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23.彼女の思うがまま

 夜の勇者凱旋祝賀会のために、俺は全身を飾り立てられた。


 そんなことより、最優先で『勇者の証』を解除するのが道理だろう。俺の命は刻々と削られているのだ、それなのに呑気にパーティーの準備をさせられている。俺は繰り返し魔法の解除を願ったが、なんの説明もないまま、貴族ひしめくパーティー会場に連れて行かれた。


 初めに国王陛下の御言葉があった。

「今宵の宴の主役は、聖女アナタシアである。彼女の千年に1人とも(うた)われる尊い聖なる力により、今だかつてない半年という速さで魔王を打ち倒すことができた。全ては、聖女の聖なる祈りの賜物である。この半年間、我が娘がどれほど献身的に昼夜を問わず祈り続けたか、皆もよく存じておろう」


 会場中が拍手で満たされ、聖女を褒め称える言葉があちこちで上がった。


「勇者ゼノスを聖女が選んだ時、我々は戸惑い彼女の真意を測りかね、勇者をほぼ1人で送り出すこととなった。しかしそれも聖女の深謀遠慮のなせる技だったのだ。こたびの魔王の心臓は隠されていた。故に、ゼノスは少人数で忍び寄り魔王の心臓を打つことができた。彼女は心臓が隠されていることも予言していたのだ!」


 大歓声が会場に巻き起こり、聖女様万歳と皆の声が響く。

「それは真実ではない」


 冷静な口調でありながら、よく通る声でソリティオ様が言った。


「聖女の予言などなにもなかった。我らの報告を、何故そのような嘘に捻じ曲げるのだ。今宵の主役は勇者ゼノス殿、そしてナッソス殿とココ殿だ、陛下、まずは彼らを労うべきではないのか?」


「ソリティオ、そなたの功績は重々分かっておる。だがどう考えてもあり得ぬことが起きたのだ。たった4人で半年の早さで魔王を倒すなど不可能だ。これは聖女の稀なる力が働いたとしか考えられぬ。遠方で戦っていたお前達には分からなかったかもしれぬがな、戦いが上手くいったのは全て、アナタシアの祈りのお陰なのだ! 私には全て見通せておりましたと彼女が言ったのだぞ」


 やるせない悲しみが胸を占めた。大声で反論したかった、聖女アナタシアが俺にしたことは、孤立したと分かるやいなや1人にして捨てたのだ。ココに全て押し付けて自分は安全な場所に残って悠々としていたのだろう。それどころか聖なる力まで奪っていたのだ。


 それなのに……帰ってきた我々の手柄は聖女が独り占めしていく。


 ここでいくら声を張り上げて違うと反論しても、あの王の頭の中は聖女の言葉が全てなのだ。聖女の卓越した人心操作を前に、我々が何を叫んでも届かない。


 でもせめて、聖女の次になってしまってもいいから、ココの献身を全ての人々に分かって欲しい。

 

 会場にはずっと待ちわびているココの姿は無い、そして何故か聖女アナタシアもいなかった。


「皆様お待たせいたしました」

 豪華絢爛なドレスをまとい、聖女アナタシアが、侍女に支えられながら会場に入ってきた。頬に白布を当てている、そこに少し血がにじんでいるのを見て、令嬢の何人かが「キャア」と悲鳴を上げた。


「何があったのだアナタシア、そなた怪我をしているのか!」

 取り乱す陛下の横に、毅然とした態度でアナタシアは立つと、痛みをこらえながらも優雅な微笑みで挨拶をした。正に王女の品格を漂わせた、堂々とした美しさに、会場は息をのんで静まった。


「わたくしは勇者パーティーの癒し手ココに感謝の気持ちを込めて、ドレスを贈りました。でも……何が気に入らなかったのか……こんな粗末な物は気に食わないと彼女は叫んで、私に暴力を振るったのです」


 あまりの暴言に俺とナッソスは「そんなことはあるはずが無い!」と叫んだが、同時にアナタシアが頬の白布を取り、三本の引っ掻き傷から、生々しく血が垂れる傷口を見せた。会場のどよめきに、叫び声はかき消されてしまった。


「聖女の顔に傷をつけるなど言語道断、その女を引っ立てよ!」

 陛下の怒鳴り声に、俺は聖女の元に駆けつけて、会場の人びとに向かって叫んだ。


「癒し手ココはけして暴力など振るわない、これは彼女がしたことではない!」


「そんなことは、わたくしが1番分かっております!」

 儚げでいて凛とした美しい声が響き渡った。頬には涙がつたい、血と混ざってよけいに傷をひどく見せた。悲しみに震えながらも、彼女は懸命に耐えて声をだそうとるす。誰もが支えたくなるような、切なく美しい姿だった。


「ココは私の部下です、心優しい子でした。暴力などけしてふるう彼女ではないと私が1番知っています。けれど皆さん、これが魔王の邪気なのです。あの子は小さくて弱い、とても精神が耐えられなかったのでしょう。悲しいことですが、もうあの子の心は邪気に蝕まれてしまいました。でも、私は許します。皆さんもどうかあの子を許してあげて、魔王討伐のために微力ながら役にたったのですから」


「なんとういう慈悲」

「聖女様は真の女神だ!」

「聖女様万歳、聖女様万歳」


 皆が聖女の優しさに心を打たれ、泣き出す者もいた。「万歳」と歓喜の声の中で、俺たちは怒りに震えて叫び出したいのをひたすらに耐えた。何を言っても、聖女の思うままに操られて太刀打ちできない。


「私はもう帰らせてもらう」

 ただココの身が心配だった、こんな茶番に付き合わされてココを貶められることに耐えられない。

 会場を辞そうとすると、宰相を初めたくさんの高位貴族に取り囲まれて、逃げだせそうにない。すぐに聖女が隣にきて腕を組むとしなだれかかってきた。


 全身に鳥肌が立つほどの嫌悪感に、腕を振りほどこうとすると耳元でささやかれた。

「勇者の証を解除しましょう。今すぐにしてあげます、私に付いてきて」


 この女が何の条件もなく解除してくれるとは思えなかった。けれど命を人質に取られる身で、突っぱねることなどできなかった。疑いながらも彼女に促されるままに宴の会場を出た。


 去り際に「恋人の怪我がご心配で、ゼノス殿は聖女様に付き添われる」と誰かが大きな声で言っているのが聞こえた。


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