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第24話「この者たちに関わってはなりませぬ」

「こんな所に居られたのですか、お坊ちゃま」

「あっ! ノシーレさん」


 イーワイカの元へ1人の女性が駆け寄ってきた。その女性は暗色の修道服に身を包んだシスターのような風貌で、落ち着いた大人の女性……といった雰囲気を醸し出していた。


「あっそうだ、ノシーレさん! この方たちはね、ボクが絡まれていたのを助けてくれたんだよ」


 と言ってイーワイカはノシーレという女性に、ミコトとアルティーを紹介した。


「まぁそれはそれは……私めはイーワイカお坊ちゃまの世話係、ノシーレと申します。この度は坊ちゃまを助けていただきありがとうございまし……」


 ノシーレと名乗る女性は深々と頭を下げて2人にお礼を言った。だが、ノシーレは頭を上げて2人の顔を見た瞬間、態度が一変した。


「……!?」


 ノシーレはイーワイカに近付くと、そっと小声で



「お坊ちゃま……この者たちと関わってはなりませぬ」



 とささやいた。


「えっ、何で!? ノシーレさん、この人たちは恩人だよ」


 イーワイカはノシーレの言葉に戸惑いを隠せなかった。特にミコトは一目惚れした相手……関わってはいけないと言われても素直に受け入れられないのだ。

 だが、イーワイカの言葉を無視するように、ノシーレはミコトたちに向かって敵意むき出しで話し掛けた。


「キサマ……まさかこんな所で再会するとはな」

「えっ、何? アタシ……アンタとは初対面だよな?」

「ここで会ったが百年目……キサマを殺す!」

「えっええええっ! アタシ……アンタに殺される覚えないんだけど!」


 ミコトは初対面のノシーレから殺すと言われ、異世界に転生してから一番の恐怖を感じた。と、そこへアルティーが、


「ミコト様、すみません……この人は私に用があるのです」


 ミコトの身を守るように一歩前に出てきた。


「久しぶりです、ノシーレさん。シスターになって修道されていると聞いておりましたが、まさかイーワイカ様のお世話係をされていたとは……」

「アルティー……キサマ、何で地上(ここ)に降りて来た? よもやキサマも堕とされたワケではあるまいな?」

「いいえ……私は、女神さまの(めい)によりこちらにおられる折旗ミコト様のお導き役を仰せつかったまで……アナタと一緒にされては迷惑です」

「何だとっ!!」


 その言葉を聞いたノシーレは、ものすごい形相でアルティーを睨んだ。そして


「やはりキサマは許せない……殺す!」

「よしなさいノシーレさん、せっかくの修道が台無しになりますよ」

「やかましい!! キサマさえ殺せるならば……私は悪魔になっても構わぬ!」


 このノシーレという女性、アルティーにかなりの恨みがあるようだ。しかも、


「そういえば……そちらの女、オリハタミコトと言ったな? そうか、ならば丁度よい! 2人まとめて始末してくれよう」

「えぇっ!? やっぱアタシも狙われてんの? 何で? 初対面だよな」

「ちょっと待ってください! ミコト様は無関係ですよ……ハッ! まさか?」


 アルティーは何かに気付いたようだ。するとノシーレは両手を胸の前で合わせ祈るようなポーズをとり詠唱をした。


「アラク……クナ……コナシマ……ヤブヤーキ」


 この詠唱を聞いたアルティーは、信じられないといった表情で焦り出した。


(まっ、まさかコレって……『ナラーダの魔法』!?)


「ホナル!」


 ノシーレが呪文を唱えると彼女の両手の間に「火の玉」が発生した。ノシーレはその火の玉を右手に持ちミコトとアルティーに向けると、さらに呪文を唱えた。


「ヒジンマイ!!」


 すると火の玉が大きくなり、ミコトに向けてミサイルのように発射された。


「ミコト様! 危ない!!」


 アルティーはミコトを押し倒し、間一髪のところで火の玉を避けた。しかし、


「うっ!」


 ミコトをかばった際に火の玉が左腕をかすめてしまい、アルティーは火傷を負ってしまった。


「おい! しっかりしろ……テメェ、何てことすんだよ!?」


 アルティーがやられたことでミコトは怒り心頭になった。


「やかましい! 次は2人まとめて火だるまにしてやる!」


 ノシーレの右手に再び火の玉が現れ、倒れて身動きが取れない2人に向けて放たれようとしていた。そのとき、


「やめてください! ノシーレさん!!」


 ミコトたちの前にイーワイカが飛び出し、両手を広げてノシーレの攻撃から守ろうとした。


「ぼ……坊ちゃま」

「この方たちに攻撃するのはボクが許しません!」

「そ……そんな……お坊ちゃま……あぁっ!」


 そう言うとノシーレはその場にへたり込んだ。


「ミコトさん、アルティーさん、大丈夫ですか?」

「オマエら、何てことすんだよ! おい、()()()()()()! 大丈夫か!?」

「今はそんなに快適ではありませんし、ホテルのシャンプーや歯ブラシでもありません……まぁ大丈夫ですよ! この位なら回復魔法で……」


 するとイーワイカが、じゃがいも警察に「中世ヨーロッパには無い」と指摘された「ポケット」から小瓶を取り出した。そして小瓶の中から怪しげな液体を手に取り出すと、火傷を負ったアルティーの腕に塗り込んだ。


「何だそれは?」


 ミコトが尋ねると


「はい、これは外傷に効く万能薬です。ボクは薬師(くすし)()やっております……実はこの塗り薬(ポーション)、そこにいるノシーレさんから教わったんですよ」

「えっ、そうなの?」


 自分たちを殺そうとしたノシーレの作った薬……ミコトは疑いの目を向けた。だが、アルティーの火傷は見る見るうちに消えていった。


「すっ、すげぇ! どうやって作ったんだ?」

「はい、これはカガミッチョーの黒焼きをベースにアシッタレとミョーギーとハットーリとキシャダとゴージをすりつぶして聖水で溶いたものです」


 すると、火傷が治り本来なら喜ぶべきアルティーの顔が……


「あっ、あはっ……あははははっ」


 これまた見る見るうちに引きつって顔面蒼白になった。


(イヤだぁ、早く洗い流したーい……)


 どうやらアルティーには、薬の原料の正体がわかってしまったようだ。

「坊ちゃま……まだ続きますわよ」


※用語解説【ナラーダの魔法】

早川町の奈良田という地区には独特の方言が存在します。中には私たち山梨県民でも通じない言葉もあります。以下にいくつかの方言と意味を紹介します。

(※参考資料・早川町公式サイト「奈良田の方言」より)

あらく=焼畑の1年目

くな=焼畑の2年目

こなしま=焼畑の3年目

やぶやき=焼畑の火入れ

(奈良田では昭和30年ころまで焼畑農業がおこなわれていたそうです)

ほなる=火がおこる

ひじんまい=子どもの火遊び


さて……ここから下は行間を空けておきますので、心臓の弱い方は読まないようにお願いします。







かがみっちょー=トカゲ

あしったれ=アシナガバチ(脚長蜂)

みょーぎー=セミの一種

はっとーり=バッタ

きしゃだ=シラミの卵

ごーじ=便所のウジ(蛆)


アルティーには拷問以外の何物でもなかったでしょう(笑)。


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