雌雄決しました
それを見た一矢の中で何かが吹っ切れた。
一矢はゆっくりと立ち上がる。
「……これが戦争なんだよな。俺は何勘違いしてたんだ」
一矢はロバートを見ながら悲し気に呟いた。
そして、一矢は真っ直ぐボスを見る。
「お前は殺す」
静かながらも、決意のこもった一矢の言葉にボスはニヤリと笑った。
「ゲームでもしてるつもりだったか? さっさとかかって……」
ボスがそう言いかけた時には既に一矢が目の前に居た。
一矢の右拳とボスの掌底が相手に当たったのは同時。
ボスは五メートル程吹き飛び、ガードした左腕は大きく腫れ上がり、おかしな位置で曲がっていた。
それに比べ、一矢は額の所を切った程度だった。
一矢の渾身の一撃とボスの咄嗟に出した一撃とでは、威力に明らかな差があった。
「一撃でこの威力とは……。噂通りの化物だな」
ボスは砕けた左腕を見ながら呟いた。
一矢とボスはお互い右腕だけで構え直すと、ジリジリと距離を詰める。
一矢よりもリーチはボスの方が長い。
そのボスの間合いまで後一歩の所で、二人は同時に飛び出した。
「うおおおぉぉぉ!」
一矢のフルスイングにボスは飛び退く。
一矢は更に距離を詰める。
「チイィィッ!」
一矢の右拳は何度も空を切るが、ボスも必要以上に飛び退き反撃できずにいた。
ボスは自身の異変に気が付き動揺を隠せなかった。
『お、俺がビビっているだと? 馬鹿な、こんな小さい人間に?』
「そんな訳ねぇ、……そんな訳ねぇだろ!」
がむしゃらに出したボスの爪は一矢に届く事無く、一矢の拳がボスの腹に突き刺さった。
今度地面に転がったのはボスだった。
「ぐあぁぁッ! は、腹が……」
一矢は肩で息をしながらゆっくりとボスに近付く。
「まさか、ここまで追い詰められるとは……。分かったよ。……やってやるぜ!」
ボスは片手を地面につけ身体を起こす。
だが立ち上がらない。
それは今までの構えとは違い、飛びかかる為だけの体勢。
まさに野生の虎そのものだった。
一矢とボスの間に緊張した空気が張り詰める。
ウェアタイガー達もベティーナ達も、決着の行く末を見守る。
一矢も深く腰を落とす。
ボスの全身の毛が逆立つ。
そして、先に動いたのはボスだった。
ボスは一矢の喉笛目掛けて飛び掛かった。
一矢の右拳がボスの顎を下から突き上げると、ボスの巨体が空中で一回転した。
地面に倒れたボスが息絶えたのは、誰の目からも明らかだった。
砦の兵士達が歓声をあげる中で一矢は膝を付き、空気を求めて喘いだ。
ウェアタイガー達は目の前の光景が信じられず呆然とする。
その時、空から良く通る声が聞こえた。
「引きなさい! これ以上無駄に戦うんじゃない!」
ウェアタイガー達の前に一体の魔族が空から降りてきた。
肩まで伸ばして少しウェーブのかかった髪。
胸から足の付け根にかけて羽毛で覆われており、両腕に大きな羽を持っている。
そして、女性特有の曲線のある体。
その魔族は振り返り、人間達にも声高らかに宣言する。
「私はハーピーのエイミー! ここに人間達への停戦を求める!」
一矢はその懐かしい声を聞き、ゆっくりと意識を失った。




