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貴女の味方です!

 一矢達の馬車と商人のロバが並んで街道を更に西へと進む。


「いやぁ、兄ちゃん達が一緒なら安心だよ。せっかく仕入れた荷物を盗られたんじゃ、商売あがったりだからな」

「あの盗賊団には盗られなかったんですか?」


 エイミーが聞くと商人は笑った。


「奴等はコレが何か分からんかったみたいだな。油で揚げると美味いと言ったら信じたよ」


 そう言うと商人は自分の荷物から何かを一掴み取り出して見せた。


「……何コレ?」


 一矢にはただの草にしか見えなかったが、エイミーはあっと声をあげた。


「コレ、もしかして薬草ですか?」

「おっ、姉ちゃんよく知ってるなぁ。こいつは傷薬の原料。他にも毒消しや鎮痛剤の原料もある」

「へ~。じゃあ、おっちゃんは薬屋?」


 一矢は興味深げに袋の中を覗き込む。


「いいや、卸の業者だ。木材や鉄材も仕入れる事もあるが、今回はコレってワケだ」


 商人は大事そうに薬草を袋に戻した。


 その時、遠くから獣の遠吠えが聞こえてくる。

 商人は心配そうに辺りを見渡した。


「実は町の近くに魔族が現れてな。警備隊が来てくれているが、まぁ皆怖がるわ。それで薬を買う人が増えているんだよ」

「魔族ですか! ちょうど良い。もう一丁俺の力を見せてやりますかね」

「そいつは頼もしい。……だがな、先に言っとくぞ」


 ずいっと商人は顔を近付ける。


「……ワシに娘は居ないからな」


 そう言って商人は豪快に笑った。


「笑って貰って結構! 俺は最高のハーレムを作るまで諦めないんだ!」

「諦めなさい! 今すぐッ!」


 エイミーのツッコミを一矢と商人は笑い飛ばした。


「ハッハッハッ、ワシも若い頃はハーレムを作ってやろうと思ってたよ。懐かしいな」

「あんたもかい! 男はバカばっかりなわけ?」

「ワシに出来る事があったら言ってくれ! 兄ちゃんは男の夢を目指す最後のチャレンジャーだ。応援するぞ!」

「ありがとうございます!」


 一矢と商人はガッチリ握手をする。


「……バカばかりのようね」


 一矢と商人が互いのハーレム論を語り合ってる内に、次の村が見えてきた。


 今までの村に比べ、更に規模は大きく、村全体を木の塀がぐるりと囲んでいた。


 一矢達が村に着くと、門の所で兵士や村人達が何やら話し合っている。

 その中の一人が商人に気付いた。


「あぁ、卸屋の。無事だったかい。さっき警備隊の人達が魔族を見付けたんだって、これから退治しに行くってよ」

「それは良い! 俺も手伝います」


 一矢は馬車から飛び降りた。


「君は?」

「旅の者です。以前魔族の盗賊団を壊滅させました。力になれると思います」


 それを聞いて兵士の一人が顔を綻ばした。


「そうか! 助かるよ。今隊長が協力者を探しに行ってるんだ。少し待って貰えるか」

「良いですよ。もし魔族を倒したら謝礼って貰えますよね?」

「……悪いがそう言うのはやってない。募集しているのは有志で協力してくれる方だけなんだ」

「じゃあお任せしま~す。オツで~す」


 そう言うと一矢はまた馬車に乗り込んだ。そんな一矢にエイミーは驚いた。


「チョット! 手伝うんじゃなかったの?」

「何言ってんの? タダ働きするわけないじゃん。せめてギャルのパンティ位は貰わないと」

「……安定の変態ね」


 エイミーは呆れ、兵士の表情は固い。この兵士は民間人に対し、不快を露にしないだけの礼節を知っていた。


「……こちらも無理にとは言わない。危険な任務だからな」

「それじゃ、勝利の栄光を君に!」


 一矢は笑顔で敬礼する。


『私だったら殴ってるな』


 そう思いながらエイミーは警備隊の横を通り過ぎ、村へと入ろうとした。


「みんな、待たせたな」


 その時、門の中から銀色に輝く鎧を纏った女性がやって来た。


 端正な顔付きで金色のロングヘアーをなびかせている。

 その歩き姿は凛としており気品を感じさせた。


「隊長、どうでしたか?」


 兵士の問いかけに隊長は首を横に振った。


「残念ながら誰も……。私達だけでやろう」

「安心して下さい。僕だけは貴女の味方ですよ」


 いつの間にやら馬車を降りていた一矢が隊長の手を握っていた。


「えっと……あなたは?」

「名乗るほどではありませんが、異世界から来た謎の旅人、一矢と言います!」


『名乗ってんじゃん!!』


 エイミーは頭が痛くなってきた。


「私は王国警備隊隊長のベティーナ・ルアルディと申します。もしや今回の魔族討伐に御助力頂けるのですか?」

「ベティ、私は困ってる方を見過ごせないのです。微力ながら力にならせて下さい」

「おぉ。そうでしたか! かたじけない」


 ベティーナは嬉しそうに一矢の手を握り返している。

 それに引き換え、他の警備隊員からは疑いの眼差しを向けられる。


 先程、報酬が無いとあっさり断ったのだから仕方がない。


「実は魔族の影は有るのだが、その魔族自体を見付けられずに困っていたのだ。少しでも人の目を増やせればと思っていたのです」

「お任せ下さい。見付けるのは得意なんです。なっ?」


 エイミーは一矢に笑顔を向けられて嫌な予感がしてならなかった。


「それじゃあな、兄ちゃん。何か入り用が有ったら言ってくれ」


 商人のおっちゃんは一矢達に手を振り、去って行く。

 一矢とエイミーも馬車を村の隅に置かせてもらうと、警備隊に合流した。


「町の北側に多く魔族がいた形跡がある。今回はそちらを重点的に捜索していきます」


 警備隊は村から北側の森を散開して進んでいく。その中を一矢とエイミーは少し離れてついていく。


「なぁ、エイミーなら飛んで魔族を探せるだろ?」


『やっぱりか』


 エイミーは露骨に嫌な顔をした。


「嫌よ、アイツ等に私も魔族だってバレるじゃない」

「大丈夫だよ。見えない所で変身すれば良いだろ?」


 エイミーはチラリと警備隊の様子を伺う。

 兵達は前方ばかり目を凝らし、少し遅れて気味の一矢達には目もくれない。


「……仕方無いわね、でも私は戦わないわよ? 私だって魔族なんだから」


 そう言うとエイミーは振り袖をはためかせる。すると袖が羽に、着物が羽毛にと変わった。


 エイミーが飛び立っても警備隊が気付いた様子はなかった。


 エイミーは警備隊に気付かれないように出来るだけ空高く飛んで森を探索する。


 そして森の中、木々の隙間に動く集団を見付けた。


「マズイわね」


 エイミーは呟くと一矢の元へと向かった。


 その頃一矢は警備隊員達の方へ向かっていた。せっかくだからもっとベティーナとお近づきになろうと思っていたのだ。


 そんな一矢に隊員の一人が気付いた。


「おい、旅人! もっと散開しろ! 何のために協力を依頼してると思ってんだ!」


「大丈夫、こっちの事は気にしないで。ちゃんと探してるから、エイミーが。それよりベティはどっちに居るかな?」

「貴様ッ! 隊長に馴れ馴れしいぞ! もし隊長に変なちょっかい出したら、タダじゃおかんぞ!」

「そう固い事言うなよ~。チョットお話するだけじゃん」

「……良いか。邪な理由で今回の作戦に参加したのなら、我々警備隊全員を敵に回すと思え」

「……魔族探してきまーす」


 一矢はまた警備隊から距離を置こうと向きを変えるとエイミーが人間の姿で走って来るのが見えた。


「チョット、何してんのよ!」

「……いや、ベティを探しに」

「何がベティよ! 警備隊の近くには降りれないんだから、気を使いなさいよ!」

「俺の恋を応援してくれる奴は誰も居ないのか!」

「どうせ下心だけでしょうが」

「恋とは下に心と書くから良いんだ!」


 一矢は胸を張って言った。


「完全なる女の敵だからね、あんた。そんな事より見付けたわよ!」

「やるじゃん。それでどこどこ?」

「東側を迂回して村の南側。さっき私達が居た村の入り口の方へ向かっていたわ。急がないと間に合わないわよ」

「何っ? よっしゃあ! 俺の勇姿見せちゃるーーッ!」


 一矢は物凄い勢いで森の中を戻っていく。


「チョット! 警備隊の人達はどうすんのよ」

「お、おい! 旅人! 何処に行くッ?」


 先程話していた隊員が走り去る一矢に気が付いた。そして残されたエイミーを見る。

 エイミーは説明に困った。まさか自分が空から見付けたとは言えない。


「……何か、見付けたみたいですね」


 取り敢えずそれだけ言うと、エイミーは苦笑いを浮かべた。

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