33.花のウエディングドレス
その後アナタシアの罪は次々と明るみになった。
聖女の力を奪うための腕輪の魔法は、生贄を何人も必要とする恐ろしい術だった。汚れを知らない無垢な子供のような顔で、裏では信じ難い数の人間を悪魔のごとく殺めていたのだ。彼女のために働いた黒魔術師や、神殿の神官長などが次々と捕まった。
王が甘やかし続けたことで、アナタシアが湯水のごとく使った、彼女を飾り立てるための宝飾品やドレスが国庫をひっ迫させていることも公にされた。
アナタシアは罰として、鎖に繋がれ、王都中を裸足で引き回された。
彼女が盗んだ力で聖女を騙り、本物の聖女を虐げ続け、さらには勇者を操り人形にして結婚しようとしていたことが広まると、よろよろとふらつきながら「ココに会わせて」と言い続ける老婆に、人々は石を投げ、罵声を浴びせた。
王太子はアナタシアを処刑するつもりだったが、国王が自分の退位と引き換えに、どうか可哀想な娘の命だけは取らないでくれと嘆願した。王太子は国王として即位し、アナタシアを王宮の塔に生涯閉じ込めることを決めた。
しかしアナタシアは塔に閉じ込められてすぐ自害した。
どうしても鏡で自分の顔を見たいと、世話をする牢屋番に頼み込んだ。
鏡で己の姿を初めて見た彼女は、醜い自分にこの世に存在する何の価値も見いだせなかったのか、次の朝には冷たくなっていた。
◇◇◇ ◇◇◇
私は聖女として、新たな王の下で国のために働くことになった。聖女の盛大な披露目の儀式が執り行われることとなったが、私はそれを望まなかった。国で祭り上げられ、権力者や裕福な者達に求められるままに力を使いたくなかった。
私は自分のやり方で、身の丈にあった聖女になりたかった。
そもそも私は大勢の前に立つことが怖くてたまらない。『ココはココのままで』ゼノスさんと約束した通り、私らしい聖女になりたいと思った。まだどうすればいいか分からないけれど……
まず1番初めに私が新しい国王に望んだのは、ナッソスさんの村に帰ることだった。
私達が村に帰ると、鼻息の荒いイノシシ達が待っていた。
兵士達に踏み荒らされ、すっかり破壊されたはずの広場の式場は、以前よりさらに豪華さを増して完璧に仕上げられていた。
「ココちゃんとゼノスさんの結婚式を絶対にするんじゃー」
村人の心に怒りの炎を付け、彼らの時間とお金がじゃんじゃか投入されてしまったようだ。
「私達はもう、ま・ち・ま・せ・ん!!」
そんな村人の勢いのままに、私とゼノスさんは村に到着した翌日に結婚式を挙げることになった。
◇◇◇ ◇◇◇
「ココちゃん良かったね」
ウエディングドレスを着付けてくれたナッソスさんのお母さんが涙ぐんだ。
オレンジ色や黄色の花が入った、絹の花が散りばめられたスカートは短くて、とてもおしゃれなデザインだった。小柄な私に良く似合うと、村中の娘達がはしゃいで「ココちゃん可愛い!」と取り囲む。「これ私達がお山で摘んできたの」と子供達が幸運を呼ぶ花で造られたブーケを手に持たせてくれた。
ゼノスさんのタキシードは落ち着いた若草色をしていた、私の瞳の色に合わせて作ってくれたことが嬉しい。いつもは洗いざらしで寝ぐせも時々そのままのゼノスさんが、髪を上げて着飾ると、そのキリリとした立ち姿があまりに眩しくて、何度も「はわわ」とため息がでてしまった。
いよいよ村人総出の結婚式が始まった。花で埋め尽くされた広場でゼノスさんと神官様の前に二人並んだ。優しい目をして見守っていてくれるソリティオ様が今日の式を挙げてくださる。
誓いの言葉を終え、いよいよ誓いのキス……
ゼノスさんにベールを上げられた。広場に入りきらないほどの村人たちの視線を痛いほど感じながら、私は覚悟を決めて目を閉じた。
……待ってもキスがこない。私がそうっと目を開けると、ゼノスさんが呆けたように私を見たまま固まっていた。
「ゼノス、ぼーっとしてるぞ。キスするんだ!」
ナッソスさんの声に、ゼノスさんがはっと我に返って「ココ綺麗だ、すごく綺麗だ」と情けない感じでで何度も言い続けた。みんなが笑う中で「勇者様がんばれー」と子供達からの応援が聞こえる。
ああ私達は祝福されているのだと心が満たされる。
お空のお父さんお母さん、私を幸せにするために世界を救ってくれた勇者様と私は結婚します。
ゼノスさんの顔が降りてきて、私は少し背伸びをした。




