第22話「私は駄天使ではありません」
「うわっ! オマエ!!」
「えっ、突然何ですか? ミコト様……」
王宮に向かう途中、アルティーを見たミコトが驚きの声を上げた。
「オマエさぁ、よく見たら……」
「なっ何ですか? 私……何かしましたか?」
「頭の上の『(環形)蛍光灯』どこへ落したんだよ!? あと、背中の羽と……」
「……は?」
※※※※※※※
「何を今さら……ミコト様は今まで何を見ていらしたのですか!?」
天使のアルティーはカンカンに怒った後、プク顔になっていた。
「だから悪かったって! だって違和感が全然なかったんだもん」
「宿を出るときから天使の輪と羽は隠していましたよ! 私の正体が街の人たちに知られたら大変なことになりますからね」
「大変なこと?」
「はい、この国の人たちは大変信心深いのです。もし私が天使の姿のまま街に降臨したら、皆さんがお導きを求め私の元に殺到してパニックになってしまいます」
「そ……そんなにオマエってすごいのか?」
「いえ、私は天の使いです! 女神さまへの願いごとを私に託されてしまうのですよ……国民全員から! そうなると願いごとの仕分け作業だけで何十年もかかってしまいます……ミコト様のお付きなんてとてもじゃないけどできません!」
「うわっ、過重労働じゃん」
「なので街に出るときは正体を隠します。天使の輪は……ここにありますよ」
と言うとアルティーは、少し頭を下げて頭頂部を指差した。ミディアムストレートでツヤのある銀色の髪の毛には「天使の輪」が光り輝いていた。
「て言うか蛍光灯じゃありませんよ! ちなみに羽は肩甲骨に隠してあります」
「そっそうだったんだ。あぁ、そういえばさぁ……」
「何ですか?」
「さっき、信心深いなんて話が出たが……この国の宗教ってキリスト教か?」
「いいえ、違います。この国で信仰されているのは『ショーセン教』です」
「……どっかで聞いたような名前だな」
「そして、民衆から崇められているのは我らが女神『センガターキ』さまです」
「なるほど……で、天使ってオマエ1人か?」
「いいえ、私の仲間は全部で100人以上はいると思いますよ」
「えっ、天使ってそんなにいるのか?」
「はい、正直なところ私も全員の名前は覚えきれておりません。新しく天使になる者もいれば、素行が悪くて地上に堕とされた……いわゆる『堕天使』もおります」
「堕天使って……やっぱいるんだ、要するに悪魔だよな? なぁなぁ、オマエの知り合いにもいるのか?」
「え? えぇ……まぁ……」
堕天使の話に食いついたミコトに対し、アルティーの口数が減った。
「なぁ、駄天使」
「私は堕天使ではありません、ってか同じ発音ですけど絶対に字が『堕』じゃなくて『駄』でしたよね!? 失礼です……で、何ですか?」
天使……カンが鋭すぎる。
「そんなに大勢いる中でオマエがアタシの担当になったのは何でだ?」
「はいっ! 私は今回ミコト様のお世話役として女神さまから『たまたま』指名されたのですよ…………正直他の天使が指名されればよかったのになぁ~って今になれば思いますけどねぇ~、ブツブツ……」
「おいっ、何か言ったか?」
「いいえー! 何でもございませーん!!」
アルティーはとびっきりの天使スマイルを見せ……駄天使に1歩近付いた。
※※※※※※※
「ん? あれは何だ?」
ミコトとアルティーが歩いていると、何やら1人の少年が数人の大人たちに絡まれているような光景が目に入ってきた。まるでカツアゲでもされている雰囲気だ。
少年を囲んでいる数人の大人たちは制服のようなものを着ている。ミコトたちが近付いてみると……
「おい君! 君の服装にはポケットがあるのじゃが! ポケットは16世紀から衣服に取り付けられるようになったので中世ヨーロッパには存在しない物じゃが!」
「えっ……あの……でっも、これはノシーレさんが……」
貴族風のいで立ちで、緑色のマッシュヘアをした少年はしどろもどろになっていた。そして、少年に「いちゃもん」をつけて取り囲んでいた大人たちは顔がジャガイモ……そう、彼らは「じゃがいも警察」だった。
「おい、オマエら!」
ミコトはじゃがいも警察に声を掛けた。
「ん? あ……あーっ! 君は先ほど閲覧したエクレア女じゃが!?」
「閲覧って表現おかしいだろ……ってか何だよエクレア女って? オマエら、まだこんな所に居やがったのか!? 俺様男(サレマーオ)が言ったようにとっとと歴史小説に行きやがれ!」
「うっうるさい! 歴史小説の書き手は頭が良いからマウント取れないが、異世界小説の書き手は知性のないネトゲ廃人だからマウントが取りやすいのじゃが(※もちろん偏見です)!! そういえばさっきの強面男(サレマーオ)がいないな……よし、エクレア女! 君を逮捕するじゃが!」
卑劣の塊、じゃがいも警察が一斉にミコトに襲い掛かった。ミコトは静かに
「ハンデメタメタゴッチョデゴイス」
と詠唱すると
「チョベチョベシテッド・ブサラウドーーーーッ!!」
じゃがいも野郎どもを全員ブッ飛ばした。
「おい、スライスして油で揚げて塩振ってポテトチップスにしてやろうか?」
「ひぃっ! 本官は高血圧じゃがら塩分だけは勘弁じゃが……」
(おいおい、スライスして油で揚げるのはいいのか?)
ミコトは心の中でツッコミを入れた。そると、意外にもポテトチップスは塩分が多くないらしい。
「オマエらっ、もう異世界に来るんじゃねーぞ! 今度見かけたら激辛ポテチにしてやっからな!」
「ひぃいいいい! 辛いのも苦手じゃがぁああ!」
ウザいじゃがいも警察は一目散に逃げていった。ミコトは、恐怖で足がすくみその場に座り込んでしまった気弱そうな緑髪の少年に手を差し出した。
「おい、大丈夫か?」
「あっはい、ありがとうございまし……あっ」
ミコトに手を引かれて立ち上がった少年は突然顔を赤らめた。
(あぁ、何て素敵な女性なのだろう……)
この「おもしれー女」の本性を知らない純粋そうな少年は……どうやらミコトに一目惚れしてしまったようだ。
「ハンデメタメタ続くでゴイス」




