特殊個体捜索隊
王都を出発した俺に待ち受けていたのは、あの強大な力を持つ特殊個体【黒い獣】…。
―――などという訳では無く、何ともあっさりと俺は【ブラウの街】に到着する事が出来た。
「怪我をした魔物は結構見たからここら辺から居なくなったって訳じゃなさそうだけど…」
黒い獣に甚振られた魔物達は総じて怪我をしており、どの魔物も何かに怯えているかの如くどこか逃げ腰。
恐らく魔物達は今も黒い獣を警戒している事からまだこの辺に黒い獣はいるはずだ。
ならばまず俺がしなければならないのは【ブラウの街】に特殊個体の事をすぐにでも伝える事。
脅威は【魔の森】だけだと思っている所に特殊個体の馬鹿げた“能力”…あの黒い獣がどんな能力を持っているかは不明だが、もし万が一ひと昔前の特殊個体【魔猿】と同じような山を生み出すといった能力であれば、気がついたら山の中…といった事もあり得る。
そんな訳で俺は街に着いて早々冒険者ギルドへと走ったのだが……。
「あーーー!コナーくぅぅん!!!」
「ッ!!ってヘーニアさ――へぶッ!?」
ギルドの前に誰かいるなと思ったらホワイトタイガーのミント、メメ、アイリス、そして何故か俺目掛けて突っ込んできたヘーニアの4人。
「ちょ、ちょちょ?一体どうしたんですか!?」
「髪がベタ付くのッ!!」
…は?
「一度綺麗にした髪の感触を知ったらもうダメなのよぉ!たった一日で頭に不快感が出るし、そのままの状態でお布団に入ると、こう……もう嫌ぁー!!ってなるのぉ!!」
「……もうシャンプー無しは考えられない……メメはあんまり汗かかないのに、それでも気になる」
「うぅ……コナー君…お姉さんもちょっと耐えられないかも…」
ヘーニアに続いて、メメやアイリスも頭の不快感が拭えないのかゾンビの様にすり寄ってくる。
「んー…まぁ確かに頭がすっきりしないのはわかるが……そこまで気にする事でもないだろう?今までは1週間水浴び出来ないとかザラだっただろう?」
「「「これは女として譲れない問題!!それにその1週間の件は貴女が依頼でヘマをした所為で仕方なくでしょ!!」」」
ミントの軽はずみな発言は彼女達3人の怒りを買ったらしく、怒声ハモらせる。
ミントは流石に3人の怒りにこれ以上油を注ぐのはダメだなと両手をヒラヒラとさせて退散する。
……ん?あれ、ミントも同じ女のはずでは…?
「え、えーと……ひとまず今日からはこの街に滞在するので、シャンプーの件は大丈夫だと思います……ただその前に色々と報告しなきゃいけない事が…」
「やぁぁぁったぁぁ!今日からシャンプー解禁ね!私、他の冒険者達に知らせてくるわぁ!」
「タオル……着替え……櫛……」
「ちゃ、ちゃんと料金は払わせてね!私達もタダで使わせてもらおうとか考えてないんだからね!」
俺の言葉を最後まで聞く前に、ヘーニア達はそれぞれするべき事があるッ!と言った感じに解散していき、この場には俺と呆れた顔のミントだけが残る。
「……報告…聞こうか?」
「……ははは。はい、ありがとうございます…」
この世界の女子は(ある意味)本当に強いなと、疲れた顔でそう思うのだった。
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「な……特殊個体だってッ!?それは本当かい?」
「はい……一応外見的特徴と行動を鑑みてまず間違いなく特殊個体だと思われます。念の為この後、魔物研究者の人と特殊個体を偵察に行く予定なので、その際にどんな特殊個体かどうかもわかるとは思いますが」
場所は変わり、冒険者ギルドの中。
ミントと一緒に受付にやって来て、特殊個体の事を報告すれば流石にすぐに信じれはしないのか疑問の目を向けてくる。
確かに素人がいきなり『どこどこで化け物を見た』と言われてもすぐに信じられないのは当たり前だが、一端の冒険者であるフォルンは直で見て特殊個体と断定しているし、特徴的には特殊個体で間違いないのだからはっきりと俺は伝える。
「流石に特殊個体は予想できなかったな……今居る冒険者達を集めてもほぼ間違いなく戦力は足りないとは思うが」
「……【魔の森】に続いて特殊個体とは……ツイていないにも程がありますね」
「一応王都では王国騎士団をすぐにでも動かそうと動いてくれている方達が居ますが……それでもすぐには無理との事です」
「そう……ですか、わかりました。ひとまず今は【魔の森】をどうにかするのが先決…特殊個体に関してはこの街に関心を持たない事を祈るほかありませんね」
受付の人は疲れたようにため息を吐いてそう話す。
「コナーは偵察に行くと言っていたが……大丈夫か?」
「まぁ【アイテムボックス】の中で隠れながら観察するだけだから危険はほぼ無いけど……万が一【アイテムボックス】の外に魔物が居座っても魔法使いの人がいるから何とか脱出は出来ると思う」
「そうなのか?もしあれだったらオレが付いて行こうかとも思ったけど」
「ミントはホワイトタイガーのリーダーでしょ?ミントがこっちに来て【魔の森】攻略に支障が出る方が駄目だと思うけど?」
「うッ…そう…だな」
ミントの気遣いは嬉しいが、それでヘーニア達が3人で【魔の森】に行って怪我でもしたら申し訳なさすぎる。
「ミント達はミント達で【魔の森】攻略頑張って。俺も怪我しない様に安全第一で動くから」
まぁ安全第一と言っても、特殊個体を見つけたらずっと【アイテムボックス】の中で隠れるだけだけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【ブラウの街】の冒険者ギルドを出る際、昨日からずっと【アイテムボックス】の一室に居座り、≪水場≫でシャンプーと頭皮マッサージ?的な事をしていたリルットを無理矢理【アイテムボックス】の外を放り出した時は『いやぁぁぁぁ!!??まだ帰りたくなぁぁーい!!』と泣き喚いていたが、俺はそれを放置して街の外に来ていた。
街の外に来た理由はもちろん、今から黒い獣を探す為だ。
出来る事なら明るい内に特殊個体の情報は掴んでおきたいし、あまり遅くなればシャンプーを楽しみにしている女性冒険者達が暴動を起こしかけないからだ。
だが、一旦街の外に出て来たは良い物の……。
「さて、と……どこに向かえばいいんだ?」
そう、俺には魔物がどこにいるのかがわかる能力はない。
やれるとすれば精々怪我をしている魔物が多く存在している場所近辺を探せば、あの黒い獣も早く見つかるかもしれないが、その場合手負いとはいえ魔物との接触が増え、【アイテムボックス】への避難している時間が増えてしまう。
出来る事なら黒い獣が魔物のあまりいない場所に居座って、そこにうまい具合に辿り着ければ最高なのだが、そんなご都合主義的展開はまずありえないだろう。
ならば解決策は一つ。
「――という訳で、何か特殊個体が行きそうな場所とか行動経路がわかるヒントとか無いですか?」
「ふむ!すでに【ブラウの街】についていたのは驚愕したが、そこは置いておこう……特殊個体の現在地を割り出す方法であるな?ならば飲み水のある池や川を重点的に探すのが吉ッ!!如何に特殊個体の魔物だろうと飲み水は必須だろうからなッ!!」
「あ、すいません。ここら辺周辺に飲み水のある場所ってないんですけど」
「何ぃッッ!!??」
分からない事は分かっている人(わかりそうな人)に聞けばいい!
………まぁあんまり期待は出来なさそうかもだけど。
「ふむ…そうか。【ブラウの街】周辺は水源地が全くない場所であったな。……ではコナー殿、今さらだが確認である。君が見た特殊個体は体長3~4メートル程の大きなウルフ型の魔物である…それは間違いないのかな?」
「あ、はい」
「なるほどなるほど……ウルフ系の魔物ならば匂いで獲物を探っていると考えて間違いはない……では逆転の発想をしようではないかッ!!どこにいるのかわからないのであればッ!!寧ろこちらに出向いてもらおうではないかッ!!!」
「は、はい?」
え、いきなり何を言い出すのだろうかこの人…?
匂いで獲物を探る……という事は生肉や何かを用意して特殊個体を釣ろうとしているのか…?
「魔物とは元来、血の匂いには敏感だが、どの動物よりも人間の血の匂いには敏感と言われている」
「――え?」
「セェェェェイッッ!!」
―――スパッ!!
「ってうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?いきなり何してんですかあんた!?」
いきなり自分の手首を白衣に隠し持っていたナイフで斬りつけたッ!?いやいや、めちゃくちゃ血出てるのにめっちゃ笑顔だなこの人!怖いわ!?
「フハハハハハハッ!!我が血液を使い、特殊個体を誘き寄せる……なんという甘美な響きッ!」
「何が!?――というか、こんな街の傍で特殊個体を誘い出されても困るから!?」
俺は急ぎ外に繋がる≪ゲート≫を一旦閉じ、物理的に血の匂いが外に漏れ出ない様にする。
「おぅっとそれはすまない。―――では早速特殊個体を呼びだせる場所まで移動を願おうか。出なければこの場で誘い出すのも吝かではないぞ」
「こいつ目的の為なら手段は選ばないタイプだッ!?」
すでにこの猪突猛進男に礼儀は必要なさそうだと判断した俺は、急がねば本当に【ブラウの街】の傍で特殊個体を誘い出されてしまうと考え、すぐさま移動しようと行動に起こす。
「あぁぁぁもうッ!!なんだってんだぁぁッ!?」
……疲れる。




