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盗賊団になっちゃいました

 家々から出てきたリザードマン達は食糧品の山の中へ各々が奪ってきた略奪品を加える。

 そして見張りをしていた二体のリザードマン達と話し始めた。


 一矢の耳にも何を騒いでいるんだ的な事が聞こえてくる。


『あぁ、魔族も人間と同じ言葉を話すんだ。すご~い……』


 現実逃避したい一矢は、どうでも良い事ばかり頭に浮かぶ。


 状況を確認したリザードマン達は腰にぶら下げた青竜刀を抜いて一矢に近付いてくる。

 その数七体。他のリザードマンはニヤニヤと事の成り行きを見守っていた。


『ヤバいヤバいヤバい……逃げよう』


 一矢が後ろに向かって走り出すと何かにぶつかって尻餅をつく。

 見上げるとそこには一際大きなリザードマンが立っていた。


「ほう、まだこんな若僧が居たとはな。奴隷商人に売り飛ばすか」


 大きなリザードマンが一矢の襟首を掴んで持ち上げると、仲間の方へ歩き始める。


「親分、そいつが俺達をブッ飛ばすらしいですぜ!」


 リザードマンの一体がそう言った。


「ほう……そうか。だったらブッ飛ばして貰おうか」


 リザードマンの親分は一矢を放り投げる。

 地面に転がる一矢が顔をあげると、他のリザードマンに取り囲まれ、逃げ道は見当たらなかった。


「勘弁して下さい! ブッ飛ばすなんて言うわけありませんよ! あなた様達の様に、立派な魔族様達をブッ飛ばせるわけないじゃないですか!」


 一矢は懇願する様に両手を合わせる。

 そんな一矢を見て、親分は鼻で笑った。


「こいつをブッ飛ばせたら、奴隷商人に売り飛ばさないでやるぞ」


 親分があるリザードマンの肩を叩く。叩かれたリザードマンは嬉しそうに笑った。


「うへぇ、絶対無理だな」

「親分も人が悪い。ウチのナンバー・ツーじゃないですか!」

「ヤッちまえーーー!!」


 周りのリザードマン達から歓声が上がった。

 ナンバー・ツーは細長い舌をチロリと出しながら自分の青竜刀を抜く。

 一矢の表情は恐怖で固まった。


「楽しませろよ小僧。生き残れば楽しい奴隷生活が待ってるぞ」


 ナンバー・ツーはそう言うと、青竜刀を肩に担いで一矢に近付いてきた。

 一矢はアワアワと這って逃げるが、周りを囲んでいるリザードマン達に捕まって、無理矢理立たされた。


「ほら、遊んでもらえ!」


 リザードマンの一体がそう言うと一矢を突き飛ばした。


 一矢が突き飛ばされた先に、ナンバー・ツーの青竜刀は降り下ろされた。

 バランスを崩しながらも一矢は何とかそれをかわす。

 次々と青竜刀が降り下ろされるも一矢はかわし続ける。


「やれー! ブッ殺せ! 手加減するな!」


 囲んでいる魔リザードマン達が囃し立てる。

 そんな中、親分は冷静に観察していた。


 ナンバー・ツーは手加減している訳では無い。それが親分には分かっていた。

 その証拠に、ナンバー・ツーの息が上がり始めている。


『あの若僧、太刀筋を見切ってやがんな』


 確かに一矢は太刀筋が見えていた。それでも大蛇と違って、拳と青竜刀のリーチ差がある。

 リーチの短い分、一矢の拳は踏み込まなければ届かない。

 その一歩を踏み出す勇気が、一矢には無かった。


「コイツ……ハァ……チョコマカ逃げやがって!……ゼェ」


 ナンバー・ツーは青竜刀を振り回すのをやめると、青竜刀の切っ先を一矢に向ける。


 お祭り騒ぎだったのが嘘のように辺りは静まり返った。

 親分以外もナンバー・ツーが本気だと気が付いたのだ。


 ナンバー・ツーはジリジリと間合いを詰めていく。

 一矢もそれに合わせて後退していく。


 一矢の背中が何かにぶつかった。後ろを見るとそこには家が立っている。

 まんまと一矢は壁際に追い込まれていたのだった。


「貰ったーーー!!」


 ナンバー・ツーは青竜刀を振り上げる。一矢はそれでも紙一重でかわし、青竜刀は壁に突き刺さった。


「ぬ、抜けねぇ!」


 ナンバー・ツーは青竜刀を必死に引き抜こうとし、顔を歪めた。


『今だ!』


 一矢の振り回した拳がナンバー・ツーを捉え、通りの反対側まで吹き飛ばした。


「やっ、やった……。やったーーー!!」


 一矢が歓喜の声を上げるのとは反対に、周りの魔族達は静まり返ったまま。

 一矢は恐る恐る辺りを見回してみると、親分が近付いてきた。


「若僧、……中々やるじゃねえか」

「す、すいません! 殺さないで!」


 一矢はその場に膝まづき、拝むように両手を合わせた。


「約束だ。奴隷商人に売り飛ばすのはヤメてやる。その代わり俺達の仲間にならねぇか?」


 リザードマン達は親分の言葉にどよめいた。


「……親分、冗談ですよね?」

「お前らも見たろ! 実力は十分だ。使えるヤツは何だろうと、かまいやしねぇ!」


 親分にそう言われては、他のリザードマン達にそれ以上言えるわけがない。だが動揺は隠せなかった。

 一矢も急な展開についていけないが、とりあえず助かりそうだというのは分かった。


「どうする? 別に断ったって殺しやしねぇ。だがその辺の人間よりは贅沢な暮らしをさせてやるぞ?」

「ぜ、贅沢な……暮らし?」


 一矢は考える。


 俺とリザードマン達が村を襲う。

『ヒィィ、むっ、娘だけは~』

『うるせぇ! 大人しく女と食い物を寄越せえぇい!』

 食料の入った袋を担ぎ、村娘を無理矢理連れていく。

 アジトに着くと、娘を自分の小屋に連れてくる。

『ゲヘヘヘヘッ! よいではないか、よいではないか』

『アーレーー!』

 村娘の帯を引っ張りながらほどいていく。

 そして村娘はあられもない姿に……。


 一矢の妄想終わり。


『致し方無い。生きる為だ。……贅沢にね!』


「是非お願いします! 何でもします! 自分の、じゃなくて親分の為に働かせて下さい!」

「ガハハハッ! 無理すんな。自分の為に働け! 働いた分だけ贅沢させてやるッ! 野郎共、行くぞ!」


 親分の号令で略奪品を荷馬車に積み込んでいく。

 勿論、一矢もそれを手伝う。

 村人の軽蔑の眼差しが一矢を貫く。


『力無き者共め! そこで指をくわえて見てろ! ここから、〈一矢の盗賊王への道(序章)〉が始まるのだ!』


 一矢は村人達に勝者の笑みを向け、荷馬車に乗り込もうとする。

 だが一体のリザードマンに首根っこを掴まれて引きずり下ろされた。


「おめぇは歩きだよ。新入り」


 よく見ると馬車に乗れるのはほんの数体。略奪品が載っているのだから仕方無かった。


『お前の顔は覚えておくぞ! 俺が偉くなった暁には貴様は一生馬車には乗せねぇからな!』


 一矢がそのリザードマンを睨んでいると、別のリザードマンが肩を叩いてきた。


「結果さえ出せば誰も文句は言わん。頑張れよ」


『貴様は良いヤツだな。その顔、俺の馬車リストに載せてやるぞ』


 だが、一矢には先程のリザードマンとの顔の区別は付いていなかった。

 正直、リザードマンは皆同じ顔にしか見えなかった。


 一矢は荷馬車の後を追い掛けて歩いていく。

 ふと、村の裏山を振り返る。老人とリサリーが居るであろう裏山を。


「俺は人間をやめるぞ、リサリー。強く生きろよ!」

「何をブツブツ言ってんだ、新入り!」

「新入り! シャキシャキ歩かんかい!」


『クソッ! お前らの顔も覚えて……やっぱり同じ顔だな!』


 街道を進み、獣道を通り森へ入って行く。

 森の中を進むと、急に開けた場所に出る。そこに沢山のテントが並んでいるのが見えてきた。


 馬車が止まると、リザードマン達は略奪品を降ろし始めた。

 親分も馬車を降りる。


「さぁ、野郎共! 今回も上々だった! 積み荷を降ろしたら宴の準備だ!」


 親分の一言で皆、喜びの雄叫びを上げた。




 宴が進むと場は盛り上がってくる。一矢も例外ではなかった。


「……だから言ってやったんですよ。その時になれば働くから、自分の息子を信じろって。母さん自身じゃなくて、俺自身を! ってね」


 この世界の強いラム酒が一矢を饒舌にさせていた。


「人間も魔族も一緒よ。何だかんだで息子が心配だなんだ。だから口煩くなっちまうんだよ」


 親分は一矢に酒を注ぎながらしみじみと語る。


「俺に任せろ! お前を一人前にしてやる。しがない盗賊団だがな、それでもその辺の人間共よりは良い思いをさせてやるからな!」

「あざ~す! 一生ついてくであります!」

「ガハハハッ。しかし俺もウカウカしているとお前に越えられちまうかもなぁ。だがな、そう簡単には越えさせねえぞ。覚悟しとけよ!」

「良いですよー。もし越えた時は、自分が親分になりますからね。覚悟しといて下さいよ!」


 一矢は軽く親分の肩を叩いた……つもりだった。

 酒の入った一矢の拳は意外に力が込められており、近くにいたリザードマン共々親分を吹っ飛ばした。


 一瞬唖然としていたリザードマン達だったが、すぐに立ち上がり臨戦体制をとる。


「テメェ! 何しやがる!」

「貴様! これはどういう事だ!」

「人間め! やっぱり裏切るつもりか!」


 リザードマン達の怒号が飛び交う。

 一矢の酔いは一瞬で覚め、声にならない悲鳴をあげていた。


 赤く腫れ上がった肩を押さえ、親分は体を起こした。

 一矢を見るその目には明らかに怒りが込められている。


「……こいつはどういう事だ?」


 一矢はその顔を見て腹をくくった。


『もうダメだ。助からん。……こうなりゃ、やけくそだっ!』


「うぉぉぉぉぉ!!」


 一矢は親分に飛び掛かり、全体重をその拳にのせた。

 一矢の拳はガードした親分の両腕をへし折り、頭を地面にめり込ませた。


 リザードマン達は驚きを隠せず、誰も動けなかった。中には青竜刀を取り落とすリザードマンも居た。


 静まり返った中、一矢は大声を張り上げた。


「騙されたな魔族共! このチャンスを待っていたのだぁ! 全員ブッ飛ばすから覚悟しろッ!」


 一矢が拳を振り上げると、蜘蛛の子を散らす様に魔族達は逃げ出した。

 だから誰も一矢の膝が笑っている事に気付かなかった。


 魔族達が見えなくなると一矢はその場に座り込んだ。


「た、助かった~」


 腰を抜かしながらも、一矢は生きている喜びを噛み締めた。

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