも忘れて見いってしまっていた。


 そして、アーマー・ボアが一矢から離れると、両者はの睨み合う。


 一矢の強さに警戒するアーマー・ボア。相手の数が多すぎて下手に動けない一矢。


『どうにか戦わずに退けられないか……』


 一矢は考え、大声で叫んでみた。


「うらああぁぁーーーッ!」


 それは意外にも効果があった。

 後退る奴もいれば、背を向けて群れの後ろに隠れる奴もいる。


『これはイケるかも』


 一矢はもう一度威嚇してみようと息を吸い込んだ時、群れの向こうから別の奴が現れた。


 大きな猿のような姿で、本当の鎧と兜を身に付けている。


 そいつが何度か吠えるとアーマー・ボアの群れは一矢の方に向き直り、前足で地面を掻き始める。


 タイミングを逃したが、もう一度一矢も吠える。


「うがああぁーーーッ!」


 今度は一矢が威嚇しても全く意にかえさなかった。


『あれ? ……チョットヤバイかも』


 群れはまた突進を始めた。しかも今度は横に広がって突っ込んでくる。


『それはヤバいッ!』


 横に広がられると、一矢の手が届かなくなってしまう。

 一矢は取り敢えず目の前に突っ込んできた奴を殴り飛ばした。


 だが他のアーマー・ボア達が一矢の横をどんどん通り過ぎて行く。


「く、くそーーっ!」


 一矢は他のアーマー・ボアを追いかけ、手の届く奴から片っ端に殴った。


 数は減ったものの、やはり全ては止められない。

 門番が慌てて門を閉めようとしているのが見える。


 その時遠くから何かが飛んできた。


 一頭のアーマー・ボアの目にナイフが突き刺さった。

 ナイフが刺さったボアが暴れて他のボアにぶつかる。


 そして混乱から抜け出した一頭のアーマー・ボアに向かってナイフが飛んでくる。

 ナイフはこめかみ部分に当たるも、アーマー・ボアの固い鎧に弾かれた。


 もう村の目の前まで迫っている。門番は腰を抜かして、その場に座り込んでいる。


 そんなアーマー・ボアの体を閃光が貫いた。


 閃光の正体は槍。アーマー・ボアの鎧を貫き、そのまま地面へと縫い付けた。


 警備隊とエイミーが門の前に立ちはだかった。


「一気に片付けるぞ!」


 槍を引き抜くベティーナの呼び掛けに隊員達は答え、それぞれがアーマー・ボアに斬りかかる。


 アーマー・ボアの鎧も鋼の武器を前には無力だった。


 アーマー・ボア達が逃げていくと隊員達から歓喜の声が上がった。

 その中でもベティーナは冷静に指示を出す。


「副隊長。何人か引き連れ、魔族追撃に当たれ」

「はい、了解です」


 呼ばれた男は何人かの隊員を引き連れ、アーマー・ボア達が逃げて行った森へと入っていく。


「一矢殿、今回は貴方のお陰で助かりました。ありがとうございます」

「いえ、私一人の力じゃありません。貴女への愛の力です!」


 一矢はベティーナの手を握る。


「……私の力も忘れないでよね」


 ベティーナは一矢に握られた手を何とか引き抜き、エイミーに向き直る。


「お連れの方も良く知らせて下さいました。それにしても見事なナイフ捌きですね」

「親には良く『もっと女らしく』と叱られました」


 ベティーナとエイミーは笑い会う。だがすぐにベティーナはまた真剣な顔に戻った。


「しかし、アーマー・ボアが我々が出払った隙をつくとは……」

「そうね。陽動作戦なんて、そんな知能あるハズ無いわね」

「そう言えば、猪の他に猿みたいのが居たぞ」

「えっ?」


 一矢の発言に二人が同時に振り向く。一矢はそんな二人の反応に驚きを隠せなかった。


「ロキズ・エイプか! ……しまった!」


 ベティーナは驚きの中にも悔しさをにじませた。


「そいつはヤバい魔族なのか?」


 一矢の問いに答えたのはエイミーだった。


「魔族じゃないわ。魔獣よ! さっきのアーマー・ボアもそう。タダの獣だけど、その魔力で様々な特性を得ているの。お陰で厄介な奴等ばかりよ」

「すまないが、お二人の力をもう少しお借り出来ないだろうか?」


 ベティーナの申し出に一矢は頷いてこたえる。


「貸しましょう! もう少しと言わず一生添い遂げましょう!」


 一矢はベティーナの手を握ろうとし、エイミーがそれをはたき落とす。


「どさくさに紛れてッ! 隊長さん、悪い事は言いません。コイツだけはやめた方が良いですよ」

「はぁ……。しかし一矢さんと貴女の力は王都の精鋭隊達に勝るとも劣らない」


 是非宜しくお願いしますとベティーナは頭を下げた。

 一矢はニヤリと笑い、エイミーを見た。エイミーはそんな一矢にため息をついた。


「実はここから南にある町でロキズ・エイプが現れて、我々が派遣されました。無事撃退はしたんですがこの村にも魔族が現れたと聞いてやって来たんです」

「奴等は魔族じゃないにしろ、狡猾で他の魔獣を利用する事もあるから。きっと私達を陽動したのもロキズ・エイプの仕業ね」


 考え込むエイミーにベティーナは少し聞いてみたくなった。


「失礼ですが、魔族も魔獣も大差無いように思うのですが? 警備隊でも特に区別は……」

「違います! 魔獣は所詮けもの! それは人間と猿が一緒と言っている様なものです!」


 エイミーの語気が荒くなる。


「そ、そうなんですか。貴女は随分魔族や魔獣に詳しいんですね」

「あぁ、それはコイツが魔……」


 慌てて一矢の口をエイミーは塞いだ。


「魔族とかに詳しいんです。親が! 森育ちなもので……」

「そうでしたか。勉強になります」


 エイミーの言い訳に、ベティーナは感心したように頷く。


「それよりも今回の件、ロキズ・エイプが絡んでいるならその隣町も危険なんじゃない?」

「そうなんです! ですので是非お二人にも急ぎ同行をお願いしたいのです!」

「勿論、ベティの頼みを断れるわけ無いじゃないか。ここで断るだなんて、そんな魔族みたいな事をねぇ? 出来ないよね~、エイミー?」

「そ、そうですね~」


 エイミーは一矢の笑みに苛立ちを覚えながらも、ベティーナを見捨てる気にはなれなかった。


 そして警備隊と共に一矢達は隣町へと馬を走らせる。

 馬車は後で警備隊の人達が運んで来てくれるらしい。


 ちなみに一矢はベティーナの後ろに乗り、しっかりとしがみついていた。


「あぁ、良い匂いがする。これで鎧さえ着ていなければ……」

「あんた! 時と場合を考えなさいよ!」

「ん? 何か言われたか?」


 兜をかぶっているベティーナには聞こえなかったようだが、一矢達の隣を走るエイミーには届いていた。


「隊長! 見て下さい。町の方から煙が!」


 警備隊員の一人が空を指差す。その先には一筋の白い煙が見えた。


「マズイ! 急ぐぞ!」


 ベティーナ達はスピードを上げて町へと急いだ。

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