原因
エルデンの自傷暴走があり、馬を全速力で走らせる事10分。
【ブラウの街】からある程度距離を稼いだ所で再びエルデンが居る部屋へ≪ゲート≫を繋げる。
「…エルデンさん、ある程度街から離れたけど…」
すでにエルデンへの心象は悪く、自然とため口で話してしまうが、エルデンもそれに気を悪くしている様子はない。
『む?我の出番であるなッ!ならばもう一度ッ!』
「わぁー!?また腕を斬ろうとしないで!!」
街から距離を取り、準備が整ったと分かるや否や目にも止まらない速さで未だ切り傷が血で染まる腕にナイフを再び突き立てようとしたが、俺がそれを止める。
「今でも十分部屋の中に血の匂いは充満してますってッ!このまま≪ゲート≫を開いてればきっと特殊個体も来ますからそう簡単に自分の腕にナイフを刺さないでください!?なんだったら部屋で垂れた血液も外に移動させますから!」
そう言って俺はすぐにエルデンのいる部屋の地面に流れていた血溜まりを【詳細設定】の『模様替え』で【アイテムボックス】の外へ移動させる。
元々俺の【アイテムボックス】には【自動収納】の機能が無いが、レベル10に上がって手に入れた【詳細設定】で”物を出す”分には同じような事が出来るようになった。
外にある物は手動で運び入れなければならないのは変わらないが、それでもかなり楽になったのは違いないだろう。
「これでよし。…なんか血の量多くないか?何も知らない人間がこれを見たら絶対変な勘違いするよな」
≪ゲート≫の外に真新しい赤い血溜まりはどう見ても人が殺された殺人現場か何かにしか見えない。
もしくは動物がここで凶悪な魔物に食い殺されたと思われる可能性があるが、どちらにしろ好き好んでこの場に留まろうとする人間は皆無な見た目だろう。
「これで後はあの黒い獣が来るのを待つだけ…かな」
念の為、周りを見渡してから近くに特殊個体の黒い獣が居ないのを確認した俺は、開いたままの≪ゲート≫に入る。
「……エルデンさん。ひとまずその腕の傷をどうにかしない?」
「フハハハハハッ!!気にするでないコナー殿!我は囮の血が乾き、血の匂いが弱くなった時の為にもう暫くこのままでいようッ!最悪の場合、腕の一本や二本の犠牲は必要経費なのでなッ!!!」
「頭どうかしてんのかッ!?」
腕を必要経費であっさり捨てるとか…なんですか?ヤクザみたいに詫びの為に指を詰める感覚ですか?…いや、ヤクザでもそう簡単に指詰めないと思うけど…。
これ以上この人に付き合っていたらこちらの脳に支障をきたしそうだったので「あ、それじゃ俺は自分の部屋の方で待機してるね……無理しないでね…」とルイとフォルンがいる≪自室≫に逃げるのだった。
……一応念の為に、エルデンが自分の身体を餌にしようとする可能性を考え、外を監視する為にエルデンのいる部屋に開いたままにしている≪ゲート≫の【詳細設定】を変更し、エルデンを【アイテムボックス】の外に出られない様に設定しておく。
まぁ自分が死ぬと分かる事をする訳はないとは思うが……念の為ね?
『―――ぬぉぉぉぉ!?何故だ!?何故我は通れぬのだッ!?血では足りぬかもしれないのだ!せめて…せめて我の腕をぉぉぉぉぉッ!!』
はぁぁぁぁぁ………………。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふむふむ……じゃぁこれでどうだ?」
「あ、これじゃ冒険者の駒が死んじゃう……むぅ…オレの負けだー!」
「はっはっは。俺のごり押し戦法は中々に強いかもしれないな!」
≪自室≫に戻った俺は、いつ特殊個体が来ても察知出来る様にエルデンの部屋で開いている≪ゲート≫が見える位置に小さい≪ゲート≫を開き、エルデンと外が見える≪ゲート≫の両方を観察しながら、ミントが作ってくれた魔物盤をルイと一緒にプレイしていた。
元々、ミントに教えてもらってから少しだけルールを聞いて何度かミント達と遊んでいたが、流石に初めて数週間の俺ではミント達には勝てず、いつも煮え湯を飲まされていた。
だが、同じく魔物盤をやった事のないルイが来てからはお互いに勝ったり負けたりのいい勝負が出来る試合が増えて来たので最近は楽しく遊ぶ事が出来ている。
「しかし……来ないなぁ?もうすぐ30分ぐらい経つと思うけど、黒い獣どころか他の魔物も来てる様子はないな」
「だねー……早く来ないとあのお貴族さん可哀そうになっちゃうよ」
ルイの指摘で、目線をエルデンに向ければ30分前から変わらず、ずっと外の様子を正座の状態でジッと見続ける姿が見受けられる。
……いや、正確には最初の5分ぐらいは何度も外に出ようと試みていたようだが、外に出れない設定になっていると分かってからはずっとあの状態なのだと訂正しておこう。
「あの人、下手したら丸一日経っても正座の状態のまま待っていそうだもんね……出来る事なら早く特殊個体には出て来て欲しいけど…」
『―――――……■■■■■■ッ!!』
「「『―――来たッ!!』」」
そんな愚痴の様な不満の様な事を呟いたのがフラグになっていたのかはわからないが、呟いた数秒後に≪ゲート≫の外からあの凶悪な咆哮が聞こえてくる。
「ルイ、ちょっとエルデンさんの所に行ってくるよ」
「わかった!ならオレはフォルン姉ちゃんの世話しながらお昼ご飯の準備しとくね!」
「……お、おう」
如何に危険が無いと言っても凶悪な魔物が来たというタイミングでまさかの昼食の準備を始めるルイの発言に些か調子が狂ってしまいそうになるが、言われてみれば王都を出発してからずっと何も食べていないし、時刻もちょうどお昼時。
俺もお腹が減っていたので昼食の準備をするルイに『じゃ、お願い』と言ってからエルデンのいる部屋へ移動する。
「―――ほぉぉぉぉほぉぉぉぉぉぉ!?アレが……アレが特殊個体ッ!?素晴らしいぞッ!実に素晴らしいッ!!!!我が人生であのような生物を直に見れる日が来ようとは………食されたい…」
「いやいやいや、思いっきりねじ曲がった願望持ってて怖いわ……エルデンさん?変な気は起こさないでよ?」
≪ゲート≫を潜った瞬間にエルデンが可笑しな事を言い出したので、『もしかしたらこのままあの特殊個体に特攻自殺しに行くのでは?』と感じた俺は、ジト目でエルデンに釘を刺す。
「…ハッ!?す、すまない……日頃の満たされぬ欲求が満たされて少々ハイになってしまった」
(少々…?)
「いや、失敬!折角このような場を設けてもらったのだ!あの特殊個体がどこかへ行く前に我の仕事をするとしようッ!!」
≪ゲート≫の外を見れば、エルデンの流した血の周りをぐるりと回りつつ、辺りを見渡しているのを見ると、血の匂いに惹かれてきたが臭いの元の獲物が居らず、不満げな雰囲気を感じる。
後数分もしない内に特殊個体はこの血溜まりから興味を無くし、この場から居なくなってしまうだろうとエルデンは危惧し、すぐさまスキルを発動させる。
「―――さぁ…君の全てを我に見せてくれたまえッ!!【鑑定】ッ!」
エルデンのスキル発動は傍目からは確認できない……だが、エルデンの目を見てみれば、恐らく目の前に開いているステータス画面を眺めているのか眼球があっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しなく動いている。
「……なるほどなるほど……心得たッ!!!」
「こ、心得た…?」
「コナー殿、少しばかり失礼ッ!」
エルデンはいきなり俺に謝罪をすると同時に、懐からペンとインク、それに少しクシャリと折れ目が入った紙を数枚取り出す。
そしてその紙に素早く何かを書き出していくが……ん?これは…【鑑定】結果のステータスか?
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【名前】 魔狼
【スキル】 魔力変換 核化
【SP】 203/221
★魔力変換★
≪貯蔵≫【524325魔力】
★核化★
≪必要魔力1000000魔力≫
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「スキルが2つ…!?それにこの【核化】って…」
エルデンの書き記しているステータスを盗み見して、少しばかりある予想が脳裏に浮かぶ。
「核……もしかして【魔の森】の核?」
「うむ、あの 魔狼のスキル…いや、この場合は“能力”と言った方がよいか。その能力はズバリ『魔力を貯め、貯めた魔力で自由に【魔の森】を生み出せる事が出来る能力』という事だろうな」
ステータスを書き終わったエルデンが俺の言葉を肯定し、 魔狼の力を詳らかにして行く。
「厳密には【魔力変換】は自身や他者の感情や血肉を魔力へ変換し、それを蓄える能力。【核化】自身の持つ魔力を核に変質させる事の出来る能力。その二つの能力が合致したものであるな」
「どうしてスキルの詳細が…?」
「我の【鑑定】は魔物限定で事細かな詳細までわかる仕様なのだッ!ちなみ、 魔狼のスキル欄にレベルの表記が無いので、そもそも我々人間が持つスキルとは別種のカテゴリーと判断すべきなのだろう……むふ……これほど素晴らしい結果が出るとは……実に行幸ッッッ!!!!」
エルデンは 魔狼の【鑑定】結果に人前でしてはならないような顔を見せている。
「っていうか、この【核化】って今【ブラウの街】で起きてる【魔の森】事件の原因なんじゃ…?」
原因どころか、もし【魔の森】を無事攻略出来たとしても 魔狼をどうにかしなければ第二、第三の【魔の森】が続々と発生していくのではないか?
魔狼が他の魔物達を甚振っていたのも【魔力変換】を使って魔力を貯蔵し、新たな核を生み出す為だとしたら、魔物の出る樹海で見た傷だらけの魔物達もこの 魔狼の仕業である可能性が高い。
なんだったら魔物の出る樹海の奥地で未発見の【魔の森】が生み出されている可能性だってあるとすれば……大分ヤバいのではないか…?
「こ、この事を早く国に伝えに行かないと!」
「安心召されいコナー殿。これを見るがよい」
そう言ってエルデンが取り出したのは、真ん丸で綺麗な水晶玉。
「これは…?」
「これは冒険者ギルドで使われている【通信魔道具】。これを使えば王都の冒険者ギルドに直接連絡が可能ッ!!」
「おぉぉぉ!!!」
そんな便利アイテムを持っているなんて……それを使えば今手に入れた 魔狼の情報もステータスも、全て王都へ伝える事が出来る。
何故そんな魔道具をエルデンが?と不思議に思ったが、どうやらリルットが【ブラウの街】で使用している通信魔道具が故障している事を王都の冒険者ギルドに連絡していたらしく、至急新しい魔道具を用意していたのだとか。
そして、魔道具や魔法関連の大体の物はエルデンが所属する【国立魔道研究所】で作られるので、今回の偵察の際に魔道具を【ブラウの街】へ運んで来ていたらしい。
「冒険者ギルドにこの魔道具を持っていけば王都の冒険者ギルドと連絡を取る事が出来る。これで【魔の森】関係や魔狼のステータスも伝えられるのだッ!!」
「おぉぉ!!……ん?」
……その魔道具って本当だったら【ブラウの街】に着いたらすぐにギルドに渡して王都との連絡を取れるようにしてあげるべきだったのでは…?
「あ、あの……その魔道具って街に着いたらすぐに渡すべき物だったんじゃないの…?」
「ん?あぁ確かにそうであるな。だが、気が付いたら街の外だったのでな!偵察を優先したまでの事……ぬおッ!?いつの間にか魔狼が居なくなってるではないかッ!?」
―――いや、街に着く前にその事を教えておけよ!?絶対スライムの件で伝え忘れてただけじゃんッ!!!




