男の園
王都から遠く離れた場所で、反抗作戦部隊は野営地を築いていた。
山岳部や平野地に住む魔族を駆逐し、ここまで進軍したが森林部に到達してからは思うように進まない。
作戦部隊は森の木材を利用して砦を築こうとしていた。
「部隊長殿、お呼びでしょうか?」
一人の兵士が部隊長のテントを訪れる。
「砦の建造作業はどうか?」
「……現在は予定の約三割程度となっております」
「遅い! もっと急がせろ!」
「伐採作業中は防衛魔法で魔族の接近を防いでいるのですが、防衛魔法を使えるものが少ないもので。これ以上のペースでは魔法団員がもちません」
「……今一度、魔族狩りをするか」
「負傷兵が増えた今、あまり得策ではないかと」
部隊長は腕を組んで考え込んでいた。
「失礼します!」
部隊長のテントにもう一人若い兵士がやって来た。
「部隊長殿、東方警備隊本部のベティーナ・ルナルディ殿が面会を求めています」
「おぉ! やっと増援が到着したか! 直ぐに通せ」
「はっ!」
若い兵士は駆け足でテントを後にする。
「東方警備隊とは確か海を越えた先の部隊だったかと」
「あぁ、だが彼女は武芸に秀でたものがある。本部の者でも太刀打ち出来る者は居ないだろう。そうか、わざわざ呼び寄せてくれたのか!」
部隊長は喜びを隠しきれず立ち上がると、ベティーナ達がテントの中へと入ってきた。
「失礼します。大反抗作戦が行われていると聞いて、東方警備隊本部ベティーナ・ルナルディ。馳せ参じました」
「ようこそ、特別反抗作戦本部へ。私が部隊長のロバート・パーマーです。ベティーナ殿、よくぞ来てくれました! ……ところでそのお二方は一体?」
「こちらは旅人の一矢殿と、王宮魔法団へ入団希望のクレア殿です」
「ほう! 魔法団への入団希望者ですか! ……失礼だが防衛魔法は使えますか?」
身を乗り出す勢いのロバートに三人は戸惑いを見せる。
「あ、いや……突然で申し訳ない。現在、防衛魔法を使えるものが少なくてな。クレア殿は如何か?」
「わたしはすいません。『受け』魔法はちょっと……『攻め』魔法専門なんッス」
「う、受け?」
クレアの返答にロバートは聞き返す。慌てて一矢が説明する。
「気にしないで下さい。ここに来て、変なスイッチ入っちゃったみたいで」
「そ、そうですか」
ロバートはチラリとクレアを見る。
「はあぁぁっ、男の園……絶対あの人は『攻め』だ。『ぶ、部隊長駄目です!』『貴様、良いのか? 俺にそんな態度をとって……』……うふふ腐」
ロバートは本能的に目をそらした。
「……と、ところで御二方はもしや義勇兵志願かな?」
「はい。道中、魔族の海賊に襲われた時も御助力頂きました。特に船長の魔族はほとんど御二方で倒されました」
「実戦経験者とは心強い! それで王都からの増援はどれくらいか?」
ベティーナ達は顔を見合わせる。
「……申し訳ありません。我々は港町で本作戦の事を聞いて参りました。王都から来たわけではないのです」
「……そ、そうでしたか」
ロバートはたった三人の増援に落胆を隠せない。
「あまり戦況は宜しくないのですか?」
そんなロバートの様子にベティーナは尋ねる。
「我々の目的はこの地に魔族討伐のために橋頭堡を築く事なのだが、それが遅々として進まない」
ロバートは溜め息をつく。
「現地で木材を調達しているのだが魔族の抵抗が激しく、予定が遅れているのだ」
「それじゃあ今は、木を切り倒してるんですか?」
一矢は声を上げる。
その様子に部隊長は戸惑う。
「まさしくそうなのだが…… 。もしや伐採経験者でいらっしゃいますか?」
「まぁ、経験者と言えば経験者ですね。なっ?」
一矢はクレアの方を見る。
一矢の言わんとしている事に気付いたクレアも大きく頷く。
「はい! 有りッス! そりゃあ沢山薙ぎ倒してやったッス!」
「薙ぎ倒した?」
「成る程! ……部隊長殿、それは私から説明致します」
ベティーナはロキズ・エイプの一件を説明した。
「うむ……にわかには信じ難い話だが。確かにそれなら時間短縮出来そうだ。早速試してみよう。この後の予定はどうなっている?」
ロバートは隣に控える兵士に尋ねた。
「はっ、食事休憩をはさんだ後、伐採作業を再開する予定です」
「ならば再開時には御二人にも参加頂こう。着いた早々で申し訳ないがそれでも宜しいか?」
「大丈夫です。……ただ、すいません。実は俺達も食事がまだで」
一矢は照れ笑いを浮かべながら言う。
「了解した。おい! 誰か居るか! 彼等の分も食事の用意を」
「ヤッターッ!」
喜ぶクレアに一矢は釘を指す。
「良いか、程々にだぞ? 程々に」
「分かってるッスよ~。わたしだって大人になったんスからね」
「本当かよ……」
一矢は不安を感じながら新たに兵士に案内され、部隊長のテントを出ていく。
一矢達がテントを出ていくと兵は部隊長に尋ねた。
「部隊長殿、彼等の話は本当でしょうか。あんな少女がそれ程強力な魔法を使えると言うのも、素手で木を倒すと言うのも、にわかには信じがたいですが」
「だから私も言っただろう。『信じがたい』と。だがベティーナ殿が共に旅をし、それを見たと言うならそれで良い。真に可能であれば作業は進む、出来ぬなら斧を持たせれば良いだけの事」
「部隊長殿がそう仰られるならば……」
「但し、過度の期待は不要だぞ」
「心得ております」
兵は部隊長に敬礼するとテントを出ていった。




