隙が出来る瞬間
≪ミント視点≫
「【風魔法】――“バーンブラスト”ッ!!…ミント!今よぉ!」
「ゼェリャァァァッッ!!!」
スバァッ!とヘーニアの魔法で体勢を崩されていたソウルマンティスの皮膚の薄い腹部部分を少し重めの片手剣で切り裂く。
「―――シッッーー!」
「―――ギィィ……ッ……」
腹部を切り裂かれ、致命傷を負い、責めて死ぬ前に敵であるオレ達へ苦し紛れの攻撃を仕掛けようとしたソウルマンティスは、背後で気配を消して忍び寄っていたメメのナイフで首の神経を絶たれ、そのままズドン!と大きな死骸が地面に倒れ込む。
【魔の森】攻略を始めて早数日。
現在は攻略の最終目的である【魔の森】本体である核を発見し、攻略に参加している冒険者全員で総攻撃を仕掛けている。
核を守る魔物は主に3種類。
ここに来るまでにもよく見かけたゴブリンやウルフと言った雑魚の魔物達。
今、オレ達や他の有力な冒険者パーティが各個撃破して行っている“ソウルマンティス”
そして、奥に見える核を包むように鎮座する…恐らく植物系の魔物。
最後に関しては核と融合しているようなものなのでどちらかと言えば核本体と仮定するなら、核を守る強敵の魔物はソウルマンティスのみ。
雑魚のウルフやゴブリンに関してはどの冒険者達も苦戦はしていないし、唯一の懸念であるコナーは【龍の涙】が護衛を立ててくれるという話なので問題はない。
だが、ソウルマンティスを狩れる冒険者パーティはそこまで多くない。
オレ達【ホワイトタイガー】の他に【龍の涙】、それと魔法使い2人組パーティ【双竜】と戦士職2組パーティ【グランドクロス】が臨時のチームアップで対応出来ている。
さらに意外にもこの【魔の森】攻略でパーティーを組んだ…【白百合の美剣】だったかな?が善戦しているみたいだが、それ以外の冒険者達は押され気味。
一応未だ戦線は崩れてはいないが、ゲガ人が増えてくれば人数的不利は否めない。
ソウルマンティスの数もまだまだ多く、軽く見渡すだけでも10体以上はいる。
「…こりゃやっぱりコナーに来てもらっておいて大正解…か、なッ!!」
「ギャァッ!」
雑魚のゴブリンを薙ぎ払いつつ、自分の選んだ選択が大正解だった事に安堵の表情を浮かべる。
コナーは少し抜けている部分もあるが、【ブルスの街】から王都に向かう旅の中で索敵スキル程ではないが、それに準ずるほどの危機察知能力を身に着けている。
少なくともコナーは魔物に背後から奇襲を掛けられようとも脊椎反射レベルですぐに自身の【アイテムボックス】へ逃げ込む事が可能になっていた。
じゃなきゃ、故郷の街を生まれて初めて出たばかりの15歳の子供に一人で馬車の御者などさせない。
コナーは普通に思っているかもしれないが、オレもバルトファルトさんもコナーの危機察知能力の高さを見込んで1人旅を任せているんだ。
大体、なんでコナーは背後からの接近をアレだけ素早く察知出来るんだ?まるで背後から襲い掛かられるのをずっと警戒しているように見えるんだけど…?
それに付いてコナーに聞いた事があるけど『人の恨みって怖いですよね……あ、いや何でもないです』とはぐらかされたので、真相はよくわからない。
まぁそんな訳で、こんな危険な【魔の森】の中でも自信をもってコナーを連れてくる事が出来た訳なんだけど。
「…ふしぃー……次の獲物が来たよ」
「デカい図体の癖に、何気に動きが早いのが面倒なのよぉ」
「まぁ一々こちらから出迎えなくとも獲物がやってくると考えればいいだろう!【龍の涙】の連中も奮闘してるんだ!オレ達も行くぞッ!!」
「「「りょーかい!」」」
頼もしい仲間に鼓舞し、敵の姿を目視で捉えながら、思考の中でコナーの事を思い浮かべたからだろうか。
妙に気になってしまい、まだ魔物との距離があるのをいい事に後方にいるはずのコナーを探す為に視線をそちらに向ける。
『―――フゥハハハハハハハハッッッ!!!これが魔物達の魔窟【魔の森】ッ!!!そしてアレこそ魔物を産みだす魔の母核ッ!!!全人類の未見の権化ッ!!!これを視ずに死んでたまるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!』
『こんのぉぉ………ボケカス魔物狂いがぁぁッ!!?』
「……えぇ……?」
――何故か、満面の笑みでソウルマンティスの横を走り抜ける白衣の変態と、それを怒り狂った表情で追いかけるコナーと追走するメイドという中々に意味の分からない光景が広がっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
≪コナー視点≫
―――時間はほんの少し戻り、コナーとリャーナが広場の中央に向かい走り出した頃。
「――ギャギャッ!」
「ゴブリン!…なら頼んだ!“おてて魔法”ッ!!」
俺の【アイテムボックス】から伸びた人の手からゴブリン達に向かって火の玉が飛んで行き、爆風とともにゴブリンを吹き飛ばす事に成功する。
「中々やりますね。他人の魔法だというのにそこまでの精度で扱えるとは……これならば私の護衛も不要でしたでしょうか?」
「いやいや!リャーナさんが居なかったらとっくに【アイテムボックス】の中に避難してるかな!今めっちゃ怖いですもん!」
雑魚と名高いゴブリンであろうと魔物は魔物。
本来ならすぐさま【アイテムボックス】へ逃げ込む所だが、今は出来るだけ広場の中央……冒険者達が戦う最前線の近くに≪ゲート≫を展開する為に、逃げ腰になりそうな体に鞭を打って、フォルンの『おてて魔法』という名の【火魔法】にて敵魔物をけん制しつつ、前進を続けていく。
「恐怖心を忘れないのは良き事です。如何に熟練の冒険者でも慣れによる恐怖心の欠如によって致命的なミスを犯す場合も多いですから」
「え…あ、はい……いや、その通りだとは思うんですが、別に俺冒険者になる訳じゃないので…」
そんな戦闘の心得!みたいな事言われてもこの先魔物から逃げる事の方が断然に多いので生かす機会が無いのだけれども…。
「戦闘に限った話ではないので心の片隅にでも覚えておいてくださいませ。――それよりもそろそろよろしいでしょう」
俺と雑談を交えながら、懐から取り出した投げナイフ?の様な物を近くの魔物に投擲して倒しながら、目的地である広場の中央付近に着いた事を告げるリャーナ。
リャーナの戦闘方は基本投げナイフの投擲による中距離攻撃とダガーでの近距離攻撃を組み合わせた戦闘スタイル。
強さは【ホワイトタイガー】と並ぶ【龍の涙】という上位冒険者パーティのメンバーらしく、動きが洗練されていて素人目でも強い事がよくわかる。
…さっき『私の役目は戦闘ではない』と言っていたけど、別に戦闘が不得意だからそういった訳ではないっぽい。
「あ、確かにここら辺なら良さそうですね。≪ゲート≫」
すぐさま広場のど真ん中に少し大きめの≪ゲート≫を開き、魔物以外は出入り自由に設定する。
「よし……皆さーん!!【アイテムボックス】の準備は大丈夫です!怪我したらこちらに来てくださいー!」
「「「うおぉぉぉぉぉ!!!!」」」
仮設テントならぬ、仮設安全エリア。
図体のデカいソウルマンティスと必死の戦闘を繰り広げる中、真後ろに魔物の侵入が出来ない安全な休憩スペースがあるというのは冒険者達にとってとてつもない安心感を与えてくれるものらしい。
証拠に、俺が声を上げてからはどこか怪我や体力の消費を恐れて動きが消極的だった冒険者達が生き生きと攻勢に出て行る。
「よし……俺は【アイテムボックス】の中で待機しますけど、リャーナさんはどうしますか?」
「私は周囲の冒険者達をフォローする為に≪ゲート≫の外側で待機いたしますのでお気になさらずにッ!」
『――グギャッ!?』
そう言って、遠くにいたゴブリンを投げナイフで射殺すリャーナに『おぉすごい』とありきたりな感想を述べた俺は、なら大丈夫か!と1人【アイテムボックス】の中へと入っていく。
「――あ、おかえりなさいご主人!」
「ただいまルイ……今外は魔物だらけだから絶対外には出ないようにね?」
「はーい!」
ルイは怪我人がいつ来てもいいように包帯や治療薬、それに飲み水や簡易食料を運んで来てくれていた(包帯や治療薬などは【魔の森】に入る前に冒険者ギルドから渡された物だ)。
ルイには事前に俺達がどこに行くのかは伝えていたし、怪我人が出ればこの【アイテムボックス】を使う事も伝えていたので、俺達が【魔の森】の中心へ向かう間に色々と用意してくれるように頼んでいたのだ。
「そういえばフォルンは≪自室≫?」
「うん!ずっと寝てるよ!偶に右手が消えるけど」
「さっきまでずっと“おてて魔法”に助けられてたからね。感謝したいような気もするけど、実際は寝てるだけなんだよなぁ……エルデンさんは……スライムの観察?」
「あの変な人?それならさっきまでそこに……あれ?」
ルイが指さす方向は俺が≪ゲート≫で入って来た少し横で、そこには何か研究用なのか色々と書き込まれた紙が散乱しているのが見える。
だが、肝心のエルデンの姿が見えず、ルイと一緒にどこに行ったんだ?と疑問を浮かべる。
「トイレか?いや、そもそもなんでスライムをずっと観察していたエルデンさんがこんな何もない(怪我人を収容する為だけの)部屋に居たんだ…?ステータスオープン!」
何か嫌な気がした俺は、すぐさま自分のステータス画面を開き、エルデンがどこにいるのかを探す…が。
「………居ない……って事は…」
『―――フゥーハッハッハッハッハッハ!!これが【魔の森】ッ!あれが核ッ!何と凶悪で、なんと美しい事かッ!!!』
突如外からバカデカい高笑いが聞こえて来て、すぐさまエルデンが外に抜け出したのだと察する。
「なんでだ?確かにエルデンの≪ゲート≫の出入りを制限したはずなのに……あ”!」
そこで思い出したるは、先程≪ゲート≫を広場の中央で開いた時だ。
「魔物以外は自由に出入り……エルデンの事を忘れてたッ!」
一旦≪ゲート≫を閉じ、新たに開くと≪ゲート≫の設定は『俺の外敵の出入りを遮断』するのがデフォルトになっている為、≪ゲート≫を毎度開く度に『エルデンの出入りも禁止』と追加で設定し直す必要がある。
ここに到着するまでは忘れないように毎度設定していたが、流石に”おてて魔法”の様に腕一本分の≪ゲート≫にはそんな設定していなかったし、周りに魔物がわんさかいる状態に俺自身、落ち着いていなかったから、エルデンの事を忘れてしまった。
で、エルデンもエルデンで、そんな俺の隙を突く為に≪ゲート≫が開く予定の部屋に陣取り、尚且つ外から来た俺の目に映らない≪ゲート≫の横……どう考えても出し抜く気満々だったのだ。
「あっっっんの馬鹿エルデンッ!!!」
俺は相手が一応貴族なのだという事も理解したうえでこの怒りを発散するように叫ぶ。
「ルイッ!ちょっとあの馬鹿とっ捕まえてくるから!」
「え?あ、うん……いってらっしゃい?」
「行ってきますッ」
そう言って俺は外へと飛び出し、エルデンを捕まえる為の危険な【魔の森】鬼ごっこが開始されるのだった。




